刑事訴訟法(捜査)

緊急逮捕とは? ~「緊急逮捕の要件・合憲性」「逮捕時の実力行使の適法性」「緊急逮捕状の請求」を通常逮捕・現行犯逮捕との違いを踏まえて解説~

緊急逮捕とは?

 緊急逮捕とは、

急速を要し、裁判官に逮捕状を求めることができないときに、逮捕理由を告げて被疑者を逮捕し、逮捕後に裁判官に逮捕状の発布を求める逮捕形態

をいいます(刑訴法210条1項)。

通常逮捕との違い

 緊急逮捕が通常逮捕と異なる大きな点は、逮捕状の発布を事後的に(被疑者を逮捕してから)裁判官に求める点にあります。

 通常逮捕の場合は、事前に逮捕状を裁判官に請求し、逮捕状が発布された状態で被疑者を逮捕します。

現行逮捕との違い

 現行犯逮捕の場合は、そもそも逮捕状が発布されません。

 通常逮捕のように事前の逮捕状の発布はありませんし、緊急逮捕のように事後の逮捕状の発布もありません。

 現行犯逮捕の場合は、犯人が現に犯罪を犯したのを目撃したところで逮捕を行うものなので、誤認逮捕になるおそれがなく、令状の発布は不要とされています。

緊急逮捕を行うことができる者

 緊急逮捕を行うことができる者は、

  • 検察官
  • 検察事務官
  • 司法警察職員(司法警察員、司法巡査)

です(刑訴法210条1項)。

通常逮捕との比較

 通常逮捕を行える者も、

  • 検察官
  • 検察事務官
  • 司法警察職員(司法警察員、司法巡査)

であり、緊急逮捕の場合と同じです。

現行犯逮捕との違い

 現行逮捕を行える者は、

  • 検察官
  • 検察事務官
  • 司法警察職員(司法警察員、司法巡査)
  • 一般人

であり、一般人も現行逮捕を行うことができる点が、緊急逮捕、通常逮捕の場合と異なります。

 現行犯逮捕の場合は、犯人が現に犯罪を犯したのを目撃したところで逮捕を行うものなので、誤認逮捕になるおそれがない上、その場で逮捕する必要性が高いことから、一般人でも逮捕行為を行うことができるのです。

 現行犯逮捕の例として、客が万引きをしたところを目撃したスーパーの店員が、客をその場で現行犯逮捕する場合があります。

逮捕における実力行使の適法性

 逮捕現場においては、被疑者が抵抗して、暴力行為に出る状況が大いに想定されます。

 なので、逮捕しようとするときに、被疑者から抵抗を受けた場合は、警察官などの逮捕実行者は、

社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力行使

をすることができます。

 たとえば、実力行使の内容として、

  • 暴れる被疑者を地面に倒して抑えつける
  • 刃物を持って切りつけきた被疑者に対し、警棒を振りかざして応戦する

などが考えられます。

 警職法7条により、公務の執行にあたり、警察官が武器を使用することも認められています。

 このような実力行使において、被疑者にケガをさせたとしても、正当業務行為として、違法性が阻却され、警察官などが傷害罪などの罪に問われることはありませ(刑法35条)。

 この点については、最高裁判例(昭和50年4月3日)があり、裁判官は、

『現行犯逮捕をしようとする場合において、現行犯人から抵抗を受けたときは、逮捕をしようとする者は、警察官であると私人であるとをとわず、その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許され、たとえその実力の行使が刑罰法令に触れることがあるとしても、刑法35条により罰せられないものと解すべきである』

と判示しています。

 この判例は、現行犯逮捕について述べていますが、通常逮捕、緊急逮捕でも同様の判断になると考えられます。

緊急逮捕の要件

 緊急逮捕を行うことができる要件は、

逮捕罪名が、死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由

があり、かつ、

急速を要し、裁判官に逮捕状を求めることができない場合

です。

 緊急逮捕は、裁判官に逮捕状を請求し、逮捕状の発布を待っていたのでは、犯人をとり逃がしてしまうような状況で行われます。

 たとえば、殺人罪を犯して逃走中の被疑者が急に発見されたが、逮捕状を請求をして逮捕状の発布を待つ時間的余裕がなく、緊急に犯人の身体を拘束する必要がある場合は、被疑者を緊急逮捕することになります。

 逮捕状を事後的に裁判官に請求するものであることから、ある程度重い罪に対してのみ、緊急逮捕を行うことが認められています。

緊急逮捕の逮捕理由

 緊急逮捕は、逮捕理由として、

逮捕罪名が、死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由

が必要とされます。

通常逮捕との違い

 通常逮捕は、刑訴法199条に規定があり、

『検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる』

と定められています。

 逮捕理由は、

被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき

となります。

 緊急逮捕(刑訴法210条1項)の逮捕理由が

『充分な理由』

であるのに対し、通常逮捕(刑訴法199条1項)の逮捕理由は

『相当な理由』

である点に違いがあります。

 これは、緊急逮捕を行うには、通常逮捕よりも、犯罪を犯したとする高度の嫌疑が必要であることを意味します。

 この理由は、緊急逮捕は、逮捕後に、事後的に裁判官に逮捕状の請求をするものであり、裁判官の事前審査を経ていないため、逮捕行為をより慎重にさせる必要があるためです。

緊急逮捕後の緊急逮捕状の請求

緊急逮捕状は『直ちに』請求しなければならない

 緊急逮捕後は、直ちに、裁判官に対して、緊急逮捕状の請求を行わなければなりません(刑訴法210条1項)。

 この緊急逮捕状の請求は、「直ちに」に行わなければなりません。

 もし、緊急逮捕状の請求を後回しにして、直ちに行わなかった場合、違法逮捕とされる可能性があります。

緊急逮捕状の請求権者

 緊急逮捕状の請求権者は、

  • 検察官
  • 検察事務官
  • 司法警察職員(司法警察員、司法巡査)

です。

通常逮捕との違い

 通常逮捕の請求権者は、

  • 検察官
  • 階級が警部以上の司法警察員

に限定されており、検察事務官と司法巡査は、通常逮捕状を請求することはできません(刑訴法199条2項)。

 通常逮捕状の請求は、裁判官の事前審査を受けるものであり、緊急性があるわけではありません。

 なので、逮捕状の請求の慎重を期すため、請求権者を能力の高い者に限定しているのです。

 これに対し、緊急逮捕状の請求は、検察事務官と司法巡査でもできます(刑訴法210条1項)。

 緊急逮捕の場合は、

  • すでに被疑者を逮捕済みであり、逮捕の必要性を検討する段階にない
  • 緊急逮捕後、直ちに緊急逮捕状を請求しなければならない

ことから、検察事務官と司法巡査にも逮捕状の請求権が認められています。

緊急逮捕後、捜査機関の判断で釈放した場合の緊急逮捕状の請求

 緊急逮捕後、捜査機関の判断で被疑者を釈放した場合でも、緊急逮捕状の請求を行わなければなりません。

 「被疑者を釈放したから、緊急逮捕状は請求しなくていいや」

とはならないのです。

 これは、緊急逮捕を行った以上は、被疑者を釈放しようがしまいが、緊急逮捕を行った事実について裁判官の審査を受ける必要があるためです。

 この点について、犯罪捜査規範120条3項に定めがあり、

『被疑者を緊急逮捕した場合は、逮捕の理由となった犯罪事実がないこと、もしくはその事実が罪とならないことが明らかになり、または身柄を留置して取り調べる必要がないと認め、被疑者を釈放したときにおいても、緊急逮捕状の請求をしなければならない』

と規定しています。

裁判官による緊急逮捕要件の有無の審査

 緊急逮捕状の請求を受けた裁判官は、捜査機関が作成した資料を確認し、緊急逮捕を行うことができたとする要件である

  • 逮捕罪名が、死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由
  • 急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができない理由

の有無を審査します。

 この要件は、緊急逮捕を行った時点までに存在した資料によって判断されます。

 この点について、最高裁判例(昭和25年6月20日)があり、裁判官は、

『緊急逮捕そのものの適法性は緊急逮捕の時において存して居ればいい』

と述べており、緊急逮捕の時点までに存在した資料で緊急逮捕の適法性が判断されるとしています。

 緊急逮捕のあとに、事後的に作成された資料は、緊急逮捕の適法性を判断するための審査資料にはなりません。

緊急逮捕状が発布されなかった場合は被疑者を釈放することになる

 裁判官の審査の結果、緊急逮捕状が発布されなかった場合は、被疑者を直ちに釈放することになります(刑訴法202条1項)。

緊急逮捕の合憲性

 緊急逮捕は、事後的に逮捕状を裁判官に請求するものの、逮捕状なしに被疑者を逮捕するものです。

 そのため、緊急逮捕は、憲法33条

『何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、…令状によらなければ、逮捕されない』

という規定に反しており、違憲ではないかどうかが争われたことがあります。

 結論として、緊急逮捕は合憲であることが、最高裁判例(昭和30年12月14日)で示されています。

 この判例で、裁判官は、

  • 刑訴210条(緊急逮捕の規定)は、死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足る充分な理由がある場合で、かつ、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができるとし、そしてこの場合、捜査官憲は直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をなし、もし逮捕状が発せられないときは直ちに被疑者を釈放すべきことを定めている
  • このような厳格な制約の下に、罪状の重い一定の犯罪のみについて、緊急やむを得ない場合に限り、逮捕後、直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発行を求めることを条件とし、被疑者の逮捕を認めることは、憲法33条規定の趣旨に反するものではない

と判示し、緊急逮捕は合憲であると判断しました。

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