法律(刑法)

詐欺罪⑭ ~「欺罔行為とは?」「被害者の意思表示が錯誤により無効であったとしても詐欺罪は成立する」「真実に反する事実の告知と詐欺罪の成否」を判例で解説~

人を欺く行為(欺罔行為)とは?

 詐欺罪(刑法246条)が成立するためには、人を欺く行為(欺罔行為)が必要です。

 そして、欺罔行為は、

相手方が錯誤に陥り、行為者の希望する財産的処分行為をするに至るであろうような性質

のものであることが必要です。

被害者の意思表示が錯誤により無効であったとしても、詐欺罪は成立する

 詐欺罪は、欺罔行為が、相手方が錯誤に陥り、行為者の希望する財産的処分行為をするに至るであろうような性質のものであれば成立します。

 その性質を満たせば、たとえ欺罔行為により行った被害者の意思表示が、錯誤により法律上無効となるものであったとしても(民法95条)、詐欺罪の成立に影響を与えません。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正12年11月21日)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺罪は人を欺罔して、詐取するによりて成立するものにして、いやしくもこれの要件の具備する以上は、その詐欺により被害者のなしたる意思表示が法律行為の要素に錯誤ありたるため無効に帰すると、将た被害者においてその意思表示を取り消すまで有効なる法律行為の成立したるとにより、本罪の成立に異なりたる影響を及ぼすものにあらず

と判示し、欺罔行為によって行った被害者の意思表示が、要素の錯誤(意思表示の重要な部分に関する錯誤)により、無効となるものであったとしても、それが詐欺罪の成否に影響を与えないことを示しました。

真実に反する事実の告知は、詐欺罪を成立させる

 詐欺罪は、欺罔行為が、相手方が錯誤に陥り、行為者の希望する財産的処分行為をするに至るであろうような性質のものであれば成立します。

 欺罔行為でよく用いられるのは、真実に反する事実の告知です。

 真実に反する事実の告知をして、被害者が錯誤に陥り、財産的処分行為をするに至れば、詐欺罪が成立します。

 たとえば、他人に金銭の借用を申し込むに当たり、真実の動機や用途を告知すれば相手方が応じない場合に、動機や用途について真実に反する事実を告知し、金銭を交付させた場合は、真実に反する事実の告知を欺罔行為とする詐欺罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

仙台高裁判決(昭和28年11月9日)

 被告人が、接客婦Aの雇主Bに対し「AがCから借金しており、われわれはCからその金の返済を委任されているから支払ってくれ」と虚構のことを申し向けて金員の交付を受けた事案で、裁判官は、

  • たとえ接客婦Aにおいて、自己の稼高から雇主Bに支払う意思であり、雇主Bにおいては接客婦Aの稼高から弁済を受けて確実に回収できる見込であったとしても、雇主Bは接客婦Aの借金が虚偽とわかっておれば、金員の交付をしなかったものであることが証拠により明らかであるから、詐欺罪の成立を妨げるものではない

旨判示し、真実に反する事実の告知を欺罔行為とする詐欺罪の成立を認めました。

真実に反する事実の告知だが、被害者に不利益を与えない告知だった場合、詐欺罪は成立しない

 真実に反する事実の告知だが、被害者に不利益を与えない告知だった事案において、判例は、詐欺罪の成立を否定しているので、この点は押さえておく必要があります。

大審院判決(大正4年10月25日)

 担保物を提供して金銭を借りた場合に関して、その担保たる絵画を本物と偽ったが、その絵画が債権の担保に十分な価値のあるものだったという事案で、裁判官は、

  • 人を欺罔して錯誤に陥らしめ、よりて財物を交付せしめたるときは、仮令被害者に対し、対価を供与したる場合においても、なお詐欺罪を構成するものなりといえども、担保付貸借の場合において、債権者はその担保物が債権を担保するに十分なる普通価格を有するや否やに重きを置くものにして、いやしくもかかる価格の存する以上は、その担保物が真物なるや否を問わざるもって、通常の事態なりとするがゆえに、本件の場合におけるが如く、真物なりと偽りて、担保に供せられたる目的物が債権額2倍の普通売買価格を有し、債権担保に十分なりと認められる場合においては、特に債権者が目的物の価格いかんにかかわらず、その真偽いかんによりて、貸否を決すべかりし事情の存在したることを認め得る場合にあらざれば、該目的物を真物なりと偽りたる1点をもって、該貸借関係が詐欺によりて成立したるもとの認むるを得ず

と判示し、詐欺罪の成立を否定しました。

大審院判決(大正7年5月23日)

 担保物の実価を超えて価値があるように告げたが、その物の実価が債務を弁済するに十分であったという事案で、裁判官は、

  • 債務者が担保物を供して貸借名義により金銭を受け取りたる場合は、その担保物にして真に債務を弁済するに十分なる価格を有するものなるときは、債権者はその担保物に着眼して取引をなしたるにより、財産上損害を被ることなきをもって、他の特別の事情なきときは、たとえ担保物を供したる者の告げたる価格が担保物の実価を超越したることありとするも詐欺罪の構成要件たる欺罔手段を施したるものと言うを得ざるものとす

と判示し、詐欺罪の成立を否定しました。

東京高裁判決(昭和30年5月19日)

 この判例は、真実に反する事実の告知だが、被害者が担保物件の価値を信頼した事情があるので、詐欺罪は成立しないとしました。

 裁判官は、

  • (被告人が、)Aよりその所有建物を担保として2万円までの金策を依頼されたのに乗じ、自用の金員も調達しようとして、Bに対し右建物を担保として6万円の貸与申込をし、右金員の交付を受けたとしても、Bが貸与したのは担保物件の価値を信頼したためである場合は、Bに対して別に詐欺行為があったとはいえない

旨判示し、詐欺罪の成立を否定しました。

 上記3つ判例は、被害者に錯誤があろうがあるまいが、財産的処分行為をしただろう状況があります。

 詐欺罪における欺罔行為とは、被害者が錯誤に陥っていなければ、財産的処分行為をしなかったといえる真実に反する事実の告知をすることをもって認められるといえます。

 最近の判例が、人を欺いて財物を交付させる行為について、「交付の判断の基礎となる重要な事項」について欺かなければならないとしているのも、前文の趣旨によるものといえす。

最高裁決定(平成22年7月29日)

 この判例で、裁判官は、

  • (航空会社係員に対し)搭乗券の交付を請求する者自身が航空機に搭乗するかどうかは、本件係員らにおいてその交付の判断の基礎となる重要な事項であるというべきであるから、自己に対する搭乗券を他の者に渡してその者を搭乗させる意図であるのにこれを秘して、本件係員らに対してその搭乗券の交付を請求する行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず、これによりその交付を受けた行為が刑法246条1項の詐欺罪を構成することは明らかである

と判示しました。

最高裁決定(平成26年4月7日)

 この判例で、裁判官は、

  • 総合口座の開設並びにこれに伴う総合口座通帳及びキャッシュカードの交付を申し込む者が暴力団員を含む反社会的勢力であるかどうかは、郵便局員らにおいて、その交付の判断の基礎となる重要な事項であるというべきであるから、暴力団員である者が、自己が暴力団員でないことを表明、確約して上記申込みを行う行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為に当たり、これにより総合口座通帳及びキャッシュカードの交付を受けた行為が刑法246条1項の詐欺罪を構成することは明らかである

と判示しました。