刑法(公務員職権濫用罪)

公務員職権濫用罪(2)~「『その職権を濫用して』における『職権』と『濫用』とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

「その職権を濫用して」における「職権」と「濫用」とは?

 公務員職権濫用罪は、刑法193条において、

公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、2年以下の拘禁刑に処する

と規定されます。

 この記事では、「その職権を濫用して」における「職権」と「濫用」の意義を説明します。

「職権」とは?

 公務員職権濫用罪における「職権」とは、

公務員の一般的職務権限のすべてをいうのではなく、そのうち、職権行使の相手方に対し法律上事実上の負担ないし不利益を生ぜしめるに足りる特別の職務権限

をいいます(最高裁決定 平成元年3月14日)。

 職権行使の相手方に制限はなく、相手方が公務員でもよいとされます。

「濫用」とは?

 職権を濫用するとは、

職権の行使に仮託して実質的、具体的に違法、不当な行為をすること

をいいます。

 最高裁決定(昭和57年1月28日)は、

  • 刑法193条にいう「職権の濫用」とは、公務員が、その一般的職務権限に属する事項につき、職権の行使に仮託して実質的具体的に違法不当な行為をすることを指称する

と判示しています。

 したがって、全く職権の行使に仮託していない場合、例えば、公務員が純然たる私人を装って行為しているような場合は、職権を濫用することには該当しません。

 この点に関し、最高裁決定(平成元年3月14日)は、

  • 警察官が職務として行ったものであっても、終始何人に対しても警察官でないことを装ってした本件電話盗聴行為は、職権を濫用して行ったものとはいえず、公務員職権濫用罪を構成しない

と判示しています。

 濫用に当たるかどうかの判断基準は、

  • 具体的な公務員の職権行為の目的
  • それが行われた状況から見ての必要性・相当性の有無
  • 職権行使が許される法令上の要件を満たしているか否か

などの諸般の要素を考慮して決せられます。

 特に、犯罪捜査や警備活動、刑の執行などの人の権利や行動を制約し、プライバシーを侵害することの多い公務の遂行については、これらの活動が実質的に相当なものであったかどうかを具体的状況に照らして判断されることになります。

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