窃盗罪における違法性
犯罪は
- 構成要件該当性
- 違法性
- 有責性
の3つの要件がそろったときに成立するというルールになっています(詳しくは前の記事参照)。
犯罪行為を行っても、その行為に「違法性」が認められなければ、犯罪は成立しません。
窃盗罪の構成要件に該当する行為を行っても、その行為に対し、違法性を欠く要素(『違法性阻却事由』という)があれば、窃盗罪は成立しません。
窃盗罪における『違法性阻却事由』は、
- 被害者の承諾
- 窃盗犯からの被害品の取戻し
が挙げられます。
① 被害者の承諾
被害者の承諾を得て、財物の占有を取得する行為は、窃盗罪になりません。
たとえば、友人に「そこにあるお菓子もって帰っていいよ」と言われ、そのお菓子をもって帰った場合、そこには「お菓子をもって帰っていい」という承諾があるため、窃盗罪は成立しません。
窃盗罪について、被害者の承諾は、窃盗罪の違法性を阻却する事由になります。
余談
なお、窃盗罪の場合には、そもそも、窃盗罪の構成要件である「窃取」という概念そのものが「被害者の意思に反して奪取する」という意味を有しています。
そのため、被害者の承諾がある場合には、違法性を阻却するほかに、窃盗罪の構成要件該当性自体を阻却するため、窃盗罪が成立しないという考え方も同時に成立します。
承諾をなすべき被害者
窃盗罪の違法性を阻却する有効な承諾ができる被害者は、
その財物の占有者(財物の持ち主や管理者)
です。
財物の占有者でない者が、窃盗犯人に対し、財物を窃取することの承諾を与え、犯人においても、承諾を与えた者が財物の占有者でないことを分かっている場合には、窃盗罪の違法性を阻却せず、窃盗罪が成立します。
たとえば、友人Aの家に、犯人と犯人の知人Bが行き、友人Aがいない隙に、知人Bが、犯人に対し、
「Aは俺の下僕だから、このAの腕時計を持って行っていいよ」
と言って、犯人がAの腕時計を持ち去ったとします。
この時、知人Bは、被害品の持ち去りの承諾をなせる被害者に当たらないので、犯人に対し、窃盗罪が成立します。
被害者の同意には推定的承諾も含まれる
被害者の承諾には、
事前に明示された承諾のみならず、推定的承諾も含まれる
と解されています。
推定的承諾とは、
被害者の現実的な承諾はないが、仮に被害者が事情を知っていたら承諾したであろうと認めらえる承諾
をいいます。
たとえば、献血センターに行き、テーブルの上に置かれているお客様用お菓子を勝手に持ち帰ったとしても、そこには献血センター長の「ご自由にお持ち帰りください」という推定的承諾があると認められるので、窃盗罪は成立しません。
被害者の承諾が問題になった判例
被害者の承諾の有無が問題となった事案として、以下の判例があります。
この判例は、「被害者の承諾はなかった」として、窃盗罪の成立を認めた判例になります。
福岡高裁判例(昭和44年4月9日)
屋内の釣堀で、指定された方法手段によらないで、コイを取得した取得した事案で、裁判官は、
- 本件釣堀で釣り上げる魚は、その口に釣針がかかり、その釣糸をつまんで引き上げる方法によってのみ取得すべきものであって、これ以外の方法・手段で魚を取得するのは許さないものである
- これを承知の上、釣りをする顧客に対してのみ、そのもとめに応じるものであったと認められる
と判示し、被告人が、水槽に手を入れてコイつかみ上げ持ち去った行為に対し、被害者の承諾がなかったとして、窃盗罪の成立を認めました。
② 窃盗犯からの被害品の取戻し
被害者が、窃盗犯から自己の財物(被害品)を取り戻す行為は、
として、違法性を阻却する事由になります。
たとえば、コンビニでパンを万引きした犯人から、コンビニ店員がそのパンを取り戻す行為をしても、自救行為・正当防衛行為として、窃盗罪は成立しません。
ちなみに、窃盗犯からの被害品の取戻し行為は、窃盗罪(刑法235条)の「他人の財物を窃取する」という構成要件該当性を充足しないことからも、窃盗罪を成立させません。