刑法(公務員職権濫用罪)

公務員職権濫用罪(6)~「既遂時期」を説明

 前回の記事の続きです。

公務員職権濫用罪の既遂時期

 公務員職権濫用罪(刑法193条)については、未遂罪の処罰規定がありません。

 そこで、公務員職権濫用罪がいつ既遂に達するかが重要となります(既遂の説明は前の記事参照)。

 相手方に対し、

積極的に義務のない行動を行わせたとき

は、その時に既遂となることは明らかです。

 これに対し、相手方に一定の不作為を受忍させたときは、いつ既遂に達するか問題となります。

 通常の場合には、相手方の意思を制約して、

不作為を受忍させたと認めるに足りる一定程度の時間が経過したとき

に既遂になると考えられています。

 しかし、不作為を受忍させる場合は、必ずしも、その場で、直ちに行われるとは限りません。

 最高裁決定(昭和38年5月13日)は、

  • 執行力ある和解調書の正本には、土地を執行吏の保管に付し、その公示を命ずる旨の条項が存在しないのに、執行吏が職権を濫用し、右和解調書の執行として「本職これを占有保管する」旨虚偽の記載をした公示札を土地上に立てたときは、その土地がたまたま第三者の所有に属し、公示札表示の土地と異なるものであっても、公務員職権濫用罪が成立する

とした判決です。

 この判決のように、公務員の職権を濫用し、立入禁止の公示札を掲示して、将来その場に現れる者に対して不作為を受忍させるような場合もあります。

 このような場合には、

相手方となるべき者が不作為を受忍することとなるような状態を作出したとき

をもって既遂となると解すべきとされます。

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