公務執行妨害罪における正当行為(労働争議行為)
労働争議行為(労働者が経営者に対し、賃上げを求める行為など)は、正当行為(刑法35条)であり、違法性が阻却され、威力業務妨害罪や強要罪などの犯罪は成立しません(詳しくは前の記事参照)。
しかし、労働争議行為中に公務執行妨害が行われた場合は、公務執行妨害罪が成立します。
公務員に対する暴行・脅迫が伴う公務執行妨害罪についてまで違法性を阻却しないという考え方になります。
労組法1条2項本文は、「刑法(明治40年法律第45号)第35条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であって前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする」と規定し、労働組合の正当な行為は、刑法における「正当行為」の一種として違法性が阻却される旨定めています。
かつ、労組法1条2項但書において、「但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない」とも規定しています。
つまり、法は、労働争議行為でも、暴行・脅迫の伴うものについては、刑事免責を認めていません。
この点、参考となる判例として、以下のものがあります。
この判決で、裁判官は、
- 労働組合法第1条第2項においても労働組合の団体交渉その他の行為について無条件に刑法第35条の適用があることを規定しているのではないのである
- ただ、労働組合法制定の目的達成のために、すなわち、団結権の保障及び団体交渉権の保護助成によって労働者の地位の向上を図り、経済の興隆に寄与せんがためになした正当な行為についてのみこれが適用を認めているに過ぎないのである
- 従って、勤労者の団体交渉においても、刑法所定の暴行罪又は脅迫罪に該当する行為が行われた場合、常に必ず同法第35条の適用があり、かかる行為のすべてが正当化せられるものと解することはできないのである
と判示しました。
団体交渉中になされた集団的脅迫事件(暴力行為等処罪に関する法律違反)につき、裁判官は、
- 旧労働組合法1条2項の規定は、勤務者の団体交渉においても、刑法所定の暴行罪又は脅迫罪にあたる行為が行われた場合にまでその適用があることを定めたものでない
と判示しました。
暴力の行使を伴う場合は、憲法28条に保障された争議行為としての正当性の限界を超えるもので、刑事制裁を免れないとしました。