刑法(公務員職権濫用罪)

公務員職権濫用罪(9)~「公務員職権濫用罪と他罪との関係」を説明

 前回の記事の続きです。

公務員職権濫用罪と他罪との関係

 公務員職権濫用罪(刑法193条)と

  1. 特別公務員職権濫用罪(刑法194条
  2. 特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条
  3. 強要罪刑法223条
  4. 恐喝罪刑法249条)、強盗罪刑法236条)、不同意わいせつ罪(刑法176条)、不同意性交等罪(刑法177条
  5. 特別刑法の法律に規定される職権濫用罪

との関係を説明します。

① 特別公務員職権濫用罪との関係

 公務員職権濫用罪(刑法193条)と特別公務員職権濫用罪(刑法194条)との関係を説明します。

 特別公務員職権濫用罪は、

裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときに成立する犯罪

です。

 公務員職権濫用罪は、職権濫用罪の一般的規定であることから、特別公務員職権濫用罪が成立するときは、公務員職権濫用罪は成立しません。

② 特別公務員暴行陵虐罪との関係

 特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条)は、

  1. 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたとき
  2. 法令により拘禁された者を看守し又は護送する者が、その拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたとき

に成立する犯罪です。

 特別公務員暴行陵虐罪は、公務員の行った職務が職権行使とはいえない場合の罪なので、公務員職権濫用罪と特別公務員暴行陵虐罪とが同時に成立することはないと考えられており、公務員職権濫用罪と特別公務員暴行陵虐罪とが同一機会に行われたときは、特別公務員暴行陵虐罪の包括一罪と解すべきとされます。

③ 強要罪との関係

 公務員職権濫用罪と強要罪刑法223条)の関係については争いがあります、以下の3つの考え方が提唱されています。

  1. 公務員職権濫用罪と強要罪とが同質のものであると理解する場合は、暴行、脅迫を手段として行われたときは、強要罪のみが成立し、その他の場合には公務員職権濫用罪のみが成立する
  2. 公務員職権濫用罪と強要罪とが別の性質のものであると理解する場合には、公務員職権濫用罪と強要罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合の関係になる
  3. ②の考え方を採り、公務員職権濫用罪と強要罪の両罪が成立するとすると、刑法193条刑法223条の「義務なきことを…」について二重に評価することになるという難点があることから、公務員職権濫用罪と暴行罪・脅迫罪が観念的競合として成立する

④ 恐喝罪、強盗罪、不同意わいせつ罪、不同意性交等罪との関係

 恐喝罪刑法249条)、強盗罪刑法236条)、不同意わいせつ罪(刑法176条)、不同意性交等罪(刑法177条)との関係は、これらの罪のみが成立して、公務員職権濫用罪を構成することはありません。

 これらの罪の場合には、その行為が職権に該当するような事態は、実際には多くないといえます。

⑤ 特別刑法に規定される職権濫用罪との関係

 特別刑法に別の職権濫用罪が定められている場合は、公務員職権濫用罪ではなく、その特別刑法の法律によって処罰されることとなります。

 例えば、

が該当します。

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