公判前整理手続とは?
公判前整理手続(こうはんぜんせいりてつづき)は、
刑事裁判の充実・迅速化を図ることを目的とし、第1回目の公判を行う前に、裁判所主催の下、裁判官、検察官、被告人・弁護人が集まり、事件の争点や証拠を十分に整理する話し合いを行い、審理計画を策定する手続
です(刑事訴訟法316条の2~32)。
公判前整理手続の位置付け
公判前整理手続は、裁判所が主宰する公判準備と位置付けられています。
予断排除の原則との関係
公判前整理手続は、裁判所が、第1回目の公判の前に、起訴状記載の公訴事実や、検察官・被告人の主張や証拠の内容に触れることとなるので、予断排除の原則(裁判所は第1回目の公判には、事件についての偏見又は予断を持たすに審理に臨まなければならないとする原則)に抵触しないかが問題となります。
この点につき、公判前整理手続は、
- 当事者(検察官、被告人・弁護人)が参加する場において行われる公平な手続であること
- 裁判官が事件の実体に関する心証形成を目的とするものではないこと
から、予断排除の原則に抵触するものではないとされます。
公開主義(裁判公開の原則)との関係
公判前整理手続は、公判準備なので、公開主義(裁判公開の原則)(刑訴法282条)の適用はありません。
よって、公判前整理手続を傍聴人がいる公開の法廷で行うことを必要としません。
さらに、公判準備は憲法82条の「対審」に該当しないので、公判準備である公判前整理手続を非公開で行っても、憲法82条に違反しません。
公判前整理手続の流れ
公判前整理手続は、以下の①~⑰の流れに沿って行われます。
① 裁判所の決定によって公判前整理手続が開始される(刑訴法316条の2)
② 検察官は、証明予定事実記載書面(公判において証拠により証明しようとする事実を記載した書面)を裁判所、被告人・弁護人に送付する(刑訴法316条の13第1項)。
③ 検察官は、裁判所に対し、公判で提出する証拠の証拠調べ請求を行う(具体的には、検察官が公判で提出したい証拠の一覧が記載された書面を裁判所、被告人・弁護人に提出する)(刑訴法316条の13第2項)。
④ 検察官は、被告人・弁護人に対し、公判で提出する証拠を開示して閲覧させる(刑訴法316条の14第1項)。
⑤ 検察官は、証拠の開示後、被告人・弁護人の請求があれば、検察官が被告人・弁護人に開示した公判で提出する証拠以外の証拠(これを「類型証拠」という)の一覧表を交付する(刑訴法316条の14第2~5項)。
⑥ 被告人・弁護人は、検察官に対し、類型証拠の開示を請求する(刑訴法316条の15)。
⑦ 検察官は、被告人・弁護人に対し、類型証拠を開示し、閲覧させる(刑訴法316条の15)。
⑧ 被告人・弁護人は、検察官に対し、検察官が公判で提出する証拠に対する意見(証拠に異議があるのか、ないのか)を伝える(刑訴法316条の16)。
⑨ 被告人・弁護人は、公判において証明したいこと(証明予定事実)や、公判においてすることを予定している主張(例えば、犯罪事実は間違いなく争いませんといった主張や、私は犯人ではなく争っていくといった主張)を、裁判官、検察官に対し、書面を送付するなどして明らかにする(刑訴法316条の17第1項)。
⑩ 被告人・弁護人は、公判において証明したいこと(証明予定事実)がある場合、裁判所に対し、それを証明するための証拠(被告人・弁護人が裁判所に提出する証拠)の証拠調べ請求を行う(具体的には、証拠の一覧が記載された書面を裁判所、検察官に提出する)(刑訴法316条の17第2項)。
⑪ 被告人・弁護人は、検察官に対し、被告人・弁護人が裁判所に提出する証拠を開示し、閲覧させる(刑訴法316条の18)。
⑫ 検察官は、被告人・弁護人が裁判所に提出する証拠に対する意見(証拠に異議があるのか、ないのか)を伝える(刑訴法316条の19)。
⑬ 弁護人・被告人は、事件の争点となっている証拠で、これまでに検察官から証拠の開示を受けていない証拠について、検察官に対し、必要に応じて開示を請求する(刑訴法316条の20)。
⑭ 検察官は、⑬の弁護人・被告人からの証拠の開示請求に対し、相当と認めるときは、弁護人・被告人にその証拠を開示して閲覧させる(刑訴法316条の20)。
⑮ 検察官は、①~⑭までの手続を追えた後、証明予定事実(公判において証拠により証明しようとする事実)を追加・変更する必要があるときは、その追加・変更する証明予定事実を記載した書面を、裁判所、被告人・弁護人に送付する(刑訴法316条の21)。
この時、検察官は、裁判官に対し、追加・変更する証明予定事実を証明するための証拠の証拠調べ請求を行う(証拠の一覧が記載された書面を裁判所、被告人・弁護人に提出する)。
検察官は、被告人・弁護人に対し、その証拠を開示し、閲覧させる。
被告人・弁護人は、検察官に対し、検察官が公判で提出する証拠に対する意見(証拠に異議があるのか、ないのか)を伝える。
⑯ 被告人・弁護人も、⑮の検察官の場合と同様に、追加・変更する主張があれば、裁判官、検察官に追加・変更する主張を伝える(刑訴法316条の22)。
この時、被告人・弁護人は、追加・変更する主張を証明するための証拠の証拠調べ請求を行う(具体的には、証拠の一覧が記載された書面を裁判所、検察官に提出する)。
被告人・弁護人は、検察官に対し、その証拠を開示し、閲覧させる。
検察官は、被告人・弁護人に対し、検察官が公判で提出する証拠に対する意見(証拠に異議があるのか、ないのか)を伝える。
⑰ ①~⑯までの手続が終了すると、裁判所は、検察官、被告人・弁護人との間で、事件の争点と証拠の整理の結果を確認する(刑訴法316条の24)。
以上で公判前整理手続が終了します。
公判前整理手続の結果は、第1回目の公判において、法廷で明らかにされます(刑訴法316条の31第1項)。
次回の記事続く
次回の記事では、
- 公判前整理手続の始まり方、方法、出席者
- 公判前整理手続は、被告人に弁護人が付いていなければ行うことができない(必要的弁護)
を説明します。