被疑者とは?
被疑者とは、
犯罪を犯した疑いのある人で、まだ裁判にかけられていない人
をいいます。
被疑者になるのは人だけでありません。
法人(会社)も被疑者になって、裁判にかけられることがあります。
企業犯罪といわれるもので、労働基準法違反(労働者に時間労働をさせる、賃金を払わない)や、脱税などがあります。
被疑者は、被告人に呼び名が変わる
被疑者は、裁判にかけられると(事件を検察官に起訴されると)、呼び名が「被疑者」から「被告人」に変わります。
被疑者の段階では、検察官・警察官は、被疑者より上の立場から取調べなどの捜査を行います。
しかし、被告人の段階になると、検察官・警察官と被告人は、裁判の当事者として、対等な立場に変わります。
なので、検察官・警察官は、被告人に対しては、上の立場をとって取調べなどの捜査ができなくなります。
被疑者と被告人の考え方を整理すると
- 裁判にかけれていない人➡被疑者
(上の立場である検察官・警察官から捜査される立場)
- 裁判にかけれれた人➡被告人
(検察官・警察官と対等な存在として裁判を戦う立場)
となります。
被疑者・被告人の権利
犯罪を犯した悪いやつとはいえ、被疑者と被告人の両方に認められている権利があります。
それが、
① 弁護人選任権
です。
また、被疑者に限り、弁護人選任権のほか、
② 出頭拒否権・取調べ拒否権
③ 被疑者の供述拒否権(黙秘権)
という権利が認められています。
以下で①~③の権利について解説します。
① 弁護人選任権
被疑者・被告人は、いつでも弁護人を選任することができます。
弁護人とは、弁護士のことです。
刑事事件では、弁護士のことを、『弁護人』と呼びます。
そういうものだと思ってください。
被疑者・被告人が、いつでも弁護人を選任することができる権利を
弁護人選任権
といいます。
被疑者・被告人には、弁護人選任権があるので、警察などの捜査機関が自分たちの都合で、被疑者・被告人に対し
「今は忙しいから弁護人を頼むことはできない」
などと言って、被疑者・被告人の弁護人を頼む権利を阻害すると、違法行為になります。
弁護人選任権の根拠法令
憲法34条は、
『何人も、理由を直ちに告げられ、かつ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない』
と規定し、逮捕されて身体の拘束を受けた被疑者の弁護人依頼権を保障しています。
『被告人または被疑者は、何時でも弁護人を選任することができる』
と規定し、朝でも夜でも、また、逮捕・勾留による身体を拘束の有無を問わず、弁護人を依頼し、選任できることを明記しています。
弁護人の選任方法
【弁護人を選任できる人】
被疑者・被告人自身が、弁護人を選任することができるのは当然ですが、被疑者・被告人に近しい人も、被疑者・被告人とは独立して、被疑者・被告人のために弁護人を選任できます。
被疑者・被告人に近しい人とは、
です(刑訴法30条2項)。
被疑者・被告人自身が、弁護人を選任するときは、警察官か検察官に対して、
弁護人選任届
という書面に、被疑者・被告人自身の名前を書いて提出します(刑訴法規則17条)。
上記の被疑者・被告人に近しい人たちも、自分自身の名前を「弁護人選任届」に記載して、被疑者・被告人のために弁護人を選任できます。
【弁護人を見つける方法】
弁護人を選任するにあたり、まず弁護人の仕事を受けてくれる弁護士を探す必要があります。
知り合いに弁護士がいる場合は、その人に「弁護人なってほしい」とお願いすればよいですが、弁護士が知り合いにいる人はほとんどいないでしょう。
なので、通常、「弁護士会」という複数の弁護士が所属する団体に対し、弁護人の選任の依頼をすることになります。
刑訴法31条の2において、
『弁護人を選任しようとする被告人又は被疑者は、弁護士会に対し、弁護人の選任の申出をすることができる』
『弁護士会は、その選任の申出を受けた場合は、速やかに、所属する弁護士の中から弁護人となろうとする者を紹介しなければならない』
と規定し、弁護士会は、被疑者・被告人からの依頼があれば、弁護人を紹介するのが法的義務になっています。
【逮捕・勾留されているときに弁護人を見つける方法】
逮捕・勾留されて身体を拘束されている被疑者・被告人は、どうやって弁護人を探せばよいのでしょうか?
逮捕・勾留されている場合は、裁判官・検察官・警察官・刑務官に対し、
「弁護士会に連絡をとって弁護人を選任してくれ」
と頼むことで弁護人を探します。
弁護人の選任を頼まれた裁判官・検察官・警察官・刑務官は、弁護士会に対して、被疑者・被告人から弁護士選任の申出があったことを連絡することになります。
そして、連絡を受けた弁護士会が、被疑者・被告人に弁護人をつけてくれます。
(当然ですが、弁護費用を払うのは、被疑者・被告人であり、多額のお金がかかります)
これにより、逮捕・勾留されている被疑者・被告人でも、弁護人を自分につけることができます。
刑訴法78条(78条は被告人に対する規定ですが、209条で被疑者にも78条の規定が適用される設計になっている)において、
『(逮捕・勾留された被疑者・被告人は)、裁判所又は刑事施設の長もしくはその代理者に弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる』
『前項の申出を受けた裁判所又は刑事施設の長もしくはその代理者は、直ちに被告人の指定した弁護士、弁護士法人又は弁護士会にその旨を通知しなければならない。』
と規定し、被疑者・被告人に弁護人の選任を申し出る権利を保障しています。
もし、裁判所や捜査機関が、被疑者・被告人から弁護人選任の申出をされたのに、直ちに対応しなかった場合、それは違法行為になります。
逮捕・勾留された被疑者に対する国選弁護人の選任
弁護人を頼むのは、多額のお金がかかります。
お金がない人は弁護人を選任できません。
この問題を解消するために、逮捕・勾留されている被疑者については、国の費用(税金)で弁護人をつけることができます。
国の費用で選任される弁護人を「国選弁護人」といいます。
(なお、逮捕・勾留されていない被疑者に対しては、国選弁護人が付されることはありません)
刑訴法37条の2で、
『被疑者に対して勾留状が発せられている場合において、被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判官は、その請求により、被疑者のため弁護人を付さなければならない。』
と規定しています。
この規定に基づき、裁判官は、お金がない被疑者に対して、国の費用で弁護人を付すことになります。
ちなみに、「お金がない」とは、持ち金が50万円未満の場合をいいます(刑訴法36条の2の資産及び同法第36条の3第1項の基準額を定める政令2条)。
持ち金が50万円以上ある逮捕・勾留されている被疑者は、国選弁護人を選任できません。
被告人に対する国選弁護人の選任
逮捕・勾留された被疑者のほか、被告人に対しても、国選弁護人を付すことができます。
憲法37条3項において、
『被告人が自らこれ(弁護人)を依頼することができないときは、国でこれを付する。』
と規定しています。
裁判のド素人である被告人が、弁護人の助けなしに、自力で裁判に臨むのは困難を伴います。
なので、裁判官は、被告人が弁護人を依頼できない場合は、国の費用で弁護人(国選弁護人)を付すのです。
「逮捕・勾留されている被疑者に対する国選弁護人の選任」は、被疑者の持ち金が50万円未満の場合に付すことができるという制約がありました。
しかし、「被告人に対する国選弁護人の選任」は、持ち金50万円未満という制約はありません。
持ち金が50万円以上であっても、裁判所は、被告人に対して、国選弁護人を付すことができるのです。
ただし、裁判が終わった後、訴訟費用というかたちで、国選弁護人費用を裁判所から請求される可能性があります。
② 被疑者の出頭拒否、取調べ拒否権
被疑者・被告人には、弁護人選任権があることを説明しました。
次に、被疑者のみに与えられている権利である
出頭拒否権・取調べ拒否権
について説明します。
逮捕・勾留されていない被疑者は、警察や検察などの捜査機関から、取調べや事情聴取のための出頭を求められたときは、出頭を拒否し、また、取調べも拒否して帰ることができます。
出頭拒否権、取調べ拒否権の根拠法令は、刑訴法198条1項にあり、
『検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。ただし、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる』
と規定しています。
ここで注意すべきは、出頭拒否権・取調べ拒否権があるからといって、
「逮捕・勾留されてないから、警察や検察の出頭要請や取調べ要請を無視しよう」
などと考えて、警察や検察の要請を無視することです。
なぜなら、正当な理由なく、出頭や取調べを拒否すると、
逮捕・勾留される
からです。
逮捕・勾留されるということは、突然、社会から消えることを意味し、場合によっては、マスコミにテレビや新聞を報道され、犯罪者として世間に名前をさらされます。
不出頭で逮捕されることの根拠法令は、刑訴法199条1項にあり、
『検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。』
と規定しています。
この条文は、正当な理由のなく出頭拒否や取調べ拒否をすれば、それが逮捕を必要とする理由となり、実際に逮捕・勾留されることを意味しています。
ちなみに、逮捕・勾留されている被疑者に対しては、出頭拒否権と取調べ拒否権はありません。
逮捕され、警察署などの留置施設に勾留されているので、出頭や取調べの必要があれば、手錠をかけられて強制的に取調べの場に連れていかれるからです。
③ 被疑者の供述拒否権(黙秘権)
最後に、被疑者に与えられている権利である
供述拒否権(黙秘権)
について説明します。
供述拒否権(黙秘権)とは、
話したくないことは話さなくてもいい
という権利です。
逮捕・勾留されていようといまいと、被疑者は、取調べにおいて、言いたくないことは言わなくていいという権利を持っているのです。
供述拒否権(黙秘権)の根拠法令は、刑訴法198条2項にあり、
『(検察官、検察事務官又は司法警察職員は、)取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない』
と規定しています。
「自己の意思に反して供述をする必要がない」とは「話したくないことは話さなくてもいい」という意味です。
これは、「自分に不利になることは、無理に言わなくてもいい」、つまり、「捜査機関から自白を強要されない」という犯罪捜査のルールから導かれる考え方です。
憲法38条において、
『何人も、自己に不利益な供述を強要されない』
と規定し、被疑者は、捜査機関から自白を強要されないことが保障されています。
しかし、捜査機関から自白を強要されないからといって、だんまりを決め込むのはおすすめできません。
捜査機関は、被疑者に自白を強要できない代わりに、家宅捜索、証拠品の差押、関係者の取調べなど、協力な捜査権限を持っています。
だんまりを決め込めば決め込むほど、「私が犯人です」と言っているようなものなので、捜査機関は、その強大な捜査権限を使って、被疑者の身の回りのあらゆるものを調べ尽くすでしょう。
そして、捜査により犯罪が立証されれば、だんまりを決め込んだ被疑者は、「犯罪を犯したのに全く反省していない」という評価がくだされるので、より重い刑罰を受けることになるでしょう。
供述拒否権(黙秘権)があるからといって、何も話さないのは、
犯罪を犯しても、反省しない悪いヤツ
に見えてしまうので、裁判になれば、裁判官から、より重い裁きを受けることにつながるので、注意が必要です。