刑事訴訟法(捜査)

押収(差押え・領置)とは?① ~「差押えと領置の違い」「押収拒絶権」「錯誤による領置」「ゴミ・郵便物の領置」を判例などで解説~

押収とは?

 捜査機関(検察官、検察官、検察事務官)は、刑事裁判において、犯罪を証明し、犯人を法律に従って処罰できるようにするために、証拠物を収集します。

 捜査機関が、刑事裁判で犯罪を証明するために、証拠物を収集する行為を

押収

といいます。

 さらに、押収は、

  1. 差押え(強制的に証拠物を取得する行為)
  2. 領置(任意に証拠物を取得する行為)

の2種類に分けられます。

① 差押えとは?

 差押えとは、

裁判官の発する令状により、証拠物を強制的に取得する処分

をいいます(刑訴法218条219条222条)。

 この時、裁判官が発する令状を差押令状といいます。

 犯罪捜査は、任意捜査が原則です。

 しかし、任意捜査では、証拠物の所有者が、捜査機関に対し、証拠物の提出を拒否した場合、証拠物を押収できず、検察官が裁判において犯罪を証明できません。

 なので、任意では捜査を遂行できないときは、裁判官から令状をとって、差押えなどの強制捜査を行うのです。

押収拒絶権

 たとえ、裁判官の発する令状があったとしても、捜査機関による証拠物の差押えを拒絶できる場合があります。

 これを

押収拒絶権

といいます(刑訴法103条104条105条)。

 押収拒絶権を行使できるのは、以下の職業にある人たちに限られます。

  1. 公務員
  2. 弁護士
  3. 医師
  4. 歯科医師
  5. 助産師
  6. 看護師
  7. 弁理士
  8. 公証人
  9. 宗教職

 これらの職にある人たち(以下「公務員・弁護士等」と呼ぶことにします)は、公務上の秘密や、他人の秘密を扱う人たちです。

 公務員・弁護士等に押収拒絶権が認められている理由は、公務上の秘密や個人のプライバシーを保護するためです。

 押収を拒絶できる対象となる物は、

  • 国の重大な利益に関する公務上の機密に関するもの
  • 他人の秘密に関するもの

です。

 公務上の機密や他人の秘密に関する物であれば、公務員・弁護士等は、捜査機関が裁判官の発した差押令状を持って証拠物を差し抑えに来ても、たとえば、

公務員が

「これは国の重大な利益に関する公務上の秘密に当たる物なので、押収されることを拒否します」

と言ったり、

弁護士が

「これは他人の秘密に当たる物なので、押収されることを拒否します」

と言えば、差押えを拒否することができます。

 捜査機関が、裁判官の発する令状があるからといって、公務員・弁護士等の差押拒否の意向を無視して、こられら秘密に当たる物を差し押さえた場合は、違法行為になります。

 押収拒絶権を行使した例として、日産自動車の元会長カルロス・ゴーン被告の弁護人が、弁護士事務所にあるゴーン被告のパソコンについて、押収拒絶権を使って、東京地検によるパソコンの差押え拒否した事例があります(ニュース記事リンク)。

② 領置とは?

 捜査機関が、事件関係者などから、任意に証拠物の提出を受けて取得する行為を

領置

といいます。

 根拠法令は、刑訴法221条にあり、

『検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる』

と規定します。

 領置の対象物は、

人から任意に提出された物

(「任意提出物」と呼ばれる)

のほか、

遺留された物(置き去りにされたり、捨てられた物)

(「遺留物」と呼ばれる)

も含まれます。

領置に関する判例

相手をだます方法(錯誤させる方法)による領置は違法である

 証拠物の任意提出者をだます方法(錯誤させる方法)により、証拠物を領置することは違法となります。

 この点、東京高裁判例(平成28年8月23日)があります。

 この判例では、警察官が、警察官の身分を隠し、犯人のDNA型検査の資料を得るため、犯人に紙コップを手渡してお茶を飲むように勧め、犯人から、犯人の唾液(DNA型検査の資料)がついた紙コップを回収して領置した行為が違法と判断されました。

 裁判官は、

『被告人の錯誤に基づいて,紙コップを回収したことが明らかである』

『身柄を拘束されていない被告人からその黙示の意思に反して唾液を取得した本件警察官らの行為は,違法といわざるを得ない』

と判示し、証拠物の提出者をだます方法(錯誤させる方法)により、証拠物を領置することは違法であるとしました。

 証拠物は、相手の同意を取った上で任意に提出を受けて領置するか、相手が任意で証拠物を提出しないのであれば、裁判所から差押令状をとって、強制手続で証拠物を差し押さえる必要があります。

ゴミ集積所に捨てられたゴミは、遺留物として適法に領置できる

 ゴミ集積所に捨てられたゴミについて、捜査機関が、遺留物として勝手に領置できるかが、裁判で争われたことがあります。

 結論として、ゴミ収集所に捨てられたゴミも、遺留物として、適法に領置できます。

 この点、最高裁判例(平成20年4月15日)において、裁判官は、

『排出されたごみについては,通常,そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても,捜査の必要がある場合には,刑訴法221条により,これを遺留物として領置することができる』

と判示しました。

 ゴミ集積所のゴミについては、遺留物として領置するほか、ゴミの所有者や管理者から提出を受ける方法で領置することもできます。

 マンションの共用のゴミ集積所に捨てられたゴミについて、ゴミの占有は、マンションの管理会社から委託を受けた清掃会社に移転したとして、清掃会社からゴミの任意提出を受けて領置し、ゴミの内容物を確認することができると判示した判例があります(東京高裁判例:平成30年9月5日)。

郵便物は任意提出による領置はできない

 郵便局や運送業者にある郵便物については、郵便局員などが捜査機関に郵便物を任意提出する方法で領置することはできません。

 これは、郵便物については、憲法2条Ⅱにより、通信の秘密が保障されているためです。

 憲法21条Ⅱでは、

『通信の秘密は、これを侵してはならない』

と規定しています。

 郵便物などの通信文書の通信の秘密が侵害されないことは、憲法で保障されている権利なのです。

 もし、捜査機関が、犯罪を証明するために、郵便局や運送業者から、郵便物を押収したければ、裁判所から差押令状の発付を受け、強制手続により差し押さえる必要があります。

郵便物などの通信文書の差押えのルール

 郵便物など通信文書を、郵便局などの郵便事業所から強制手続により差し押さえるルールは、通常の差押えのルールと異なります。

 その異なる点については、刑訴法100条に規定があり、

  1. 裁判所は、被告人から発し、又は被告人に対して発した郵便物、信書便物又は電信に関する書類で法令の規定に基づき通信事務を取り扱う者が保管し、又は所持するものを差し押え、又は提出させることができる
  2. 前項の規定に該当しない郵便物、信書便物又は電信に関する書類で通信事務を取り扱う官署その他の者が保管し、又は所持するものは、被告事件に関係があると認めるに足りる状況のあるものに限り、これを差し押え、又は提出させることができる
  3. 前2項の規定による処分をしたときは、その旨を発信人又は受信人に通知しなければならない。但し、通知によって審理が妨げられるおそれがある場合は、この限りでない

とあります。

 この条文の要点をまとめると、

  • 「被疑者・被告人の郵便物」と「事件に関係のある郵便物」については、差し押さえることができる
  • 「被疑者・被告人のものではない郵便物」と「事件に関係のない郵便物」については、差し押さえることができない

ということです。

 このルールに反して、郵便局などの郵便事業所から郵便物の差押えを行うと、令状があったとしても違法行為になります。 

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