刑法(総論)

刑法上の占有とは?② ~「占有の主体 (法人は占有の主体になれない)」「幼児・精神病者・心神喪失者・死者の占有」「占有の機能(奪取罪と横領罪を区別する)」を解説~

占有の主体 (法人は占有の主体になれない)

 占有とは、

人が財物を事実上支配し、管理する状態

をいいます。

 そして、占有の主体は、

自然人

に限られます。

 つまり、占有の主体は人だけがなることができ、

法人は占有の主体にはなれない

ということです。

 占有は、現実的な観念です。

 なので、物の事実上の支配をなしうるのは、自らの意思を持ち、行動できる自然人に限られるのです。

 法人は、国家が法律上の目的のために、人為的に作り出した観念です。

 ゆえに、法人は、物の事実上の支配をなしえないことから、占有の主体となることはできないのです。

 そこで、法人の所有物は、

法人の代表者(代表取締役など)が、法人のために占有している

という考え方が採用されます。

 たとえば、A社が所有するパソコンが盗まれたという窃盗事件が起こった場合、犯罪事実は、

「A社の所有するパソコンが窃取された」

ではなく、

「A社の代表取締役〇〇さんが管理するパソコンが窃取された」

となります。

占有の主体は、自然人であれば誰でもなれる

 占有の主体は、自然人であれば、誰でもなれます。

 「誰でもなれる」という意味は、

意思能力責任能力がない者でも占有の主体になれる

という意味です。

 なので、

でも占有の主体になれます。

死者は占有の主体になれない

 自然人は、死亡と同時に占有の主体ではなくなります。

 死者の占有という観念を認め、死者も占有の主体になりえるとする説もあります。

 しかし、基本的には、死者は、自分の意思を持つことも、行動することもできず、財物を事実上支配することは不可能であることから、占有の主体にはなりえないとされます。

占有の機能(奪取罪と横領罪を区別する)

 占有という概念があるおかげで、

奪取罪と横領罪のどちらの犯罪が成立するかを区別できる

ようになります。

 奪取罪は、

他人が占有する物を侵害する

(他人が持っているものを奪う)

ときに成立する犯罪です。

 たとえば、

が奪取罪です。

 横領罪は、

自己が占有する他人の物を侵害する

(他人から預かっているものを奪う)

ときに成立する犯罪です。

 横領罪業務上横領罪が該当します。

 ちなみに、占有離脱物横領罪(落とし物を拾って自分のものにする)も横領罪にカテゴリー化されますが、占有離脱物横領罪は、

他人の占有を離れた物を侵害する

ときに成立します。

 占有離脱物横領罪では、他人の占有からの離脱が問われるにとどまり、自己占有の有無は問題にはされません。

 このように、

物の占有がどこにあるか

で同じ物をとる行為でも、成立する犯罪が違ってきます。

 占有という概念があるおかげで、

奪取罪と横領罪のどちらの犯罪が成立するかを区別できる

ようになるのです。

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