前回の記事の続きです。
公判における犯罪被害者の権利や利益を守るための制度として、
- 被害者の法廷傍聴に対する配慮
- 被害者による公判記録の閲覧・謄写
- 刑事和解制度
- 損害賠償命令制度
があります。
前回の記事では①と②を説明しました。
今回の記事では
③ 刑事和解制度
④ 損害賠償命令制度
を説明します
刑事和解制度とは?
刑事和解制度とは、刑事事件の公判の中で、
刑事事件に関連する被告人と被害者等の間の民事上の争い(例えば、被害弁償など)について合意が成立した場合
には、刑事事件の係属する裁判所に対し、被告人と被害者等が共同して、民事上の合意を刑事事件の公判調書に記載することを求める申立てをすることができ、その合意が
公判調書に記載されたとき
は、その記載が、裁判上の和解と同一の効力を発生させる制度です(犯罪被害者等保護法19条)。
刑事事件の公判において、刑事和解制度を活用していれば、被告人から合意に基づく履行がない場合(例えば、被害弁償がない場合)には、被害者等は、
別に民事訴訟を提起することなく
公判調書を債務名義として直ちに
を行うことができます。
これにより、被害者等は、刑事事件のみならず、刑事事件に関連する民事上の紛争を刑事事件の裁判を利用して解決することができます。
刑事和解制度を利用することで、被害者等は、民事裁判を起こすことなく、損害回復の実現を図ることができるようになります。
なお、「被害者等」とは、
被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹
をいいます(犯罪被害者等保護法2条)。
以下で説明する損害賠償命令制度における「被害者等」も同じ意味です。
損害賠償命令制度とは?
犯罪被害者等が、犯人に対して不法行為に基づく損害賠償(例えば、治療費の請求など)を請求する場合には、民事訴訟を提起する必要があり、そのためには多大な労カ・費用・時間がかかります。
そこで、犯罪被害者等による損害賠償請求に係る紛争を簡易かつ迅速に解決することを目的として、損害賠償命令制度が設けられています。
損害賠償命令制度を活用することで、一定の犯罪について、刑事事件に係る訴因(公訴事実)として特定された事実を原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求(これに付帯する損害賠償の請求を含む)について、裁判官が、
刑事事件の公判の中で、被告人に損賠賠償を命ずる
ことを行ってくれます(犯罪被害者等保護法23条1項)。
損害賠償命令制度の対象事件
全ての事件について損害賠償命令制度が活用できわけではありません。
損害賠償命令制度の対象となる事件は以下の①~⑮の事件です。
- 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪(殺人罪、傷害罪、傷害致死罪、危険運転致死傷罪など)
- 不同意わいせつ罪、不同意わいせつ致死傷罪(刑法176条)
- 不同意性交等罪、不同意性交等致死傷罪(刑法177条)
- 監護者わいせつ罪、監護者わいせつ致死傷罪(刑法179条1項)
- 監護者性交等罪、監護者性交等致死傷罪(刑法179条2項)
- 逮捕罪、監禁罪(刑法220条)
- 未成年者略取罪、未成年者誘拐罪(刑法224条)
- 営利目的等略取罪、営利目的等誘拐(刑法225条)
- 身の代金目的略取等罪(刑法225条の2)
- 所在国外移送目的略取罪、所在国外移送目的誘拐罪(刑法226条)
- 人身売買罪(刑法226条の2)
- 被略取者等所在国外移送罪(刑法226条の3)
- 被略取者引渡し等罪(刑法227条)
- 犯罪行為に上記②~⑭の罪の犯罪行為を含む罪(上記①に掲げる罪は除く。)
- 上記①~⑮の罪の未遂罪
です。
被害者参加制度の対象事件との違い
損害賠償命令制度の対象罪名は、被害者参加制度と異なり、過失犯は対象となっていません。
そのため、被害者参加制度では対象罪名となっている過失犯である
- 業務上過失致死傷罪(刑法211条)
- 過失運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法5条)
- 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(自動車運転死傷処罰法4条)
- 無免許過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(自動車運転死傷処罰法6条3項)
- 無免許過失運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法6条4項)
は、損害賠償命令制度の対象罪名になっていません。
つまり、交通事故の大半は損害賠償命令制度の対象外となります(※交通事故でも危険運転致死傷罪は故意犯なので対象罪名になっています)。
なお、被害者参加制度の対象事件の説明は前の記事参照。
損害賠償命令の申立て
刑事被告事件の被害者又はその一般承継人は、被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に限る) に対し、
その弁論の終結まで(判決の言渡し前までの手続が終了する前まで)
に、損害賠償命令の申立てをすることができます(犯罪被害者等保護法23条1項)。
損害賠償命令の申立てについての審理
裁判所は、刑事被告事件について有罪の言渡しがあった場合は、原則として、直ちに、損害賠償命令の申立てについての審理のための期日を開くことになります(犯罪被害者等保護法30条1項)。
裁判所は、特別の事情がある場合を除き、4回以内の審理期日において、審理を終結しなければなりません(犯罪被害者等保護法30条3項)。
裁判所は、審理期日には、当事者(被告人、被害者)を法廷に呼び出すことになります(犯罪被害者等保護法30条2項)。
裁判所は、最初の審理期日において、刑事被告事件の訴訟記録のうち必要でないと認めるものを除き、訴訟記録(裁判に提出された証拠)を取調べをしなければなりません(犯罪被害者等保護法30条4項)。
裁判所は、損害賠償命令の申立てについての裁判の内容を記載した決定書を当事者(被告人、被害者)に送達するか、当事者(被告人、被害者)が出頭する法廷で裁判の内容を口頭で告知します(犯罪被害者等保護法32条)。
当事者(被告人、被害者)の異議申立て
当事者(被告人、被害者)は、損害賠償命令の申立てについての裁判に対し、裁判所に異議の申立てをすることができます(犯罪被害者等保護法33条1項)。
その異議申立ては、
- 損害賠償命令の申立てについての裁判の内容を記載した決定書が当事者(被告人、被害者)に送達された日
又は
- 当事者(被告人、被害者)が出頭する法廷で裁判の内容を口頭で告知を受けた日
から2週間の不変期間内に行わなければなりません。
※ 不変期間とは、裁判所の裁量によっても期間を変更できない、つまり、裁判所でも期間を2週間から変えることはできない(権限がない)期間をいいます。
適法な異議の申立てがあったときは、損害賠償命令の申立てについての裁判は、仮執行の宣言を付したものを除き、その効力を失います(犯罪被害者等保護法33条4項)。
適法な異議の申立てがないときは、損害賠償命令の申立てについての裁判は、確定判決と同一の効力を有します(犯罪被害者等保護法33条5項)。