法律(刑法)

詐欺罪(58) ~詐欺罪の既遂時期③「口座利用による金銭の詐取、訴訟詐欺、強制執行を利用した詐欺罪、無銭宿泊・無銭飲食、所有権留保売買による詐欺罪についての既遂時期」を判例で解説~

 前回記事の続きです。

 今回の記事では、

  • 口座利用による金銭の詐取についての詐欺罪の既遂時期
  • 訴訟詐欺についての詐欺罪の既遂時期
  • 強制執行を利用した詐欺罪の既遂時期
  • 無銭宿泊・無銭飲食による詐欺罪の既遂時期
  • 所有権留保売買による詐欺罪の既遂時期

について説明します。

口座利用による金銭の詐取についての詐欺罪の既遂時期

 金銭を直接詐取する代わりに、犯人の預金口座に金員を振り込ませた場合の既遂時期は、

犯人の口座に金員振込の登記が終わった時

に詐欺の既遂が認められます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和2年3月15日)

 他人を欺いて、犯人名義の郵便振替貯金ロ座に金員を払い込ませ、貯金局において登記を終わった時は、その金員は犯人が自由に処分することができる状態に置かれたものであって、刑法246条1項の詐欺罪の既遂が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 他人を欺罔して、犯人名義の郵便振替貯金口座に金員を払い込ましめ、当該貯金において登記を終わりたるときは、その金員は犯人の自由に処分し得べき状態に置かれたるものにして詐欺罪の既遂をもって論ずべきものとす

と判示しました。

大阪高裁判決(平成16年12月21日)

 詐欺犯人が開設し管理していた他人名義のロ座に金員を振り込ませた場合について、他人所有の不動産につき、その所有者になりすまして融資を申し込み、当該他人名義であらかじめ開設していた銀行口座に振込送金させたという詐欺等の事案について、被害者をして詐取金を振込送金させた時点で詐欺罪は既遂に達するとしました。

訴訟詐欺についての詐欺罪の既遂時期

 訴訟手続を利用して財物を詐取する訴訟詐欺の既遂時期は、

勝訴判決を得て相手方から財物の交付を受けた時

に詐欺罪は既遂になるとされます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和6年2月17日)

 この判例は、勝訴判決を得て相手方から財物の交付を受けた時に詐欺罪は既遂になるとしました。

大審院判決(大正5年10月10日)

 不動産詐取の事案で、詐欺訴訟により所有権移転登記抹消の確定判決を得て、これに基づき虚偽の申立てをして、登記官をして他人の不動産に関し、所有権移転登記の抹消及び所有権保存登記をさせた以上、不動産詐取の既遂であるとしました。

大審院判決(昭和11年2月24日)

 家屋売買取消しの判決により第三者に家屋を取り戻させるために、詐害行為取消訴訟を提起し、裁判所を欺いて勝訴の判決を得た場合につき、財産上不法の利益を得たものとして、詐欺利得罪の既遂を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人らは、勝訴不確実なる民事訴訟において、虚偽の記入なしたる一見確実なる手形債権を作成し、偽証教唆又は、自ら偽証して裁判所を欺罔し、もって訴訟を有利に導き、確実に勝訴の判決を得、本件家屋を取戻さんとせしめたるものにして、かくのごとく仮令事実上債権の存在ありたりとするも、その証明困難にして、勝訴の見込なき場合において、確実なる証拠を虚構して勝訴の判決を受けしむるは詐欺罪を構成する

と判示しました。

大審院判決(大正4年8月5日)

 家屋売買取消しの判決により第三者に家屋を取り戻させるために、詐害行為取消訴訟を提起し、裁判所を欺いて勝訴の判決を得た場合につき、財産上不法の利益を得たものとして、詐欺利得罪の既遂を認めました。

強制執行を利用した詐欺罪の既遂時期

 強制執行を利用した詐欺罪の既遂時期を示した判例として、以下の判例があります。

大審院判決(明治37年10月7日)

 競売利用による金員詐取の事案で、執達吏有体動産を差し押さえ保管しても、財産競売売得金債権者に配当しない限り、詐欺罪は未遂であるとしました。

 裁判官は、

  • 執達吏が債権者の有体動産を差し押さえて、これを保管するも、その競売売得金を債権者に配当せざる以上は、債権者は未だ財産上の利益を受けたるものというを得ず

と判示しました。

大審院判決(昭和3年3月12日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人は、甲の所有に属するため池が土地台帳では乙の所有名義となっているのを利用して、乙と競売を利用して他から金員を詐取しようと共謀し、乙に対する虚偽の債権に基づきため池の強制競売の申立てをして、裁判所に強制競売の手続を開始進行させて、それが適法な債務名義に基づく競売手続であると誤信した丙が、ため池を競落し、その代金を裁判所に支払った場合、その代金の所有権は、ため池の所有者でない乙に帰属すべき理由がないから、被告人が競落代金の一部をも受領していないこの段階では、詐欺の未遂である

としました。

大審院判決(大正6年12月12日)

 金員詐取の手段として、裁判所に対し、虚偽の債権に基づく差押えの申立てをし、債権の転付命令を得た場合は、まだ第三債務者から金員を領得しなくても、詐欺利得罪(刑法246条2項の詐欺)が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 金員詐取の手段として、裁判所に対し、虚偽の債権に基づく申立てをなし、これにより、まず執行命令を得て、債権転付命令を得たる場合にありては、その債権は被告に帰属するをもって、詐欺による不法利得の既遂罪成立するものとす

と判示しました。

 なお、転付命令により第三債務者より金員を領得したときは、その全行為を包括的に観察して詐欺既遂の一罪(刑法246条1項と2項を合わせた詐欺)を構成するとされます。

大審院判決(明治44年2月16日)

 詐欺の手段により他人の債権を譲り受けたように仮装し、その債権の執行として、第三債務者に対する債務者の債権を差し押さえ、転付命令により、その債権の移付を受ける行為は、第三債務者及び債権者に転付命令の送達をした時に詐欺利得罪(刑法246条2項の詐欺)の既遂になるとしました。

 この判例で、裁判官は、

  • 債権転付命令は、第三債務者及び債務者にこれを送達するにあらざれば、完全にその効力を発生せざるものとす
  • 犯人が詐欺の手段をもって、他人の債権を譲受けたるものの如く仮装し、その債権の執行として第三債務者に対する債務者の債権を差押え、転付命令によりその移付を受け、不法に利益を収得したる場合において、犯罪の既遂たる事実を判定するには、その転付命令の第三債務者及び債務者に送達ありたる事実を説示せざるべからず

と判示しました。

無銭宿泊・無銭飲食による詐欺罪の既遂時期

 無銭宿泊、無銭飲食による詐欺罪の既遂時期は、代金の請求を受けて支払を免れた時ではなく、

宿泊・飲食をした時

とされます。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁決定(昭和30年7月7日)

 所持金がなく代金支払の意思もない被告人が、そうでないもののように装って、料亭A方で無銭飲食・宿泊した上、自動車で帰宅する知人を見送ると申し欺いてA方の店先に立ち出たまま逃亡した事案で、裁判官は、

  • 刑法246条2項にいわゆる『財産上不法の利益を得』とは、同法236条2項のそれとはその趣を異にし、すべて相手方の意思によって財産上不法の利益を得る場合をいうものである
  • したがって、詐欺罪で得た財産上不法の利益が、債務の支払いを免れたことであるとするには、相手方たる債権者を欺いて、債務免除の意思表示をなさしめることを要するものであって、単に逃走して事実上支払いをしなかっただけで足りるものではないと解すべきである
  • それゆえ、原判決が被告人の逃亡行為をもって代金支払いを免れた詐欺罪の既遂と解したことは失当である
  • しかし、本件にあっては、被告人は所持金なく、かつ代金支払いの意思がないにもかかわらず、宿泊・飲食したというのであるから、逃亡前、すでにAを欺いて、代金3万2290円に相当する宿泊・飲食などをした時に、刑法246条の詐欺罪が既遂に達したと判示したものと認めることができる

旨を判示し、所持金がなく、かつ、代金支払いの意思がないのに宿泊・飲食した時点で詐欺は既遂に達するとしました。

所有権留保売買による詐欺罪の既遂時期

 所有権留保売買(ローンやクレジットカードによる分割払いでの商品の購入)による詐欺罪の既遂時期は、

商品の引渡しを受けて占有を取得した時点

とされます。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁決定(昭和45年6月30日)

 自動車を月賦購入により引渡しを受けて詐取した事案で、裁判官は、

  • 自動車については、被告人A名義の月賦購入の約定で引渡しを受けたものであるため、その所有権が売主に留保され、被告人Aらが売却その他の処分をする権限を有しない等の民事法上の制限があったとしても、売主を欺罔し、よってその引渡しを受けて占有を取得した以上、詐欺罪を構成する

と判示し、自動車の引渡しを受けて占有を取得した時点で詐欺罪は既遂になるとしました。