法律(刑法)

詐欺罪(63) ~主観的要件①「詐欺罪が成立するためには詐欺の故意が必要」を判例で解説~

詐欺罪が成立するための主観的要件

 詐欺罪の成立を認定するための犯人の主観的要件として、

の2つの要件が存在します。

 故意については、詐欺罪の成立に必ず必要になる要件です。

 詐欺の故意がなければ、詐欺罪は成立しません。

 なお、不法領得の意思は、故意とは異なり、詐欺罪の成立に必ずしも必要となる要件ではありません。

 まず、故意について説明します。

詐欺罪が成立するためには詐欺の故意が必要

 詐欺罪の故意が認められるためには、行為者が他人の財物を詐取することを表象認容することを要します。

 財物詐取の表象とは、

相手方を欺いて錯誤に陥らせ、その財産的処分行為によって財物を交付させ、自己又は第三者が占有を取得することの認識・予見

であり、

その間の因果関係も認識していなければならない

とされます。

 そして、その表象・認容は、

確定的でなくとも未必的であれば足りる(未必の故意

とされます。

詐欺罪は、詐欺の未必的故意があったのか、単なる民事法上の債務不履行にすぎないのかが争われる

 現実的な問題として、詐欺の未必的故意があったのか、単なる民事法上の債務不履行にすぎないのかをめぐって争われる事例が多くあります。

 たとえば、知人からお金を借りるときに、「金を返せる目途がはっきりたっていない。金を返せない場合は連絡を絶って逃げよう。」と思って金を受け取った場合、詐欺罪の未必的故意が認められ、詐欺罪が成立します。

 その後、知人から金を返せと言い寄られた詐欺犯人が、「当時は返すつもりで金を借りている。不運が重なり金を返せなくなっただけだ。」と言い張れば、詐欺の故意を認めることができず、詐欺罪は成立せずに、民事法上の債務不履行の問題として取り上げられる可能性があります。

詐欺罪の故意に関する判例

 詐欺罪の故意に関する判例として、以下の判例があります。

最高裁決定(昭和32年2月14日)

 この判例は、他人の財物を詐取する意思は、自己(犯人自身)を利するためであると、他人を利するためであるとを問わないとしました。

 この判例で、裁判官は、

  • 人を欺罔して財物を騙取するにおいては、その目的が自己を利するためであると他人を利するためであるとによって詐欺罪の成立に影響を及ぼすものではない
  • されば、原判決の是認した第一審判決の認定した判示第一の犯罪が、仮りに所論のごとくA診療所の備品購入の費用に充てるためであり、かつ、実際上これに使用されたとしても、詐欺罪を構成しないといえないことは多言を要しない
  • そして、財産罪における不法領得の意思の有無を論ずる実益は、主としていわゆる奪取罪と毀棄、隠匿罪との区別において存するものであって、本件のような他人の財物を毀棄又は隠匿するのではなく、これをその経済上の用法に従つて利用又は処分する意思であること明白である財産罪において特にこれを論議する必要はないのである
  • 従って、原判決の不法領得の意思に関する説示は、無用の説示といわなければならない
  • しかしながら、財産罪における不法領得の意思には領得者が自己の利益取得を意図することを必要とするものでないことは、既に当裁判所の判例の趣旨とするところである

と判示し、詐欺行為が、犯人自身ではなく、他人の利益を図るために行ったものであったも詐欺罪は成立するとしました。

広島高裁松江支部判決(昭和26年8月27日)

 この判例は、後日返済する意思で詐取しても、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • およそ詐欺罪の成立には、真実に反して事実を告知し、他人をして錯誤に陥らしめ、よって財物若しくは財産上の利益を給付するに至らしめた事実があるをもって足り、必ずしも犯人がその財物若しくは財産上の利益を永久に領得する意思のあることを必要としないから、いったん詐欺手段により財物若しくは財産上の利益を給付せしめた以上は、詐欺罪は直ちに成立すべく、たとえ犯人が後日返済をなす意思を有し、かつ、これを実行したとしても、これがために詐欺罪の成立を妨げるものではない

と判示しました。

大審院判決(大正9年7月21日)

 この判例は、連帯保証者が存しないのに存するように偽って、相手方を錯誤に陥れて財物を詐取した場合は、犯人の返済の意思にかかわらず、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 連帯保証者の存せざるにかかわらず、これがあるが如く偽りて、相手方を錯誤に陥らしめ、よって財物を騙取したる以上は、詐欺罪の成立することもちろんにして、犯人が返済をなす意思の有無は犯罪の成立を妨げるものにあらず

と判示しました。

大審院判決(昭和2年2月24日)

 この判例は、買主がほしいままに他人の名義を冒用して、他人が自己と連帯して代金に相当する金員を売主から借用する旨の証書を偽造行使し、売主を欺き財物を得た場合は、たとえ代金支払の意思があったとしても、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 掛売買の場合において、買主がほしいままに他人の名義を冒用して、その者が自己と連帯して代金に相当する金員を売主より借用せる旨の証書を偽造して、売主を欺き、よりて財物を交付せしめたるときは、たとえ代金支払の意思ありとするも、詐欺罪構成するものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和17年7月29日)

 この判例は、詐欺行為により物品を受領した以上、公定価格に相当する金額を支払う意思があり、かつ現実に支払を了したとしても、詐欺罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和30年8月30日)

 この判例は、偽造注文書を提出して、係員を欺いて物件の交付を受けた以上、その物件の売払代金により代金を支払う意思があったとしても、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、偽造した注文書をD社係員に提出し、右注文書が真正な注文書のように誤信させ、D社係員から自転車合計31台の交付を受け、これを騙取したものであることを認めることができるのであるから、被告人が右自転車の転売先から代金の支払を受け、これをD社に支払う意思があったとしても、これにより被告人は右自転車31台を騙取した詐欺罪の刑責を免れることはできない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和32年6月27日)

 この判例は、人を欺き、手形割引名下に金員を詐取した以上、後日その手形を決済する意思があったとしても、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人が被害者を欺罔し、手形割引名下に被害者を欺罔して錯誤に陥れ、現金を自己に移転させたときに詐欺罪が成立し、後日その約束手形を決済する意思の有無は同罪の成否に影響しないものといわねばならない

と判示しました。

福岡高裁宮崎支部(昭和29年2月26日)

 この判例は、最終的には支払う意思があったとしても、初めから稼働する意思がないのにあるように装って、稼いで借金を返済すると申し向け、債務を立て替え支払わせた場合は、詐欺罪を構成するとしました。

大審院判決(昭和6年4月13日)

 この判例は、徴税令書を偽造行使して納税義務者を欺き、不法に金員を領得した事実について、認識ある以上、真正の税金額に相当する金員を税金として収入役に交付する意思を持っていたとしても、詐欺罪の故意を阻却せず、詐欺罪が成立するとしました。

大審院判決(昭和14年12月22日)

 この判例は、故意に他人名義を使用して、国有未開地売払許可の申請をした以上、たとえ北海道においては他人名義の売払許可による未開地の取得が多年の慣行であったとしても、それは法律の不知であって、詐欺罪の故意を阻却せず、詐欺罪が成立するとしました。

名古屋高裁判決(昭和25年5月16日)

 この判例(無銭宿泊の事案)は、具体的確実性のない支払意思は、その反面、支払不能の予想を包含しているから、結局、未必の故意があるものと認められるとして、詐欺罪を構成するとしました。

 裁判官は、

  • おおよそ具体的確実性のない支払意思は、その反面、支払不能の予想を包含しているものであるから、結局未必の故意あるものと判断せざるを得ない
  • 従って、被告人には、詐欺の意思はなく無罪であるという論旨(弁護人の主張)には理由がない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和32年6月26日)

 この判例は、会社経営が堅実でなく、いつ支払不能の状態に陥るかもしれないという予見を持ちながら、何ら適切な手段を講ずることもなく、このような事実を秘匿し、健全な貸金業者として出資者を募集することは、詐欺罪の未必的故意を有するものと推認するのが相当であるとし、詐欺罪を構成するとしました。

東京高裁判決(昭和57年12月23日)

 この判例は、代金支払のために振り出した手形の決済の見通しが不確実であるにもかかわらず、それが確実に決済されるものと相手方を誤信させて商品を詐取した場合には、詐欺罪の未必的故意ではなく、確定的故意があったものというべきであるとして、詐欺罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和40年7月21日)

 行為者の予期した以上に金員が交付された場合にも、それが行為者の人を欺く行為に起因する以上、その全額について詐欺罪が成立するとしました。

 まず、被告人の弁護人は、

  • 被告人は1900円については、当初より騙取の犯意があったものの、郵便局員が錯誤により交付した1万9000円全部につき詐欺の犯意があった訳ではない
  • したがって、右差額を領得した被告人の所為が別罪を構成することあるはともかくとして、全部につき詐欺罪を構成するいわれはない

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 被告人は、郵便局において、郵便貯金払いもどし金受領証用紙の金額欄に1900円と記載し、そのほか所要の記載及び押印を整え、あたかも真実Aが貯金の払い戻しを請求するものの如く同局係員を欺罔して請求したところ、同局係員Bが数字を見誤り、1万9000円を 通帳にはさんで交付したが、被告人はその場では別に金額も確かめずそのまま洋服のポケットに納めて立ち去り、後刻、C競輪場において車券買い求めの際これを発見し、1万7100円の過払いを受けた事実を知ったが、そのままこれを消費した経緯であることが明らかである
  • ところで、このような場合においても、右Bの被告人に対する1万9000円の交付は、結局のところ前述の被告人の欺罔行為に基因するものであるから、その際たまたまBが金額を誤り被告人の請求額以上の金員を交付したとしても、全額につき詐欺罪の成立あるものと解するのが相当である

と判示しました。

被告人に詐欺の故意があるとはいえないとした判例

 被告人に詐欺の故意があるとはいえないとした裁判例として、以下の判例があります。

東京地裁判決(昭和47年6月17日)

 経営状態が悪化した不動産会社の買戻条件付き土地販売契約をめぐる詐欺の事案で、裁判官は、

  • 本件のように、一個の事業(企業)一の遂行過程で行なわれた経済上の取引について、その債務の不履行が事前に予測された結果であるとして、その事業経営者の詐欺罪の成否が問題となる場合、その取引の際経営不振の状態にあって、場合によっては倒産もありうると予見していただけで、直ちに詐欺の未必的故意があるとすることは、いわば発生した結果によって犯罪の成否を決定するにも等しく、また現実の経済社会の実情にも合致しない、すなわち、企業経営者として、例えば、資金繰りが窮迫し、一歩誤れば倒産という事態に至っても、企業の存続のための努力を続けようとすればするほど、その事業に必要な取引行為を続けざるをえず、そして、その取引にあたって倒産の見込みのあることを取引の相手方に告げることは自ら信用を低下させて事態を悪くするととになるから、あえてこれを秘匿して取引に臨むということが一般であり、これがすべて理論上は詐欺罪に問擬(もんぎ)されるということになれば、いったん経営不振となって倒産のおそれの生じた企業は、ほとんどすべてその企業存続のための努力を放棄せざるをえなくなるおそれがある
  • 従って、右のような場合には、企業経営者らが倒産による債務不履行の可能性を認識していても、なおそのような事態を避けられる見込みが相当程度あると信じ、かつ誠実に契約履行のための努力をする意思のあるときは、いまだこの点について欺罔の意思はないものといわなければならない

と判示し、詐欺罪の成立を否定しました。

鳥取地裁判決(昭和47年7月29日)

 この判例は、医師が肝機能の検査などを実施しないで、社会保険診療報酬支払基金から診療報酬を詐取したとの事実について、検査をしなかったこと及び詐欺の犯意の証明がないとされ、無罪の言い渡しがなされました。

 裁判官は、

  • 本件カルテは、通常の医師が作成したカルテだけが報酬請求をしていることから見れば、本件カルテは通常の医師の作成したカルテに比し正確ではなく、その記載に疑いがあることは否定できないけれども、検査結果の記載ある検査の記載は真実を記載したものと認めて差し支えない
  • 検察官の主張に沿う被診療者の供述証拠は、その特殊事情を考慮に容れても、(犯罪事実の)認定を覆すに足る信用性は認められない
  • そうだとすると、被告人が本件公訴事実の肝機能等の検査又は診察をしなかったとの疑いは否定できないが、合理的疑いをさしはさまない程度に十分に立証されたものとまでは認め難い
  • (手続の)過誤に基づく場合には、被告人に検査料等の報酬を詐取する犯意があったか否かはもとより問題とはならない
  • 被告人に、本件肝機能等の検査又は診療の報酬を詐取する犯意があったとの疑いの存することは一応否定できないが、認定事実に照らせば、合理的疑いをさしはさまない程度に立証されたものとは認められない

と判示し、詐欺罪は成立しないと認定し、無罪を言い渡しました。

最高裁判決(昭和54年7月20日)

 小学校教論が、自動車の修理代金名下に、修理しなくてもよい自動車についても修理代金を請求し、金員を詐取したとされて起訴された事案で、裁判官は、

  • 被告人が「自動車修理会社H課長から修理はいらないという趣旨のことをいわれていたが、自分としてはそれは遠慮にすぎないと思っていた。それに、16台の車全部の塗装修理を依頼されていた自分としては、被害者の方で修理を辞退しているからといって修理をしないですましてよいとも考えなかった。」

と述べている状況などから、詐欺の犯意に関して事実誤認の疑いがあるとして、有罪を認めた原判決について破棄・差戻し(裁判のやり直し)を命じ、詐欺罪の成立を認めませんでした。

次回記事に続く

 この記事の最初に、詐欺罪の成立が認める当たり、

の2つの主観的要件があることを説明し、今回の記事では故意について説明をしました。

 次回の記事では不法領得の意思について説明をします。