刑法(強盗罪)

強盗罪(17) ~「強盗罪における実行の着手の時期」「強盗罪の既遂時期」を判例で解説~

強盗罪における実行の着手の時期

 強盗罪(刑法236条)の実行の着手の時期は、

財物強取の目的で、暴行・脅迫を加えた時

です。

 実行の着手があった時点で、財物の強取に失敗したとしても、強盗未遂罪は成立することになります。

 実行の着手があったかどうかが、強盗未遂罪の成否を分ける分岐点になります(犯罪の既遂と未遂の考え方について前の記事参照)。

 財物の強取が先に行われても、暴行・脅迫が行われていない限り、強盗罪の実行の着手があったとはいえません。

 相手方の抗拒不能状態を利用し、さらに暴行を加えたり、脅迫を加えたりした場合には、その暴行・脅迫を加えた時に実行の着手があったことになります。

 当初の暴行又は脅迫が、人の反抗を抑圧するに足りる程度のものではなく、次第にその程度が高くなって反抗を抑圧するに足りる程度に至った場合には、当初の暴行・脅迫の時期に実行の着手があったと考えるべきとされます。

 これは、全体として暴行・脅迫を一括して考えざるを得ないし、反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫の間に、その程度にいたらない暴行・脅迫が入ることもあるためです。

強盗罪の既遂時期

 強盗罪の既遂時期は、

財物を取得した時点

であり、この時点で強盗罪は既遂に達するというのが基本的な考え方になります。

 なお、財物をまず奪取し、次いで暴行・脅迫を加えた場合には、

暴行・脅迫により、その財物の所持を確保した時点

が強盗罪が既遂に達する時点となります。

強盗罪の既遂時期に関する判例

 強盗罪の既遂時期が「財物を取得した時点」としている判例として、以下の判例があります。

名古屋高裁金沢支部判決(昭和26年2月12日)

 この判例で、裁判官は、

  • ある人が暴行又は脅迫を手段として、他人の財物を奪取し、財物を自己の支配内に移すに至った場合、その者が該物件を、自由に処分し得るような安全な場所に持ち去るまでもなく、財物を自己の支配に移しただけで、強取行為は直ちに完了し、ここに強盗既遂罪の成立を見るに至ることは、刑法第236条の解釈上、疑を容れないところである
  • 被告人並びに被告人T、Yの3名は、合計約400万円の現金を取得して、被害者M方を立ち去ろうとしたが、被害者Mの唱える念仏に、被告人Tの良心がにわかによみがえり、悔情のあまり、共犯者である被告人らに告げないで、ひそかに右金員の全部をそのまま被害者M方に差し置いて、他の2名と共に同所を立ち去ったと言うのである
  • 果して、事実がその通りであるとすれば、被告人らの所為は、脅迫を手段として被害者Mの反抗を抑圧し、Mよりその所有に係る現金400万円を奪い取り、一応これを被告人らの完全な実力支配の下に収めしまったものとして、刑法第236条に定める強盗既遂の罪に該当するものであることが明白である

と判示し、財物を強取した時点で強盗罪は既遂に達しており、その後に財物を返還していても強盗未遂罪にはならないとしました。

最高裁判決(昭和24年12月3日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人らは、在宅の家人5人全部を縛り上げ目隠しをした後、1時間にわたり家内の金品を取り出し現金をポケットに入れ、衣類等は行李、リックサックにつめ込み、風呂敷に包み、一部は着込み、あるいは懐中したのであって、金品を自己の実力支配内においたことは明らかであるから、原判決が強盗既遂の認定をしたことは正当である
  • そして、被告人らが右金品を戸外に持ち出す前現場で逮捕されたことは、強盗既遂の認定を左右するものではない

と判示し、財物を取得した時点で強盗罪は既遂に達しているとして、強盗罪の既遂を認定しました。

最高裁判決(昭和24年6月14日)

 この裁判で、まず、被告人の弁護人は、

  • 被告人は、品物を犯罪の現場から持ち出さず、すなわち、自己の支配下に置いたと言い得ない状態で逮捕されたのであって、まだ他人の財物を強取したと言いえない強盗未遂であるのに、原判決がそれを既遂として処断したのは、法律の適用を誤ったものだ

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 被告人は、共犯者らと共に、被害会社の事務所に押し入り、居合わせた男女事務員の全部を縛って全然抵抗し得ず、奪われた物を取り返し得ない状態に置き、洋服類は着込み、その他の物は荷造りして持ち出すばかりにしたところを、警察隊に踏み込まれて捕縛(逮捕)されたのである
  • 既に物の支配を取得したと言い得るのであり、窃盗罪についてではあるが、盗品が犯行の場所から持出される前に既遂を認定した判例が大審院以来繰り返されているのであって、強盗罪についても、この点は同様である

と判示し、強盗罪の既遂を認定しました。

 この判例は、強盗目的で事務所に押し入り、居合わせた事務員全員を縛って、そこにあった洋服類を着込み、その他の物は荷造りをして持ち出すばかりにしていた以上は、それらの荷物を屋外に持ち出さなくても、強盗の既遂をもって論ずべきであると判断したものです。

札幌高裁判決(昭和27年11月24日)

 この判例は、被害者の鞄を奪って、階段を2、3段を下りたところで奪還された事案について、強盗罪の既遂と認定しました。

 裁判官は、

  • 奪取罪(強窃盗)は、被害者の所持を奪って被告人の所持に移したときに既遂となるのであって、被告人の所持が継続することは、既遂の要件ではない
  • 被告人は、被害者Aの所持する鞄を奪って自己の所持に移した後、階段を2、3段下りたところで被害者から取還されたことが明かであるから、たとい奪取と取還とが、場所的時間的に極めて接着した情況にあっても、強盗の既遂とあずかるベきである

と判示し、強盗罪の既遂を認定しました。

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