刑法(横領罪)

横領罪(43) ~横領行為の類型④「担保供用による横領罪」「質権・抵当権・譲渡担保権の設定による横領」を判例で解説~

 横領行為の類型は、

①売却、②二重売買(二重譲渡)、③贈与・交換、④担保供用、⑤債務の弁済への充当、⑥貸与、⑦会社財産の支出、⑧交換、⑨預金、預金の引出し・振替、⑩小切手の振出し・換金、⑪費消、⑫拐帯、⑬抑留、⑭着服、⑮搬出・帯出、⑯隠匿・毀棄、⑰共有物の占有者による独占

に分類できます。

 今回は、「④担保供用」について説明します。

担保供用による横領罪

 担保とは、債務者債務を履行しない場合に備えて、債権者に提供され、債権弁済を確保する手段となるものをいいます。

 委託物の担保供用は、所有権自体の移転ではありませんが、行為者が金融の利益を受けるとともに、被担保債権(担保物権により担保されている債権)が弁済されないときは、換価処分を受けることになり、委託者の委託物に対する所有権が侵害されることから、横領に当たります。

 横領罪となる担保の方法として、物や不動産に対する

が挙げられます。

(1) 質権の設定による横領

 委託物に質権を設定することで、横領罪が認定された判例として、次のものがあります。

大審院判決(明治38年10月16日)

 この判例は、他人から委託された物を、委託の趣旨に反して入質する行為は横領となるとしました。

 裁判官は、

  • 質権の設定は、物権的な権利を債権者に与えるもので、それ自体が横領行為に当たるので、その後、質権の実行があるか否かにかかわらず、横領罪が成立する.

としました。

大審院判決(明治42年11月29日)

 この判例は、他人から委託された物を、委託の趣旨に反して入質する行為について、入質の際に、後日受け戻す意思があったか否かにかかわらず、横領罪が成立するとしました。

転質による横領罪の成否

 転質(てんしち)とは、『質権者が、質物をさらに自己の債務の担保とすること』をいい、質権者は、自己の責任で、質物について、転質をすることを認められています(民法348条)。

 質権者は、民法で転質をすることを認められているのであるから、転質をすることは横領罪にならないと考えられそうですが、転質が横領罪になる場合もあります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院決定(大正14年7月14日)

 この判例で、裁判官は、

  • 質権者が債務者の承諾なく質物の上に権利の範囲を超えない限度で質権を設定することは、民法上許容されているので横領罪とならないが、新たに設定した質権が、当初の質権の範囲を超え、債権額、存続期間等、転質の内容、範囲、態様が質権設定者(債務者)に不利な結果を生ずる場合には横領罪が成立する

としました。

 そして、この大審院の判例は、以下のとおり、最高裁においても踏襲されました。

最高裁決定(昭和45年3月27日)

 商品仲買人が、根質権の設定として、顧客から預託された委託証拠金充用証券を、他に担保に差し入れた事案で、裁判官は、

  • 民法348条により、質権者は、質権設定者の同意がなくても、その権利の範囲内において、質物を転質となしうるのであるが、新たに設定された質権が原質権の範囲を超越するとき、すなわち、債権額、存続期間等転質の内容、範囲、態様が質権設定者に不利な結果を生ずる場合においては、その転質行為は横領罪を構成するものと解すべきである
  • 本件被告人の各担保差入行為は、原質権の範囲を超越しているものと認定して、業務上横領罪の成立を認めた原判断は相当である

と判示しました。

(2) 抵当権・譲渡担保権の設定による横領

 委託された他人の所有物に対し、委託の趣旨に反しての抵当権の設定や譲渡担保権の設定を行うことも横領罪となります。

 この点について、参考となる判例として、次のものがあります。

大審院判決(昭和9年7月19日)

 この判例で、裁判官は、

  • 自動車の月賦金完済に至るまでは、その所有権を売主に留保し、その間、買主において、これを占有使用する特約による自動車の月賦買取契約において、買主が月賦金を完済せざるに先立ち、これを他に売渡担保と為したるときは、横領罪を構成す

と判示しました。

 他人に譲渡した不動産の所有権移転登記前に、その不動産に抵当権を設定し、その旨の登記をすれば横領罪となります。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和31年6月26日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人Bにおいて、不動産所有権がCにあることを知りながら、被告人Aのために二番抵当権を設定することは、それだけで横領罪が成立するものと認めなければならない

と判示しました。

(3) 質権、抵当権の設定による横領罪の既遂時期

 質権、抵当権の設定による横領罪の既遂時期に関する判例として、以下のものがあります。

質権の設定による横領罪の既遂時期

大審院判決(大正11年2月23日)

 質権に関し、宿泊した宿を立ち去る際に、宿泊費等の担保とする趣旨で委託物を差し置いた事案において、担保に供する意思表示をした時点で横領罪が成立するとしました。

抵当権の設定による横領罪の既遂時期

 抵当権の設定による横領罪の既遂時期については見解が分かれています。

 抵当権の登記未了のときには、抵当権者は、真の所有者に対して、抵当権取得を有効に対抗できず、いまだ実害は発生していないといえるから、原則として抵当権設定登記を完了した時点で横領罪が成立するとの見解があります。

 一方で、虚偽表示による抵当権設定に関し、仮登記であっても横領罪が成立するとの判例があります(最高裁決定 平成21年3月26日)。

 また、登記は済まなくとも、現実に抵当権を設定し、金融の利益を得ているときは、不法領得の意思は、確定的に外部に発現されているものと認められるため、抵当権を設定した時点で横領罪が成立するとする見解もあります。

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