刑法(公務員職権濫用罪)

公務員職権濫用罪(4)~「『義務のないことを行わせ』『権利の行使を妨害した』とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

「義務のないことを行わせ」「権利の行使を妨害した」とは?

 公務員職権濫用罪は、刑法193条において、

公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、2年以下の拘禁刑に処する

と規定されます。

 この記事では、「義務のないことを行わせ」と「権利の行使を妨害した」の意義を説明します。

「義務のないことを行わせ」とは?

 「義務のないことを行わせ」とは、

法律上行うべき具体的な義務がないことを行わせること

をいいます。

 例えば、金銭の支払債務は存在しても、その弁済期が到来していないような場合に、これを支払わせる行為が該当します。

 「義務」は、公法上の義務か私法上の義務かを問いません。

 「行わせ」について、相手方に積極的な作為をさせることが通常ですが、例えば、一定の場所にとどまっていることを命ずるような場合も含まれるとされます。

 単に受忍させるだけであるときは、「義務のないことを行わせ」ることではなく、次に説明する「権利の行使を妨害」することに該当します。

「権利の行使を妨害した」とは?

 「権利の行使を妨害した」の「権利」とは、

  • 法律に明記された権利に限らず、法令上、保護されるべき利益であれば足りる
  • 公法上の権利であると私法上の権利であるとを問わない
  • 債権物権はもちろん、自由権なども含む

とされます。

 特定の具体的な権利が存在しない事項(例えば、起訴、不起訴における告訴人や犯罪被害者の利益など、公務員が専ら公益的理由により判断・決定をする事項)に関するもので、個々人の具体的な法的権利、義務に影響しない事項については、これらの者がそのことにより反射的に何らかの不利な影響を受けることがあるとしても、ここでいう権利の妨害には当たらないとされます。

 「権利の行使を妨害」するとは、

権利の具体的行使を妨げること

をいいます。

 抽象的・観念的な権利の侵害をいうものではなく、何らかの権利、利益の具体的な実現が現に妨げられることが必要であると解されています。

 権利の行使を妨害することが、相手方の意思の自由を制約するような性質のものである必要があるかどうかという問題があります。

 この点に関しては、基本的には、相手方が意思の自由を制約された結果として、権利の行使が妨げられることを要すると解すべきとされます。

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