法律(刑法)

詐欺罪(72) ~詐欺利得罪(2項詐欺)①「2項詐欺の客体は財産上の利益である」「2項詐欺の具体例」を判例でを解説~

 これから複数回にわたり、詐欺利得罪(2項詐欺)の詐欺について説明します。

詐欺利得罪(2項詐欺)とは?

 詐欺利得罪(2項詐欺)とは、刑法246条2項の詐欺を言います。

 まず、刑法246条1項の詐欺は、『物』を詐取する詐欺形態であり、「財物詐取罪(1項詐欺)」と呼ばれます。

 これに対し、刑法246条2項の詐欺は、『物』ではなく、他人を欺いて『サービス』を受ける詐欺形態であり、「詐欺利得罪(2項詐欺)」と呼ばれます。

詐欺利得罪(2項詐欺)の客体

 詐欺利得罪(2項詐欺)の客体は、

財産上の利益

です。

 財産上の利益とは、

財物以外の財産上の利益

を意味します。

 この点について、以下の判例で明らかにされています。

大審院判決(明治43年5月31日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法第246条第2項は、人は欺罔して有体の財物に非ざる財産上の利益を自ら収得し、又は他人をしてこれを収得せしめたる物に適用すべき規定なりとす

と判示しました。

財産上の利益は、積極的利益であると消極的利益であるとを問わない

 刑法246条2項に規定される「財産上の利益」は、積極的利益であると消極的利益であるとを問いません。

 消極的利益であっても、詐欺利得罪(2項詐欺)の客体になります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(明治42年12月13日)

 この判例で、裁判官は、

  • 法律は、詐欺の手段によりて、積極的に財物の給付を得たる行為のみならず、消極的に財産上の利益を得たる行為、すなわち債務の免脱を得たる行為の如きもまた刑法第246条第2項によりて処罰する精神なりと解釈すると相当とす
  • 何となれば、害悪の観念において、右前段の行為と後段の行為とを区別し、前者を処罰して後者を不問に付すべき法律上の理由あるを見ざればなり

と判示しました。

財産上の利益の取得は、法律上、有効であると無効であるとを問わない

 財産上の利益の取得は、法律上、有効であると無効であるとを問いません。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(明治42年11月15日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法第246条第2項にいわゆる不法の利益を得、又は他人をしてこれを得せしめんとしむるは、適法の理由なくして他人より財産上の利益を自己に取得するか、又は第三者をしてこれを取得せしむるの義なり
  • しかして、その財産上の利益は、必ずしも法律上有効にこれを取得し、又は取得せしむることを要せず

と判示しました。

大審院判決(大正12年12月8日)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺罪における不法の利得は、実際上において、財産上不法の利得の生ずべき事実関係の存するをもって足り、その利得のよって生ずる法律行為が有効なると否とは、本罪の成立に影響を及ぼすものにあらず
  • 同時又は連続の行為により刑法第246条第1項第2項前段及び後段の罪を併せて犯したるときは、これに対し、包括的に刑法第246条を適用するをもって足る

と判示しました。

財産上の利益は、一時的利益であると永久的利益であるとを問わない

 刑法246条2項の財産上の利益は、一時的利益であると永久的利益であるとを問わないともされています。

大審院判決(大正4年3月5日)

 この判例で、裁判官は、

  • 債務者が詐欺を施し、これにより一時不法に債務の履行を免れたる行為は、詐欺罪を構成するものとす

と判示しました。

大審院判決(明治43年6月2日)

 この判例で、裁判官は、

  • 債権者が債権の支払請求を受けるに当たり、詐欺の手段を用いて、外形上債務の免脱を得たる以上は、その免脱の原因となりたる契約が法律上無効なるの故をもって、利益を将来に保持し得ざる場合といえども詐欺罪の構成を妨げす

と判示しました。

大審院判決(明治44年10月19日)

 この判例で、裁判官は、

  • 債務者が債権者を欺罔し、第三者に対する無効の債権をこれに譲渡し、もって自己の債務を免れしめたる行為は、不法に財産上の利益を収得したるものなるをもって、刑法第246条第2項の犯罪を構成するものとす

と判示しました。

 この判例の考え方は、例えば、被告人が、第三者に対する無効の債権証書を有効なもののように装って、自己の債権者に交付し、債権を譲渡されたと誤信した債権者をして、自己の債務を免除させた場合には、実体法上、その債務免除に関する契約は無効であって、債務は消滅しないから、後日、債権者から債務の弁済を請求され、被告人は、いったん取得した財産上の利益を喪失するに至ることがあるとしても、すでに成立した詐欺利得罪(2項詐欺)には何ら影響するものではないというものになります。

財産上の利益は、その経済的価値を計数的に算出できない場合もあるため、その利益を算数的に明示する必要はない

 財産上の利益は、性質上、その経済的価値を計数的に算出できない場合もあるため、必ずしも計数的に算出できる利益に限られません。

 なので、起訴状や判決書に記載する犯罪事実に、財産上の利益を算数的に明示する必要はないとされます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和14年10月16日)

 この判例で、裁判官は、

  • 抵当権実行のため、競売の申立て受けたる債務者が、競売の意思なきにかかわらず、他人名義をもって競売し、その代金を納付せず、再競売の止むなきに至らしめ、よって抵当権の実行を妨げたるときは、財産上の不法の利益を得たるものとす
  • 不法利得罪を断ずる判決においては、犯人が不法に財産上の利益を得たることを知り得べき程度に事実を判示するをもって足り、必ずしもその利益を算数的に明示するの要なきものとす

と判示しました。

詐欺取得罪(2詐欺)の具体例

 具体的にどのような事案が詐欺取得罪(2項詐欺)に該当するのかを理解するために、以下の判例を紹介します。

大審院判決(大正14年3月20日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人が、偽造為替手形14通の割引金を判示銀行における自己の当座預金口座に振替えしめたる事実は、すなわち現金の授受をなすことなく、単に帳簿上の帳簿勘定により割引金額に相当する預金債権を被告人において取得し、財産上不法の利益を得たるものにほかならざるがゆえに、刑法第246条第2項に問擬(もんぎ)せらるべき

と判示し、振込による詐欺について2項詐欺が成立するとしました。

大審院判決(昭和8年3月8日)

 受信銀行が、銀行為替係の作成した偽造の為替報告書を真正に成立したものと誤信して、金員を支払った場合は、送信銀行に対し、貸方勘定の権利を取得したとしても、詐欺罪は成立するとしました。

 裁判官は、

  • 両銀行間において、為替取組の契約が締結せられたる場合に、一方の銀行の為替係が為替資金の受け入れなきにかかわらず、為替報告書を偽造変造して、これを他方の銀行に発送し、その係員を欺き、金員の支払を受けたるときは、両銀行間の決裁関係如何をとわず、詐欺罪を構成するものとす

と判示し、振込による詐欺について2項詐欺が成立するとしました。

大審院判決(昭和9年12月3日)

 この判例で、裁判官は、

  • 虚偽記入をした貨物引換証を真正なるものの如く装い、銀行員を欺罔し、これを担保として荷為替を取り組み、その割引金を同銀行における当座預金に振替へしめたる行為は、刑法第246条第2項に該当す

と判示し、預金振替による詐欺について2項詐欺が成立するとしました。

大審院判決(明治42年12月13日)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺の手段により、提供すべき証拠金を提供せずして売買取引をなすは、刑法第246条第2項のいわゆる財産上不法の利益たるものにほかならず

と判示し、相手に提供すべき金銭を提供しない行為について、2項詐欺が成立するとしました。

大審院判決(明治44年10月19日)

 債務者債権者を欺いて、第三者に対する無効の債権を譲渡して自己の債務を免れた場合、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 債務者が債権者を欺罔し、第三者に対する無数の債権をこれに譲渡し、もって自己の債務を免れしめたる行為は、不法に財産上の利益を収得したるものなるをもって、刑法第246条第2項の犯罪を構成するものとす

と判示し、自己の債務を免れる行為について、2項詐欺が成立するとしました。

大審院判決(大正8年2月18日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告甲は、乙を欺罔し、賃貸名義の下に金員を交付せしめて、事実上これを騙取したるも、乙がこれによりて弁済を求め来るの恐れあるをもって、甲は更に進んで乙を欺罔し、右賃借関係を消滅せしむることを諾せしめ、もって右請求を受ける恐れなきに至らしめたるときは、刑法第246条2項にいわゆる財産上不法の利益を得たるものとす

と判示し、自己の借金を消滅させる行為について、2項詐欺が成立するとしました。

大審院判決(大正13年5月23日)

 この判例で、裁判官は、

  • 米殻取引所において、定期取引をなさんとする者が、取引員に対し、取引を委託するに当たり、特約なき限り、証拠金を取引員に提供するは一般の慣例なれば、委託者が欺罔手段により、証拠金の交付を免れたる場合には、刑法246条第2項の詐欺罪成立するものとす

と判示し、債務の免脱を得る行為について、2項詐欺が成立するとしました。

大審院判決(明治44年10月5日)

 この判例で、裁判官は、

  • 弁済の延期は、債務者をして一時債務の履行を免れしむるものなれば、債務者は、これによって現実的財産上の利益を得ることなしというを得ず
  • 従って、詐欺の手段により、弁済の延期をなさしむるにおいては、詐欺罪を構成すること論を俟たず

と判示し、債務の弁済の期限を延期させる行為について、2項詐欺が成立するとしました。

大審院判決(大正12年6月14日)

 この判例で、裁判官は、

  • 他人を欺罔するによって、債務弁済の延期を得ることは、詐欺罪として財産上不法の利益を得るものに該当す

と判示しまし、債務の弁済期限を延期させる行為について、2項詐欺が成立するとしました。

大審院判決(昭和3年11月1日)

 この判例で、裁判官は、

  • 債務の弁済を遅延せしむる目的をもって、不動産の競売において、真に競売代金を支払う意思なきにこだわらず、不動産競売の申し出をなし、競落許可の決定をなすに至らしめ、よって、一時、自ら又は他人をして弁済を免れ、又は免れしめたる行為は、詐欺罪を構成するものとす

と判示し、債務の弁済を免れる行為について、2項詐欺が成立するとしました。

大審院判決(昭和8年6月29日)

 この判例で、裁判官は、

  • 振出人名義の為替手形を偽造行使し、債権者を欺罔して手形の切替えをなさしめ、弁済期の猶予を得たるときは、刑法246条2項詐欺利得罪をも構成するものとす

と判示し、債務の弁済を猶予させる行為について、2項詐欺が成立するとしました。

大審院判決(昭和14年10月16日)

 この判例で、裁判官は、

  • 抵当権実行のため、競売の申立てを受けたる債務者が、競売の意思なきにかかわらず、他人名義をもって競落し、その代金を納付せず、再競売の止むなきに至らしめ、よって抵当権の実行を妨げたるときは、財産上方法の利益を得たるものとす

と判示しました。

最高裁決定(昭和34年3月12日)

 この判例で、裁判官は、

  • 債務者債権者欺罔し、弁済の猶予を得たときは、刑法第246条第2項の詐欺罪が成立する

と判示し、弁済の猶予を得る行為について、2項詐欺が成立するとしました。

大審院判決(昭和12年7月5日)

 他人間の建物保存登記抹消請求事件の訴訟において、原告の勝訴が予断しがたいにもかかわらず、人を欺く手段を用い、被告をして和解により建物保存登記抹消請求に応じさる行為は、2項詐欺が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 建造物保存抹消請求事件の民事訴訟において、原告の勝訴を予断し難きにかかわらず、詐欺手段により、被告をして右請求に応ぜしめたるときは、詐欺罪を構成するものとす

と判示しました。

大阪高裁判決(昭和44年8月7日)

 いわゆる「キセル乗車」の行為により鉄道職員に降車駅まで輸送の役務を提供させる行為について、裁判官は、

  • 刑法246条2項の詐欺利得罪は、他人に対して虚偽の事実を告知し、もしくは真実の事実を隠ぺいするなどして欺罔することにより、その他人を錯誤させ、その結果、特定の処分または意思表示(以下「処分行為」という。)をさせて、財産上の利益を得、または第三者をして得せしめた場合に成立するものであって、その利得は処分行為から直接に生ずるものではなくてはならないことはいうまでもない
  • 被欺罔者以外の者が右の処分行為をする場合であっても、被欺罔者が日本国有鉄道のような組織体の一職員であって、被欺罔者のとった処置により、当然にその組織体の他の職員から有償的役務の提供を受け、これによって欺罔行為をした者が財産上の利益を得、または第三者をして得させる場合にも成立するものと解すべきである
  • 乗車区間の一部について乗車券を所持していても、その乗車券を行使することが不正乗車による利益を取得するための手段としてなされるときには、権利の行使に仮託したものに過ぎず、とうてい正当な権利の行使とはいえないから、その乗車券を有する区間を包括し、乗車した全区間について詐欺罪が成立するといわなければならない

と判示し、キセル乗車について、2項詐欺が成立するとしました。

大阪地裁判決(平成17年3月29日)

 過激派の構成員である被告人らが、その活動拠点として使用する意図であるのにこれを秘してマンションの一室を借り受けた行為について、刑法246条2項の賃借権の詐欺が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 建物の賃借契約は、高度な人的信頼関係に基づく継続的契約であるから、賃貸人にとって、当該物件にどのような人物が住むか、当該貸主がどのような形態で使用するかは、当該契約を締結するか否かを判断する際の極めて重要な事項である
  • 被害者が、マンションの一室を協反主流派の活動拠点として使用するなどという使用形態を事前に知っていたならば、当然契約をせず、同室を貸さなかったであろうことはあきらかであって、このことは、住居用建物の賃貸借契約を締結する当事者にとって自明の事柄に属するものというべきである
  • したがって、被告人らにおいて、本件賃貸借契約締結時に同室が前期のとおりの形態で使用する意図を有していたのであれば、詐欺罪が成立することは明らかというべきである

と判示し、使用形態を偽ってマンションの一室を借りる行為について、2項詐欺が成立するとしました。

東京高裁判決(平成18年11月21日)

 他人になりすましてプラスチックカードを入手した上、消費者金融会社に極度借入基本契約を申し込み、同カードを利用限度額の範囲で繰り返し借入れができるローンカードとして利用可能にさせた行為は、刑法246条2項の詐欺罪を構成し、当該カードを利用して現金自動借入返済機から現金を引き出す行為については、窃盗罪が成立し、詐欺罪と窃盗罪は併合罪の関係にあるとしました。

 裁判官は、

  • 被告人が、ローンカードを入手するため、知人になりすまして、プラスチックカード1枚を入手した上、極度借入基本契約を申し込み、上記プラスチックカードを利用限度額30万円の範囲で繰り返し借入れができるローンカードとして利用可能にさせた点(以下「本件行為」ともいう。)につき、検察官が刑法246条2項の詐欺罪に該当するとして起訴したところ、原判決は、いまだ同罪にいう財産上の利益を認めるに足りる具体性がないなどとして、同罪の成立を否定した
  • 同カードを利用すれば、暗証番号による機械的な本人確認手続を経るだけで、現金自動借入返済機等により、利用限度額の範囲で現金の借入れが可能になるのであるから、事実上の経済的利益を得たものと認めることができる
  • 従来も、消費者金融会社が融資審査を行った上で発行したローンカードについては、その財物性が肯定され、これを詐取するれば詐欺罪(刑法246条1)が成立すると解されてきたが(最高裁平成14年2月8日決定参照)、この実質的根拠としては、本件の場合と同様、当該ローンカードを利用すれば、利用限度額の範囲において無審査で融資を受けられる点が重視されてきたものと考えられる
  • 以上のような本件行為によって得られる理系の実態等に照らすと、被告人は、刑法246条2項にいう「財産上方法の利益を得」たものと認められるから、被告人の本件行為は詐欺罪を構成する
  • 本件行為と当該ローンカードを利用して現金自動借入返済機から現金を引き出す行為は、社会通念上、別個の行為類型に属するものというべきである
  • このカードを現金自動借入返済機に挿入し、自ら同機を操作し作動させて現金を引き出した点については窃盗罪の成立を認めることができる
  • そして、本件行為に関する詐欺罪(刑法246条2項)と上記窃盗罪とは、併合罪の関係にあるものと解される

と判示しました。

最高裁判決(平成26年3月28日)

 長野県内のゴルフ倶楽部において、暴力団員の入場及び施設利用を禁止しているにもか
かわらず、暴力団員ではない旨の誓約書を提出して、入場して施設を利用した事案で、裁判官は、

  • 本件ゴルフ倶楽部では、暴力団員及びこれと交友関係のある者の入会を認めておらず、入会の際には「暴力団または暴力団員との交友関係がありますか」という項目を含むアンケートへの回答を求めるとともに、「私は、暴力団等とは一切関係ありません。また、暴力団関係者等を同伴・紹介して貴倶楽部に迷惑をお掛けするようなことはいたしません」と記載された誓約書に署名押印させた上、提出させていた
  • 入会の際に暴力団関係者の同伴、紹介をしない旨誓約していた本件ゴルフ倶楽部の会員であるAが同伴者の施設利用を申し込むこと自体、その同伴者が暴力団関係者でないことを保証する旨の意思を表している上、利用客が暴力団関係者かどうかは、本件ゴルフ倶楽部の従業員において施設利用の許否の判断の基礎となる重要な事項であるから、同伴者が暴力団関係者であるのにこれを申告せずに施設利用を申し込む行為は、その同伴者が暴力団関係者でないことを従業員に誤信させようとするものであり、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず、これによって施設利用契約を成立させ、Aと意を通じた被告人において施設利用をした行為が刑法246条2項の詐欺罪を構成することは明らかである

と判示し、ゴルフクラブの規約に反してゴルフ場をした行為について、2項詐欺が成立するとしました。