法律(刑法)

詐欺罪(71) ~詐取額(利得額)の考え方⑥「詐欺犯人の要求額が交付額を超えた場合でも、交付額全額について詐欺罪が成立する」「詐取額全額について詐欺罪が成立するとした判例」を解説~

 前回記事の続きです。

詐欺犯人の要求額が交付額を超えた場合でも、交付額全額について詐欺罪が成立する

 詐欺罪の場合、人を欺いた際の要求金額より、犯人が被害者から現実に交付を受けた額の方が多いということがあり得ます。

 この場合、人を欺く行為によって相手方が錯誤に陥り、その錯誤に基づく処分行為によって、その金額が交付され、欺いた者がこれを受領したという関係が認められる限り、詐取額は現実の交付額と解すべきとされます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和10年5月24日)

 この判例で、裁判官は、

  • 虚偽の債権に基づき、競売を申し立て、裁判所の係員を欺罔して競売売得金を受領するに当たり、係員が競売の配当金額を誤り、予期以上の金額を配当したりとするも、詐欺罪は配当金全額につき成立するものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和15年4月24日)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺罪においては、被害者犯人の要求額以上の金品を交付したりとするも、その授受が欺罔行為に基因する以上、全額につき、詐欺罪の成立あるものとす

と判示しました。

東京高裁判決(昭和31年9月25日)

 相手方の錯誤に乗じ意思表示の内容以上の物の交付を受けた場合は、交付を受けた物全部につき詐欺罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和40年7月21日)

 盗取した郵便貯金通帳を利用して、払戻名下に金員を詐取するに当たり、たまたま係員が数字の単位を見誤り、請求額の10倍の金員を払い戻したことも知らずに受領したとしても、全額につき詐欺罪が成立するとしました。

 まず、被告人の弁護人は、

  • 被告人は1900円については、当初より騙取の犯意があったものの、郵便局員が錯誤により交付した1万9000円全部につき詐欺の犯意があった訳ではない
  • したがって、右差額を領得した被告人の所為が別罪を構成することあるはともかくとして、全部につき詐欺罪を構成するいわれはない

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 被告人は、郵便局において、郵便貯金払いもどし金受領証用紙の金額欄に1900円と記載し、そのほか所要の記載及び押印を整え、あたかも真実Aが貯金の払い戻しを請求するものの如く同局係員を欺罔して請求したところ、同局係員Bが数字を見誤り、1万9000円を 通帳にはさんで交付したが、被告人はその場では別に金額も確かめずそのまま洋服のポケットに納めて立ち去り、後刻、C競輪場において車券買い求めの際これを発見し、1万7100円の過払いを受けた事実を知ったが、そのままこれを消費した経緯であることが明らかである
  • ところで、このような場合においても、右Bの被告人に対する1万9000円の交付は、結局のところ前述の被告人の欺罔行為に基因するものであるから、その際たまたまBが金額を誤り被告人の請求額以上の金員を交付したとしても、全額につき詐欺罪の成立あるものと解するのが相当である

と判示しました。

詐取額全額について詐欺罪が成立するとしたその他判例

 上記以外の判例で、詐取額全額について詐欺罪が成立するとした判例を紹介します。

東京高裁判決(昭和32年8月21日)

 他人所有の家屋について、その所有者がこれを被告人のため担保に供することを承諾していないのに、その承諾があったもののように装い、その家屋と真実被告人に帰属する借地権を併せて担保に供する旨申し入れ、相手方を欺いて借用名下に金員を受け取った場合は、その全額につき詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 真実の事実と虚偽の事実とを併用して相手方を信用させ、金員の交付を受けた場合には、その金額全部について詐欺罪が成立するものと解すべきである
  • 被告人が被害者から金員を借り受けるに当たり、担保として提供したもののうち、借地権は真実被告人が有するものであったとしても、他のK所有の家屋につき、Kがこれを担保として承諾していないのにかかわらず、あたかもその承諾あるものの如く装って担保に提供し、被害者をしてその旨誤信させて、金員の交付を受けた以上、その金員全部について詐欺罪が成立するものといわなければならない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和56年3月12日)

 前ふた裏側に鏡を取りつけたシュウボックスを用い、配布するカードの数字を読み取り、カードの順序を不正に操作して配布する方法によって勝負を自由に左右し得るいかさまのバカラ賭博を行って、現金を詐取した事案です。

 この判例は、計画的な詐欺行為において、途中に欺罔行為の介在しない賭博が含まれていたとしても、これにより取得した金員は、その全額が詐欺罪による不正領得金に当たるとしました。

 裁判官は、

  • 本件不正賭博を長時間継続して行えば、到底、賭客において、最終的に勝てる見込みのないものであることが明らかである一方、すべての勝負に常に被告人ら開張者側が賭金を取得するとすれば、賭客からいかさまを行っていること容易に察知されるおそれもあるから、その間に正常な勝負も含まれることこそ、被告らにとっていかさまを隠蔽するためにかえって好都合であったといえるから、結局、正常な勝負をも含めて全体として被害者ごとに1個の詐欺賭博が行われたものとみて差し支えなく、しかも、勝負によって取得した金員と詐欺賭博によって領得した金員とを識別することができない点からも、被告人らの行為は、全体として違法性を帯びるものと認めるのが相当というべきであって、被告人ら取得した金額全額が詐欺罪による不法領得金というを妨げないものと解すべきである
  • それ故、被害者らが負担するに至った金5億7000万円の負け金のうち、同人らから現実に支払を受けた合計金1億9300万円全額について詐欺罪の成立を認めた原判決は正当である

と判示しました。

東京地裁判決(平成7年12月26日)

 1万円紙幣大の紙片の束の上下を、真券の1万円紙幣を挟んで作った偽の札束を信用組合に入金し、預金名下に財産上不法の利益を得たとの事案につき、真券部分は紙片部分と不可分一体のものとして、不法に財産上の利益を取得するための手段として交付されたものにすぎないから、入金処理額全額について詐欺罪ないし電子計算機使用詐欺罪が成立するとしました。