法律(刑法)

詐欺罪⑬ ~「言葉ではなく、動作(挙動)による欺罔」「事実の黙秘による詐欺」を判例で解説~

言葉ではなく、動作(挙動)による欺罔

 詐欺罪(刑法246条)について、言葉ではなく、動作(挙動)による欺罔について説明します。

 詐欺罪は、たとえば、「あなたにアダルトサイトの未払料金10万円があります。すぐに10万円を指定の口座に振り込まないと裁判になります。」などと言って、言葉を使って人を欺くのが、一般的なイメージです。

 これに対し、言葉を使わずに、動作(挙動)だけで人を欺く行為も、詐欺罪を成立させます。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁決定(平成19年7月17日)

 この判例は、第三者に譲渡する意図を秘して、自己名義の預金口座開設を申し込み、預金通帳、キャッシュカードの交付を受ける行為について、挙動による詐欺罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 預金口座の開設等を申し込むこと自体、申し込んだ本人がこれを自分自身で利用する意思であることを表わしているというべきであるから、預金通帳及びキャッシュカードを第三者に譲渡する意図であるのにこれを秘して上記申込みを行う行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならない
  • これにより預金通帳及びキャッシュカードの交付を受けた行為が刑法246条1項の詐欺罪を構成することは明らかである

と判示し、挙動による詐欺罪の成立を認めました。

最高裁決定(平成22年7月29日)

 この判例は、中国人をカナダに不法入国させるため、自己に対する飛行機の搭乗券を他の者に渡す意図を秘して、搭乗券の交付を受けた行為について、挙動による詐欺罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 搭乗券の交付を請求する者自身が航空機に搭乗するかどうかは、本件係員らにおいてその交付の判断の基礎となる重要な事項であるというべきであるから、自己に対する搭乗券を他の者に渡してその者を搭乗させる意図であるのにこれを秘して、本件係員らに対してその搭乗券の交付を請求する行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず、これによりその交付を受けた行為が刑法246条1項の詐欺罪を構成することは明らかである

と判示し、挙動による詐欺罪の成立を認めました。

東京高裁判決(平成24年12月13日)

 この判例は、第三者に無断譲渡する意図を秘して、自己名義でプリペイド式携帯電話機の購入を申し込む行為自体が挙動による欺岡行為に当たるとし、詐欺罪の成立を認めました。

 この判例で、裁判官は、

  • 携帯電話不正利用防止法は、プリペイド式携帯電話機を含めた携帯電話機の不正利用の防止等を図るため、携帯電話機(プリペイド式携帯電話機を含む。)を購入した契約者に対し、当該携帯電話機を親族等(親族又は生計を同じくしている者)以外の第三者に譲渡する場合にはあらかじめ携帯音声通信事業者の承諾を得ることを義務づけ(同法7条1項)、この承諾を得ないで親族等以外の第三者に携帯電話機を譲渡する行為を禁止している
  • 自己名義で携帯電話機の購入等を申し込んだ者が、真実、購入する携帯電話機を第三者に無断譲渡することなく自ら利用する意思であるのかどうか、換言すれば、本当は第三者に無断譲渡する意図であるのに、その意図を秘しているのかどうかという点は、申込みを受けた携帯音声通信事業者あるいはその代理店が携帯電話機を販売交付するかどうかを決する上で、その判断の基礎となる重要な事項といえる
  • 関係証拠によれば、本件当時既にZ株式会社においても、自己名義で携帯電話機の購入等を申し込んだ者が、第三者に無断譲渡する意図であることが分かっていれば、その申込みに応じて携帯電話機を販売交付することはしないという取扱いをしていたことが認められる以上、検討したところからすると、第三者に無断譲渡する意図を秘して自己名義で携帯電話機の購入等を申し込む行為は、その行為自体が、交付される携帯電話機を自ら利用するように装うものとして、詐欺罪にいう人を欺く行為つまり欺罔行為に当たる

と判示し、詐欺罪が成立するとしました。

最高裁判決(平成26年3月28日)(長野県ゴルフ場事件)

 長野県内のゴルフ倶楽部において、暴力団員の入場及び施設利用を禁止しているにもか
かわらず、暴力団員ではない旨の誓約書を提出して、入場して施設を利用した事案で、裁判官は、

  • 本件ゴルフ倶楽部では、暴力団員及びこれと交友関係のある者の入会を認めておらず、入会の際には「暴力団または暴力団員との交友関係がありますか」という項目を含むアンケートへの回答を求めるとともに、「私は、暴力団等とは一切関係ありません。また、暴力団関係者等を同伴・紹介して貴倶楽部に迷惑をお掛けするようなことはいたしません」と記載された誓約書に署名押印させた上、提出させていた
  • 入会の際に暴力団関係者の同伴、紹介をしない旨誓約していた本件ゴルフ倶楽部の会員であるAが同伴者の施設利用を申し込むこと自体、その同伴者が暴力団関係者でないことを保証する旨の意思を表している上、利用客が暴力団関係者かどうかは、本件ゴルフ倶楽部の従業員において施設利用の許否の判断の基礎となる重要な事項であるから、同伴者が暴力団関係者であるのにこれを申告せずに施設利用を申し込む行為は、その同伴者が暴力団関係者でないことを従業員に誤信させようとするものであり、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず、これによって施設利用契約を成立させ、Aと意を通じた被告人において施設利用をした行為が刑法246条2項の詐欺罪を構成することは明らかである

と判示し、挙動による詐欺罪の成立を認めました。

最高裁判決(平成26年3月28日)(宮崎県ゴルフ場事件)

 この判例は、上記の長野県内における暴力団組員によるゴルフ場利用による詐欺事件と同様の内容の判例です。

 犯行場所は、宮崎県のゴルフ場です。

 こちらの判例では、上記判例の結論と異なり、詐欺罪は成立せず、無罪判決が言い渡されています。

 裁判官は、

  • 暴力団関係者の利用を拒絶しているゴルフ場において、暴力団関係者であるビジター利用客が、暴力団関係者であることを申告せずに、一般の利用客と同様に、氏名等を偽りなく記入した受付表等を提出して施設利用を申し込む行為は、ゴルフ場の従業員から暴力団関係者でないことを確認されなかったなどの本件事実関係の下では、申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められず、詐欺罪にいう人を欺く行為には当たらない

と判示し、詐欺罪は成立しないとしました。

 詐欺罪の成立を認めた長野県ゴルフ場の判例と、詐欺罪の成立を否定した宮崎ゴルフ場の判例の両者において、判断が分かれたのは、施設利用の際に、暴力団でないことの書面を提出しているか否かの点にあります。

 この両者の判例により、

  • 暴力団が、暴力団であることを秘して、ただ施設を利用しただけでは、欺罔行為がないので詐欺罪は成立しない
  • 暴力団が、暴力団ではないことの書面を作成して提出している場合は、それが欺罔行為になるので、詐欺罪が成立する

という判断基準が示された点が参考になります。

事実の黙秘による詐欺

 事実の黙秘する行為は、不作為ではなく、作為によって人を欺く行為と認められ、詐欺罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和10年11月28日)

 その日の引相場を知りながら、これを告げずに、当日の引相場で勝負を決める賭博を申し出た事案で、実際に相場を知っているのに知らないように装って賭博を申し出る行為自体が積極的な人を欺く行為に当たるとし、詐欺罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人の行為は、単純なる事実の緘黙にあらず
  • 大引立会相場を知らざるごとく装い、判示のごとき行為をなしたるもの、換言せば、事実の緘黙と他の行為との合体なる一つの積極的欺罔行為をなしたるものにほかならず

と判示しました。

東京高裁判決(昭和28年6月23日)

 小切手不渡りとなることを知りながら、これを秘匿して、その小切手を代金支払のため、取引の相手方に交付する行為について、裁判官は、

  • 被告人が、小切手を銅板代金の支払のため、被害会社の社員らに交付した以上、同人らはその小切手が銀行において支払われるものと信ずるのは当然であるから、被告人が小切手が不渡りとなるべきことを知りながら、これを代金支払のため、取引の相手方に交付するにおいては、被告人が小切手が銀行に支払われるものと申し向けたことがないとしても、代金支払を受け得るものと誤信せしめた欺罔行為を施したものといわねばならない

旨判示し、小切手が不渡りとなるとなる事実の告知の黙秘は、不作為ではなく、作為(挙動)により成立する詐欺罪であるとしました。

最高裁決定(昭和43年6月6日)

 多額の負債を抱えて、いつ倒産するかもしれない状態の会社の経営者らが、その会社の営業内容を隠し、代金を支払える見込みもその意思もないのに、電気製品等の買受方を注文した事案につき、裁判官は、

  • 商品買受の注文をする場合においては、特に反対の事情がある場合のほかは、その注文に代金を支払う旨の意思表示を包含しているものと解するのが通例であるから、注文者が、代金を支払える見込もその意思もないのに、単純に商品買受の注文をしたときは、その注文の行為自体を欺罔行為と解するのが相当である

と判示し、代金を支払える見込みがないことの不告知は、不作為ではなく、作為によって成立する詐欺罪であるとしました。