刑法(公務員職権濫用罪)

公務員職権濫用罪(8)~「本罪の罪数の考え方」を説明

 前回の記事の続きです。

公務員職権濫用罪の罪数の考え方

 公務員職権濫用罪の罪数の考え方を理解するに当たり、まずは本罪の保護法益を理解する必要があります。

 公務員職権濫用罪の保護法益は、

第一次的には、公務員の行う職務の公正に対する社会の信頼

であり、

二次的には、公務員の職権濫用行為によってその相手方である個人の自由、権利

です。

 それを踏まえ、公務員職権濫用罪(刑法193条)の罪数の考え方は、以下の2つがあります。

  1. 公務の公正に対する社会の信頼の保護という点を重視した場合、相手方が何人いた場合であっても、職権濫用行為が一個である以上、一罪となる(1個の公務員職権濫用罪が成立する)
  2. 相手方の意思、行動の自由も保護法益となると考えれば、相手方の人数分の公務員職権濫用罪が成立し、各公務員職権濫用罪は観念的競合の関係に立つ

 そして、公務員職権濫用罪の罪数の考え方は、原則として②の考え方によるべきと解されています。

 ただし、職権が、不特定、多数の者に作為又は不作為を命ずる形態の場合には、①の考え方を採り、公務員職権濫用罪は単に一罪になると考えるべきとされます。

 この点の考え方については、最高裁決定(平成22年3月17日)の街頭募金詐欺について包括一罪とした判例が参考になります。

 裁判所は、

  • 街頭募金の名の下に通行人から現金をだまし取ろうと企てた者が、約2か月間にわたり、事情を知らない多数の募金活動員を通行人の多い複数の場所に配置し、募金の趣旨を立看板で掲示させるとともに、募金箱を持たせて寄付を勧誘する発言を連呼させ、これに応じた通行人から現金をだまし取ったという本件街頭募金詐欺については、⑴不特定多数の通行人一般に対し一括して同一内容の定型的な働き掛けを行って寄付を募るという態様のものであること、⑵1個の意思、企図に基づき継続して行われた活動であること、⑶被害者が投入する寄付金を個々に区別して受領するものではないことなどの特徴にかんがみると、これを一体のものと評価して包括一罪と解することができる

としました。

次の記事へ

公務員職権濫用罪、特別公務員暴行陵虐罪等の記事一覧