前回に引き続き、横領罪(刑法252条)と他罪との関係について説明します。
今回は、横領罪と
- 盗品等に関する罪
- 商品先物取引法違反
- 労働基準法違反
との関係について説明します。
盗品等に関する罪との関係
盗品等に関する罪と横領罪の関係について判示した判例として、以下のものがあります。
大審院判決(昭和8年5月2日)、東京高裁判決(昭和30年3月19日)
この判例で、裁判官は、
と判示しました。
東京地裁判決(昭和43年10月18日)、控訴審:東京高裁判決(昭和44年3月18日)
この判例は、外務省勤務の外務事務官を唆し、同人が職務上保管する秘扱い資料を持ち出させて交付を受けた事案で、横領教唆罪のほかに、盗品等無償譲受け罪が成立するとしました。
大審院判決(明治43年1月17日)
この判例で、裁判官は、
- 自己の占有する他人の物を、自己の物のようにして不法に処分する意思が実行された場合には横領罪が成立し、その処分の目的物は、財産に対する罪に当たる行為によって領得された物(贓物)となるから、以後、盗品等に関する罪の対象物となる
としました。
商品先物取引法(旧商品取引所法)違反との関係
商品先物取引法(旧商品取引所法)違反と横領罪の関係について判示した判例として、以下のものがあります。
最高裁判決(昭和41年7月13日)、最高裁判決(昭和42年2月23日)
この判例で、裁判官は、
- 商品仲買人が、商品市場における売買取引を受託するにあたり、委託者から担保として徴する委託証拠金の代用たる有価証券(いわゆる委託証拠金充用証券)は、商品取引所法92条(現在の商品先物取引法209条1項)にいう、商品仲買人が委託者から預託を受けて又はその者の計算において占有する物には含まれない
- 委託者から預かり保管していた委託証拠金充用証券を、委託者の書面による同意を得ないで担保に供し、あるいは処分したとしても、業務上横領罪の成否を論ずることは別として、少なくとも旧商品取引所法92条違反の罪は成立しない
としました。
労働基準法違反との関係
労働基準法違反と横領罪の関係について判示した判例として、以下のものがあります。
名古屋高裁判決(昭和24年10月22日)
この判例で、裁判官は、
- 工務店に鍛冶工及びアセチレンエとして雇われた者が、部下3名の給料について工務店との間で取り決めながら、これを同人らに知らせず、工務店から同人らに支払われる給料を受け取り、そのうち合計3万6800円を着服した場合、労基法6条違反の罪(中間搾取)と横領罪とは、法益を異にし、互いに吸収関係にも立たないのであるから、いずれも成立した上で観念的競合の関係に立つ
としました。
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