刑法(公務員職権濫用罪)

公務員職権濫用罪(5)~「本罪の故意」を説明

 前回の記事の続きです。

公務員職権濫用罪の故意

1⃣ 公務員職権濫用罪(刑法193条)は故意犯です(故意犯の説明は前の記事参照)。

 公務員職権濫用罪の故意が認められるためには、

職務権限を逸脱して、人に義務のないことを行わせ、あるいは権利の行使を妨害するという認識・認容

が必要になります。

 客観的に職権を濫用する事実があっても、上記の認識・容認がなければ、故意があるとはいえず、公務員職権濫用罪は成立しません。

2⃣ 公務員が客観的に職権の濫用となるべき事実を認識はしているが、それが正当であると考えているような場合において、故意があるといえるかどうかが問題になります。

 錯誤に関する通説的な理解に従えば、このような場合は、原則として、法律の錯誤に該当し、故意を阻却しないため、公務員職権濫用罪が成立することとなります。

 しかし、「濫用」に該当するかどうかの判断は、多くの場合、具体的事情に左右され、また、法律の解釈、適用の在り方に影響されるところが大きいため、その判断は裁判所の評価的による部分が大きいとされます。

 事後的に違法・不当な行為であると判断される場合であっても、行為の時点においては、その場での判断を迫られ、適法なものと考えて、一定の行動に出ることも少なくありません。

 このような事情を考えると、公務員職権濫用罪の故意があるとするには、行為者において、

不当に自己の職権を用いるという意思が必要になる

とする見解が有力となっています。

 特に、法律上の解釈が分かれるような場合には、事後的に別の法律解釈が正しいとされ、これと異なる解釈によって採った措置が違法とされてもそのことによって、公務員職権濫用罪の故意があるとすることはできないとされます。

 もっとも、ここでいう「不当」とは、法律上、そのような職権の行使が予定されていない、あるいは認められていないという意味です。

 なので例えば、犯罪の具体的、客観的な嫌疑がないのに、主観的な確信を持って捜索等を行い、その結果、たまたま、真犯人である証拠を発見したような場合など、結果的にそのことによって特定の目的が実現され、公務の遂行が的確に行われたとしても、また、それを目的として行われたとしても、そのことによって公務員職権濫用罪の故意がないとすることはできないとされます。

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