刑法(詐欺罪)

詐欺罪④ ~「不正受給は詐欺罪を構成する」「公共的財産に対して詐欺罪は成立する」を判例で解説~

不正受給は詐欺罪を構成する

 不正受給・不正配当のように、人を欺く手段によって、国家の経済統制を乱す行為は、詐欺罪(刑法246条)を構成します。

 令和2、3年においては、新型コロナウィルスに関し、個人事業主に対する事業継続支援として持続化給付金100万円の給付が行われましたが、これに対する詐欺が横行しました。

 国が経済政策を利用して、不正受給・不正配当を受けることが詐欺罪を構成することは、大審院の時代から肯定されています。

大審院判決(昭和17年2月2日)

 鉄鋼販売業者に対して、偽造の割当証明書を提示して統制物資である銑鉄を買い受けた事案で、裁判官は、

  • 犯人が真実を告知するにおいては、たとえ相当対価を提供するも、相手方が財物を交付せざるべき場合に、敢えて真実に反する事実を告知して相手方を錯誤に陥れ、よって財物の交付を受けたる以上は、詐欺罪を構成すべく授受せられたる対価の相当なることは、同罪の成立を妨げざるものとす

と判示し、不正配当に対する詐欺罪の成立を認めました。

大審院判決(昭和18年12月2日)

 町内会長が、家庭用米穀通帳等に自分の家の世帯員数を多く記入し、食料品配給所に提出して食料品の配給を受けた事案で、裁判官は、

  • 町内会長が自家の家庭用米穀通帳等に世帯員数を過当に記入して、食料品配給所に提出して、これが配当を受けたる以上は、同所係員に右通帳の記載の真否につき審査権なしとするも、詐欺罪を構成するものとす

と判示し、不正配当に対する詐欺罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和23年6月9日)

 偽造の酒類特配指令書を提出して係員を欺き、酒類を買い受けた事案で、裁判官は、

  • 代金を支払ったとしても、真正な指令書を持っておるものでなければ買い受けることのできないものであるにかかわらず、偽造の指令書を真正な指令書と偽り係員を誤信せしめて日本酒と麦酒とを買い取ったのであるから、詐欺罪の成立を妨げるものはない

と判示し、不正配当に対する詐欺罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和23年4月7日)

 詐取した米穀通帳を配給所に提出し係員を欺いて米の配給を受けた事案で、裁判官は、

  • 偽造転出証明書を村役場係員に提出して、これを行使し、同係員を欺罔して米殻通帳を騙取し、更にこれを配給所係員に提出欺罔して配給米を騙取したのであるから、被告人らはこの騙取事実につき刑法246条第1項に規定する処罰に服さなければならない

と判示し、不正配当に対する詐欺罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和23年7月15日)

 特別配給を受ける資格がないのに、人を欺く手段によって係員をだまして、特配米を受け取った事案で、裁判官は、

と判示し、不正受給に対する詐欺罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和23年11月4日)

 他人名義の移動証明書を利用し、他人を自己の同居人のように虚偽の申告をし、自己の主食配給通帳にその旨の登載を受け、係員を欺き、同居人名義により主食の配給を受けた事案で、裁判官は、

  • 欺罔手段を弄して、係員を誤信せしめて、同人(他人)等の配給分として主食たる白米及び押麦を交付せしめたというのであるから、詐欺罪の成立することは当然である
  • 本件におけるが如く現実に居住の変更ないにも拘らず、虚偽の移動証明書を利用して、各人が各所において任意に所定量以上の配給を受け得るものとすれば、この制度(配給制度)の円滑な運営を阻害することは必然であろう
  • しかのみならず、詐欺罪の被害法益は、不当に騙取せられる財物であり、配給制度そのものではない
  • 従って、被告人が前示食糧営団出張所係員を欺罔して正当には受配し得ない主要食糧を騙取した以上詐欺罪に問擬(もんぎ)せられるのもまたやむを得ないのである

と判示し、不正受給に対する詐欺罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和25年2月24日)

 架空人名義の主要食糧配給通帳をその名義人が実在するもののように装い配給所に提出して、主要食糧の配給を受けた事案で、裁判官は、

  • 主要食糧配給通帳が架空の人物名義のものである場合にその事実を知りながら名義人が実在するもののように装い、その通帳を配給所に提出して主要食糧の配給を受けたときは詐欺罪が成立するのであるから食糧緊急措置令第10条本文の適用はないものと解すべきである
  • 然らば原審が判示第一事実につき詐欺罪をもって問擬したことは正当である

と判示し、不正受給に対する詐欺罪の成立を認めました。

大阪地裁判決(令和4年1月31日)東京地裁判決(令和3年12月21日)

 新型コロナウイルス感染症による経済的影響への緊急経済対策として、令和2年に実施された中小企業には最大200万円、個人事業主らに最大100万円の現金を給付する制度について、虚偽の申告をし、不正に現金を受給した事案で、詐欺罪の成立を認めました。

公共的財産に対しても詐欺罪は成立する

 詐欺の対象となる財物が、公共的財産であっても、別段、特別刑法規定による保護の対象とされておらず、かつ、その性格において個人的財産と同視しうるものについては、詐欺罪の成立が認められます。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁決定(昭和30年11月18日)

 この判例は、県財務事務所長らが、虚偽の支払確定通知書と支払通知書を作成行使して、県支金庫係員を欺いて、現金を交付させる方法により、同事務所の予算を現金化した事案です。

 裁判官は、

  • 被告人らは、予算上の一切の拘束をはなれて、交際費や接待費をふくむどんな用途にでも、まったく被告人らの意のままに支配費消しうる違法な資金のプールを作る意図で、…常時大規模に予算の現金化を行ったものであって、単なる財政法規違反としての予算の流用ないしは公金の移管の域にとどまるものとみることはできないから、本件につき詐欺罪の成立を否定することはできない

と判示し、公共的財産に対する詐欺罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和31年4月17日)

 この判例は、町長が自ら授産場を経営するため、その地位を利用して、町議会をして町営授産場を設置する旨の議決をなさせた上、その認可を受け、右授産場があたかも町営であるかのように装って係官を欺き、補助金の下付を受けた事案です。

 裁判官は、

  • 表面上形式的には、授産場は町営の下に設置経営せられているように見えるけれども、その実質はあくまで被告人B(※町長から授産場の経営を任された者)の個人経営の範囲を出でないものであることが認められる
  • また、右授産場の設置経営について町議会の議決を経たことは所論のとおりであるが、それは該授産場の経営が公共事業である性質上個人には認可されず、表面町営であるということにすれば認可になることから、町長の地位にある被告人Aの操作によって、かかる処置が採られたまでのことであって、本件被害者に対する関係においては、被告人両名が被告人Bの個人経営に帰する事情を秘し、あたかも町で設置経営するように装って作為した結果、そのことを知らない当該係官は町で設置経営するものとのみ信じて、本件補助金を下附したものであるという事実が認められる
  • 従って、詐欺罪の構成要件は充たされているのであって、被告人はその刑責を免れることはできない

と判示し、公共的財産に対する詐欺罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和31年12月27日)

 行政措置によって生活保護を受けている外国人が生計変動等の事情を秘匿して、従前どおりの生活扶助料の交付を受けたという生活保護費の不正受給の事案で、裁判官は、詐欺罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和49年12月3日)

 この判例は、虚偽の収入申告をして生活保護費の支給を受けた事案です。

 裁判官は、

  • (弁護人は、)本件には生活保護法85条本文を適用すべきであり、 これに刑法246条1項を適用した原判決は、右各法条の解釈適用を誤っていると主張する
  • しかし、原判決のかかげる証拠によれば原判示事実(※生活保護を不正に受給した詐欺事実)を優に認めることができ、これが刑法246条1項に該当することは疑いない
  • たしかに本件は、同時に生活保護法85条本文にも触れるものと認められる
  • しかし、同条但書は、刑法に正条があるときは刑法によつて処罰する旨明確に規定しているから、本件につき詐欺罪を適用した点に違法はない

と判示し、公共的財産に対する詐欺罪の成立を認めました。

東京地裁判決(昭和47年8月4日)

 生活保護の実施機関が、被保護者の収入状態を過少に誤認しているのに乗じ、届出義務に違反して収入の届出をせずに、生活保護費を不正に受給した事案で、裁判官は、

  • 不正の手段を用いて保護を受ける行為として考えられるものは、ほとんどが外形上刑法の詐欺罪に該当する行為であると思われるので、このような行為を生活保護法85条ただし書きにより刑法の詐欺罪の規定を優先して適用し、処罰することになれば、実際上、同条本文の罰則が適用される事例はごく少なく、同条本文の罰則を設けた意義がうすれることは否定できないし、また不正受給行為はごく例外の悪質な事犯を除けば、ほとんどが貧困の余り犯されるものであるうえに不正受給の額もそれほと多額にはならない場合が多いと思われ、情状酌量の余地が多いであろうから、「不正受給行為が外形上刑法の詐欺罪に該当する場合でも、生活保護法の右罰則によって特に軽く処罰し、刑法の詐欺罪の規定の適用が排除される」という(弁護人の)見解には説得に富むものがあり、傾聴すべきものがある
  • けれども、生活保護法85条ただし書きには「刑法に正条があるときは刑法による」旨を明文で規定しているのであり、もし不正受給行為について刑法の詐欺罪の適用を排除するものであれば、不正受給行為の大部分が外形上刑法の詐欺罪に該当する趣旨を明文にうたったはずであり、そのようなことわり書きがない以上、不正受給行為が刑法の詐欺罪の構成要件に該当する場合には、同条ただし書きにより刑法の詐欺罪に関する246条の規定が優先して適用されるべきものと解するほかはない
  • 刑法の詐欺罪の保護法益は個人的、財産的法益を主眼とするものであり、国家的、社会的法益を主眼とするものではないと解すべきことは弁護人ら主張のとおりである
  • しかし、不正の手段によって保護の実施期間等を欺罔し、保護費を受給する行為は、一面において、生活保護行政の適正な運営を阻害するという国家の行政作用に対する侵害を結果とすると同時に、他面において欺罔手段により保護の実施機関等から財産上の給付を受け(生活保護は必ずしも財産上の給付のみには限らないであるが、その大部分は金銭、生活必需品等の財産上の給付であることは否定できない)、これにより保護の実施機関等に財産の減少を生じさせて、それと引換えに受給者が、財産上、不法の利得をし、財産権の侵害を結果とするという面があるこを否定できない
  • そして後者の側面においては、たとえその財産権の窮極の主体が国家または地方公共団体であったとしても、その財産権は、刑法の詐欺罪の主体となりうるものであり、不正受給行為が刑法の詐欺罪の対象となりうることを否めないものと解する
  • 生活保護法61条の被保護者の届出義務は、…単に道徳的、訓示的な意味の義務ではなく、法律上の義務と解すべきものである
  • したがって、保護の実施機関が被保護者の収入状態を過少に誤認しているのに乗じ、届出義務に違反して敢えて収入の届出をなさず、よって不正な額の保護費を受給する場合には、収入の届出をしないという不作為が詐欺罪における欺罔行為となりうるものであり、不作為による詐欺罪が成立することは明らかである

と判示し、不正受給に対する詐欺罪の成立を認めました。

福岡高裁判決(昭和61年2月13日)

 名目上の社員となり交付を受けた健康保険被保険者証を使用して、療養給付を受けた事案で、裁判官は、

  • 被告人は、健康保険法上の被保険者になり得ず、その資格を取得できないことを知りながら、その情を秘し、あたかもその資格を有する者であるかのように装い、不正に入手した被告人名義の被保険者証を病院等の担当者に対し呈示し、これらの者をして被告人が右被保険者資格を有するものと誤信させ、よって、担当医師らから医療給付を受けて、財産上不法の利益を得たことが認められるのであるから、詐欺罪の成立に欠けるところはないものといわなければならない

と判示し、不正受給に対する詐欺罪の成立を認めました。

東京地裁判決(平成27年6月2日)

 他人名義の国民健康保険被保険者証を用いて国民健康保険法による療養の給付である入院治療等を受けた事案で、裁判官は、

  • 国民健康保険法は、同法による療養の給付を受ける者を同法の被保険者に限定するとともに、世帯主の届出を通して国民健康保険被保険者証が当該被保険者に交付され、これにより、被保険者は国民健康保険による治療の給付を受けることができるのであって、国民健康保険法上の被保険者でない者は同法による療養の給付を受けることはできないのである
  • 国民健康保険被保険者証を有しない者が、他人の国民健康保険被保険者証を使い、当該他人を装って保険診療を受けることが違法であることは、社会人一般にとっていわば常識的な事項であるといえ、被告人も、(他人の)国民健康保険被保険者証を使って氏名を偽ることが違法であることは認識していた旨述べている
  • 以上によれば、被告人の本件行為が欺罔行為に当たることは明らかであり、本件で詐欺罪が成立することは優に認められる

と判示し、不正受給に対する詐欺罪の成立を認めました。

最高裁決定(平成19年7月10日)

 この判例は、地方公共団体からの水道工事の請負人が、下請代金分として自己の口座に振り込まれた前払金につき、下請業者に無断で、下請業者名義の口座を開設し、銀行係員を欺罔して振り込み入金させた行為について、詐欺罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人らにおいて、A建設の運転資金に充てる意図であるのに、その意図を秘して虚偽の払出請求をし,銀行支店の係員をして、下請業者に対する前払金の支払と誤信させて前払金専用口座から前記C土木名義の口座に400万円を振込入金させたことは、同支店の上記預金に対する管理を侵害して払出しに係る金員を領得したものであり、詐欺罪に該当するものというべきである

と判示し、公共的財産に対する詐欺罪の成立を認めました。

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