連続して行われた横領行為が包括一罪とされた事例
包括一罪とは、
実行した複数の犯罪行為が、複数ではなく、1個の犯罪行為に該当する場合
をいいます(詳しくは前の記事参照)。
横領罪において、連続して行われた横領行為が、併合罪として数個の横領罪ではなく、包括一罪として1個の横領罪として評価されることは多々あります。
判例は、横領罪に関しては、ある程度幅広く包括的評価を加える傾向にあります。
特に、被害法益が単一で、同一又は継続した意思のもとに同様の横領行為が繰り返されている場合には、ある程度の期間にわたっても包括一罪と認められる傾向にあるといえます。
参考となる判例は以下のとおりです。
広島高裁判決(昭和25年9月13日)
この判例は、
としました。
この判例は、
- 同一性質の金員を、単一又は継続した犯意の下に、いずれも自己の用途に費消したというのであって、その所為の態様も、軌を一にしたものと認められるのであるから、以上の所為は社会観念上これを包括して一個の犯罪と認められうる
としました。
この判例は、
- 預った金員を保管中、自己のため、数回にわたってこれを費消した如き場合において、被害法益が単一で継続した意思の発動に基き、比較的日時が近接して同種行為がくり返されているようなときは、たとえ費消行為が数個であっても、これを包括して観察し、一個の費消横領罪と見るのが相当である場合もしぱしば存する
としました。
大阪高裁判決(昭和28年11月11日)
この判例は、
- その占有の由来を同じくし、その犯罪の態様はひとしく費消横領であり、その時及び場所も共に近接していることが推知し得られ、継続した意思の下に、単一の法益を浸したものと認められるから、本件公訴事実はいわゆる包括一罪にあたる
としました。
名古屋高裁判決(昭和29年5月25日)
この判例は、
- 同一性質の金員を費消するため着服したというのであって、その所為の態様は軌を一にしたものと認められるのであるから、単一又は継続した意思の下に着服したものと認められ、かつ被害法益も単一であるから、以上の所為は社会観念上包括した一個の犯罪と認めるを相当とする
としました。
大阪高裁判決(昭和30年6月27日)
業務上横領に関する事案で、業務上横領罪は継続して同一の業務に従事する身分を有することを前提とし、
- 占有状態が同一であり、かつ単一若しくは継続した意思の発動として領得行為が接着して行われた場合には、たとえその具体的行為が数個であっても、これを包括して観察し、一罪と認定するのを相当とする
としました。
大阪高裁判決(昭和49年2月7日)
この判例は、
- 包括一罪の要件としての犯意の継続とは、各個の行為が、当初においてすべて予定されていることを意味するのではなく、まず一個の行為を遂行したのちにおいて、当初の犯意の一部が継続中、新たに同種の犯行を決意し、その実行行為に及んだ場合を包含するものである
- また横領罪の犯意は、自己の支配内にある他人の財物を処分する認識があれば足りるのであるから、その処分の態様、使途に相違があっても、両者間になお犯意の継続を認めることは可能である
として、共犯者と行った64回の業務上横領と、その後単独で行った1回の業務上横領は、包括一罪になるとしました。
連続して行われた横領行為が包括一罪ではなく併合罪とされた事例
上記のような横領罪の連続犯の事案でも、包括一罪ではなく、併合罪と判断された事例も見受けられます。
東京高裁判決(昭和28年5月18日)
この判例は、
- 犯行が長期間にわたるが、各犯行の間は必ずしも近接しておらず、犯行態様も必ずしも同一とはいい得ないし、随時、必要に応じて着服横領したものであるから、当初から単一の犯意をもって着服横領しようとする包括的犯意があったとは認められない
としました。
東京高裁判決(昭和36年12月23日)
この判例で、裁判官は、
- 犯罪の単複を決定するに当たっては、犯行時の接着、被害法益の単一、犯行態様の同一性等はもとより考慮を要する要素ではあるけれども、右の外犯罪意思が単一であるか否かの点についても、これを考慮すべきものである
と述べた上、
- 3か月半の間の8回の横領行為のうち、同一日の2回分については一罪としたが、その他は随時、新たに犯意を抱き、その都度着服したもので、当初から包括的犯意があったものとは認められず、併合罪関係にある
としました。
委託を受けて売却した不動産の代金を、買主から受け取る度に領得した事案で、裁判官は、
- 横領罪においては、寄託関係における寄託者と、受寄者間の信頼関係の違背という要素のあることは否定できないが、保管中の特定物を、不法に領得する行為が違法とされ処罰の対象となっているもので、いわゆる領得罪にいれて考えるべきものであるから、横領罪の罪数を定めるについては、必ずしも寄託関係の個数を標準として、これを決すべきものではない
とした上で、
- 被告人の領得意思の実現行為はそれぞれ別個のものであり、これを全体として一個のものとしてみることはできない
としました。
最高裁判決(昭和30年10月14日)
市役所の税務課職員が、徴収して業務上保管中の滞納税金を着服横領した事案で、裁判官は、
- 2年余の間に50回にわたり行ったもので、共犯者も時により異なり、行為の態様も必ずしも同一ではなく、各種滞納税金を徴収保管するに従い、随時、必要に応じて着服横領したもので、当初から一括して着服しようとする包括的犯意のあったことが認められず、各着服行為が独立した一個の犯罪であり、それらが併合罪の関係にある
としました。