強盗罪と強制性交等罪との関係
強盗罪(刑法236条)と強制性交等罪(旧法名:強姦罪)(刑法177条)との関係について説明します。
強盗罪を犯した者が、強制性交等罪を犯せば、刑法241条の「強盗・強制性交等罪」が成立します。
これに対し、最初に強制性交罪を犯した犯人が、次いで、強盗罪を犯した場合には、刑法241条の強盗・強制性交等罪は成立しません。
この場合は、強制性交等罪と強盗罪の両罪がそれぞれ独立して成立し、両罪は併合罪となります。
この点について、以下の判例があります。
最高裁判例(昭和24年12月24日)
この判例は、犯人が被害者を強姦(現行法:強制性交)し、強姦行為の直後に強盗の犯意を生じ、強姦された被害者の畏怖に乗じて金品を強取した事案について、強盗強姦罪(現行法:強盗・強制性交等罪)ではなく、強姦罪(現行法:強制性交等罪)と強盗罪が成立するとしました。
最高裁判所の裁判官は、原判決が上記事案について、強盗強姦罪を認定したのに対し、
- 被告人の行為が強盗強姦罪を構成するかどうかということと、その犯情が強盗強姦罪と同じであるということは別の事柄である
- 原審が婦女を強姦した後、その畏怖に乗じて、さらに同女から金員をまでも強奪した被告人の本件犯行を、その情状において、強盗犯人が婦女を強姦した場合といささかも異ならないとするのであれば、その点は被告人の対する量刑上十分に考慮すれば足りるのである
- 次に、強盗強姦罪は、強盗罪と強姦罪の結合犯であるから、強姦罪と強盗罪に該当する行為とが同一機会に行われさえすれば強盗強姦罪を構成するというのであれば、それは結合犯の概念を正解しえないものというほかなく、到底採用に値しない。
- 以上のとおり、被告人の本件所為は、強姦罪と強盗罪との併合罪をもって処断すべきである
と判示し、強盗強姦罪(強盗・強制性交等罪)ではなく、強姦罪(強制性交等罪)と強盗罪のニ罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。
「強盗・強制性交等罪」と「強盗殺人罪」の併合罪を認定した判例
参考になる判例として、「強盗・強制性交等罪」と「強盗殺人罪」の併合罪を認定した判例があるので紹介します。
前橋地裁桐生支部判決(昭和56年3月31日)
この判例は、カップルを襲って、男性Gから自動車と金品を奪い、女性Fを連れ出して約2時間10分後に強制性交し、さらに2時間50分後に、女性Fを殺害した事案です。
裁判官は、男性Gに対しては、強盗罪が成立しました。
女性Fに対しては、強盗・強制性交等罪(刑法241条1項)と強盗殺人罪(刑法240条)のニ罪が成立し、両者は併合罪であるとしました。
この判例の注目すべき判示事項は、
- 車を強取してから約2時間10分後に被害者を強姦し、さらに2時間50分後に殺害した事案について、強盗強姦罪及び強盗殺人罪の成立が認めたこと
- カップルを襲って、男から車と金品を奪い、女を強姦した後に殺害した事案について、男に対する強盗罪と、女に対する強盗強姦罪及び強盗殺人罪が成立し、両者は併合罪であるとしたこと
にあります。
被告人の弁護人は、
- 被告人がF子を強姦したのは、車を強取してから約2時間半後、同女を殺害したのは強盗から約5時間後であり、また、犯行場所の隔たりを考慮すれば、被告人には、強盗・強姦・殺人の各罪が成立し、強盗強姦、強盗殺人罪は成立しない
と主張して控訴しました。
この弁護人の主張に対し、裁判官は、
- まず、強盗強姦罪及び強盗殺人罪が成立するには、強盗犯人が、強盗の機会に、強姦行為及び殺害行為を行なったことを要し、かつ、それで足りると解されるところである
- 被告人は、Gに対し、アイスピックを突きつけて、車を強取したのであるから、強盗犯人であることは明らかである
- そこで、強姦行為及び殺人行為が、強盗の機会に行なわれたものであるかどうかについて検討するに、被告人は、Gに対しアイスピックを突きつけて脅迫し、車を強取した後も、同人にアイスピックを突きつけるなどした
- さらに、同人及びF子に対し、その手足や身体をロープで縛ったり、猿ぐつわをはめたりして暴行をするなどの行為を繰り返していたのであるから、被害者たるG及びF子の反抗を抑圧するに足る程度の暴行、脅迫を継続していたとみるべきであり、たとえ一時的に被告人と身体の拘束を解かれたF子との間で穏やかな会話を交した関係があったとしても、それはF子にとってみれば、被告人のとった前後の行動からして畏怖する余り、被告人の意のままに従わざるを得ない状況に置かれたためとみることができる
- したがって、前記強盗から殺人まで約5時間の経過があり、また場所的に約270メートル離れているにしても、被告人の前記強姦及び殺人はこうした状況下において、強取した自動車内で犯されたものであるから、本件犯行を全体としてみれば、強盗の機会になされたものであると言うべきである
- なお、強盗強姦罪及び強盗殺人罪は、強盗の犯行に際して、しばしば強姦や殺人等の残虐な行為が伴うことに注目し、結合犯として加重する犯罪類型を設けたものであるから、必ずしも強盗の実行行為前に、姦淫の故意や殺人の故意のあることを要しない
- 従って、被告人がF子を強姦し、殺害する意思を生じた時期が、右強盗の実行行為の後であることは、強盗強姦罪及び強盗殺人罪の成立を妨げる事情とはいえない
- よって、この点に関する弁護人の主張は理由がない
と判示しました。