令和5年司法試験の刑法論文問題から学ぶ

 令和5年司法試験の刑法論文問題の答案を作成してみました。

 この論文からは以下のテーマが学べます。

1⃣ 詐欺罪刑法246条

2⃣ 強盗罪236条)、強盗致傷罪刑法240条236条

3⃣ 偽計業務妨害罪刑法233条後段)、威力業務妨害罪刑法234条

4⃣ 刑法総論

  • 共謀共同正犯(共犯者が共謀した犯罪とは異なる犯罪を実行した場合の共謀共同正犯)

問題

【事例1】

1 甲は、乙及び丙と共に、後記計画に基づき、常習的に高齢者から現金をだまし取っていた。

 その計画は、

  • 甲が資産家の名簿を見て、現金をだまし取る対象者を選定する。
  • 甲が警察官に成りすまして相手方に電話をかけ、「X警察署の○○です。この度、この地域を担当することになりました。今後、当署からの連絡はこの番号からかけますので、御登録をお願いします。」などとうそを言って、名前と電話番号を告げる(以下、この内容の電話を「1回目の電話」という。)。
  • その翌日、甲が相手方に電話をかけ、「昨日電話した○○です。あなたの預金口座が、不正に利用されている疑いがあります。捜査のために必要なので、お持ちの預金口座に100万円を超える残高があるようでしたら、速やかに全額を引き出して自宅に持ち帰った後、こちらに電話をください。」などとうそを言う(以下、この内容の電話を「2回目の電話」という。)。
  • 相手方に預金口座から現金を引き出させて、自宅にその現金を持ち帰らせる。
  • その後、相手方からかかってきた電話で、甲が、相手方の現金引出しを確認した上、「これから警察官がそちらに向かいます。」とうそを言う。
  • その約1時間後、乙及び丙が警察官を装って相手方の家を訪ねる。
  • 乙及び丙が、捜査のために必要なので現金を預けてほしい旨のうそを言い、その交付を受けて現金をだまし取る。

というものであった。

2 甲らは、上記計画に従い、以下の行為に及んだ。

  1. 甲は、某月1日、名簿から現金をだまし取る対象者として高齢の男性Aを選んだ。
  2. 甲は、同日午前10時、Aに1回目の電話をかけた。
  3. 甲は、同月2日午前10時、Aに2回目の電話をかけた。
  4. 甲のうそを信用したAは、預金口座から200万円を引き出して自宅に持ち帰った。
  5. 甲は、同日正午、Aからかかってきた電話に出て、Aが200万円を引き出したことを確認した上、Aに対し、「これから警察官がそちらに向かいます。」とうそを言った。
  6. 乙及び丙は、甲の指示に基づき、同日午後1時、警察官を装ってA宅を訪ねた。

 しかし、乙らの姿を見て不審に思ったAが玄関ドアを開けなかったため、乙及び丙は、捜査のために必要なので現金を預けてほしい旨のうそを言うことができないまま、Aから現金をだまし取ることを断念した。

〔設問1〕

 【事例1】におけるAに対する甲の罪責に関し、以下の⑴及び⑵について、答えなさい。

 なお、⑴及び⑵のいずれについても、自らの見解を問うものではない。

⑴ 甲に詐欺未遂罪の成立を認める立場から、その結論を導くために、どのような説明が考えられるか。詐欺罪が「人を欺いて財物を交付させ」るという手段・態様を限定した犯罪であるのに、その実行の着手に「現金の交付を求める文言を述べること」を要しないと考える理由に触れつつ論じなさい。

⑵ ⑴の説明に基づくと、上記①~⑥のうちどの時点で実行の着手を認めることになるのか。具体的事実に即して、それより前の時点との実質的相違を明らかにしつつ論じなさい。

【事例2】

(【事例1】の1の事実に続けて、以下の事実があったものとする。)

3 甲は、上記計画に従い、某月5日午前10時、名簿から現金をだまし取る対象者として高齢で一人暮らしの男性Bを選んだ上、Bに1回目の電話をかけ、さらに、同月6日午前10時、2回目の電話をかけた。Bは、甲のうそを信用し、同日午前10時30分、預金口座から300万円を引き出して自宅に持ち帰った。甲は、同日正午、Bからかかってきた電話で、Bが300万円を引き出して自宅に持ち帰った旨を聞いたことから、「これから警察官がそちらに向かいます。」とうそを言い、Bは「分かりました。待っています。」と答えた。甲は、乙及び丙に対し、高齢で一人暮らしの男性Bがうそを信用し、300万円を自宅に用意している旨を告げ、計画どおり、捜査のために必要なので現金を預けてほしい旨のうそを言って、300万円をだまし取ってくるように指示し、乙及び丙はこれを了承した。

4 乙は、甲の上記指示を受け、丙と共にB宅に向かうことにしたが、その道中で、Bを縛り上げてしまえば、より確実に現金を手に入れることができると考え、丙に対し、「ジジイをだますより、縛った方が確実に金を奪える。縛って、金を奪ってしまおうぜ。奪った300万円を3人で分ければ問題ないだろう。」などと言い、丙はこれを了承した。そして、乙及び丙は、Bの手足を縛るためのロープと口を塞ぐための粘着テープを準備した上、同日午後1時、B宅へ赴き、インターホンを鳴らして警察官であることを告げ、Bに玄関ドアを開けさせた。乙及び丙は、直ちにB宅内に押し入り、Bの手足をそれぞれロープで縛り、口を粘着テープで塞ぎ、Bを床の上に倒した。そして、リビングルームに移動した乙及び丙は、Bが預金口座から引き出してテーブル上に置いていた上記300万円を見付け、同日午後1時10分、同300万円を持ってB宅を出た。その後、乙及び丙は、甲に対し、いつもどおりのやり方でBから300万円をだまし取ってきたと虚偽の報告をし、それぞれ100万円ずつ山分けした。

5 同日午後3時、Bの娘CがB宅を訪れ、緊縛されたBを発見した。Cから上記ロープ及び粘着テープを取り外してもらったBは、立ち上がろうとしたものの、長時間の緊縛による足のしびれでふらついて倒れそうになった。そのため、Cは、Bを座らせ、そのままでいるように言った。

 Bは、それにもかかわらず、その1分後、Cがその場を離れた隙に、奪われた物の有無を確認するために立ち上がろうとした。その際、Bは、まだ上記足のしびれが残っていたために、転倒して床に頭を打ち付け、全治2週間を要する頭部打撲の傷害を負った。

〔設問2〕

 【事例2】における甲、乙及び丙の罪責について、論じなさい(住居等侵入罪(刑法
第130条)及び特別法違反の点は除く。)。

【事例3】

(【事例2】の事実に続けて、以下の事実があったものとする。)

6 Y警察署の警察官Dは、【事例2】に係る事件につき、乙に対する逮捕状を取得し、乙の逮捕に向かったところ、乙が細い路地を丁と共に歩いているのを発見した。Dは、逮捕のため、乙に接近しようとしたが、それに気付いた乙が走って逃げ出したため、急いで乙を追おうとした。丁は、乙が警察官に逮捕されそうになっていることを察し、乙を逃がそうと考え、怒号しながら両手を広げて立ちはだかり、道を塞いだ。そのため、Dは、直ちに乙を追い掛けることができず、乙を逮捕することができなかった。

7 その後、Dは、Y警察署の警察官5名に乙を追跡して逮捕するよう応援を要請した。丁は、警察官による乙の逮捕を妨害しようと考え、Y警察署に電話をかけ、「Y署近くの路上で、通り魔に刺されました。すぐに来てください。」などとうそを言った。そのため、上記警察官5名は、更なる通り魔事件発生への警戒等を行わざるを得なくなった結果、乙を追跡できず、乙を逮捕することができなかった。

〔設問3〕

 【事例3】における前記6の事実につき、丁に業務妨害罪の成立を否定しつつ(丁による怒号などは、公務執行妨害罪における暴行・脅迫には当たらないが、業務妨害罪における威力には当たることを前提とする。)、前記7の事実につき、丁に上記警察官5名に対する業務妨害罪の成立を肯定する立場からは、その結論を導くために、どのような説明が考えられるか、論じなさい。なお、自らの見解を問うものではない。

答案

設問1⑴

1 特殊詐欺の受け子である乙丙は、被害者に現金交付を求める文言を言うことができないまま犯行を断念しているところ、甲に詐欺未遂罪(刑法250条246条)の成立を認める結論を導くためには、被害者に現金交付を求める文言を言う以前に詐欺罪の実行の着手を認めることができるという説明をする必要がある。

⑴ 「実行行為」とは、法益侵害(構成要件的結果)が発生する現実的危険性を有する行為をいう。

 「実行の着手」は、法益侵害の現実的危険が発生した時点で認められる。

 法益侵害の現実的危険性のある行為の開始をもって、実行の着手が認められるので、この時点で未遂罪(刑法43条前段)の成立が認められる。

 これは、法益侵害の現実的危険が発生すれば、犯罪の結果が発生していなくても、当該行為を未遂罪として処罰する価値が生まれるためである。

 未遂罪は、犯罪の実行行為自体ではなくとも、実行行為に密接であって、被害を生じさせる客観的な危険性が認められる行為に着手することによっても成立し得る。

⑵ 詐欺罪は、「人を欺いて財物を交付させる」という手段・態様を限定した犯罪であることから、詐欺罪の実行の着手を認め、詐欺未遂罪の成立を認めるには、「現金の交付を求める文言を述べること」などの「人を欺いて財物を交付させる」ことを求める行為に着手していなければならないとも思える。

 しかし、未遂罪の処罰根拠は、法益侵害の現実的危険の発生であり、法益侵害の現実的危険の発生が認められれば、詐欺罪の実行の着手を認められるのであるから、「人を欺いて財物を交付させる」ことを求める行為が詐欺罪の実行の着手を認めるための絶対に必要な要件ということにはならない。

 では、詐欺罪の実行の着手はどの時点で認められるか。

 未遂罪は、実行行為に「密接」で「客観的な危険性」が認められる行為への着手が認められれば、法益侵害の現実的危険の発生を認めることができるので、詐欺罪の実行行為に「密接」で「客観的な危険性」が認められる行為に着手した時点で詐欺罪の実行の着手を認めることができる。

 よって、詐欺罪の実行の着手に「現金の交付を求める文言を述べること」を要しない。

設問1⑵

1 未遂罪の成否において問題となるのは、実行行為に「密接」で「客観的な危険性」が認められ、法益侵害の現実的危険の発生を認めることができる行為への着手が認められるかである。

 それを踏まえると、⑤の時点で実行の着手を認める。

⑴ 詐欺罪が成立するには、①欺罔行為、②被害者の錯誤、③被害者の錯誤に基づく財産的処分行為、 ④財物・財産上の不法の利益の取得、⑤財産上の損害の発生という因果的連鎖が必要となる。

 「欺罔行為」とは、詐欺犯人の希望する財産的処分行為に向けて被害者を錯誤に陥らせる行為をいう。

 欺罔行為は、交付の判断の基礎となる重要な事項について欺かなければならない。

⑵ ①時点について、甲がAを現金をだまし取る対象者に選んだ行為は、Aに何らの働きかけもしていないことから、実行の着手は認められない。

 ⓶時点について、甲は、Aに対し、自己が警察官であること及び電話番号を告げ、2回目以降の電話で、Aに警察官から電話がかかってきたと思い込ませる状況を作出している。

 この時点では、財物交付に向けての欺罔行為はなく、法益侵害の現実的危険の発生は認められないので、実行の着手は認められない。

 ③時点について、甲は、Aに対し、預金口座が不正利用されている疑いがあり、捜査のために必要がある旨のうそをいい、Aが預金口座から現金を引き出して自宅に持ち帰るように仕向けている。

 預金口座が不正利用されている疑いがあり、捜査のため預金口座から現金を引き出す必要があることは、交付の判断の基礎となる重要な事項ではあるが、客観的に、Aに現金を交付させるという財産的処分行為をさせる欺罔行為が行われたとはいえない。

 よって、③時点では、Aが甲らに現金を交付する意思が形成されているとはいえず、財産的損害を被る法益侵害が現実に発生しているとは認められないので、実行の着手は認めれない。

 ④時点について、甲のうそを信用したAは、預金口座から200万円を引き出して自宅に持ち帰っている。

 この時点では、③時点と同様、Aが甲らに現金を交付する意思が形成されているとはいえず、Aは現金200万円を警察官に交付する必要があるという判断はしていないといえるので、Aは錯誤に基く財産的処分行為をする危険が認められるところまで至っていない。

 そのため、未だ実行行為に「密接」で「客観的な危険性」がある状況とはいえず、法益侵害の現実的危険の発生は認められず、実行の着手は認められない。

 ⑤時点について、甲はAが200万円を引き出したことを確認した上、「これから警察官がそちらに向かいます。」とうそを言っている。

 通常、警察官が自宅に来ることはないことなので、何か目的をもって来るだろうことは当然に考えるところであるから、甲の警察官をA方に向かわせる旨の発言は、Aに捜査のため現金200万円を警察官に交付する必要があることを発想させるものといえる。

 よって、甲の同発言は、錯誤に陥っているAに財産的処分行為を求めるものと評価できる。

 そして、Aが自宅を訪問した警察官を装った者に現金200万円を交付するという錯誤に基づく財産的処分行為を行う危険性が著しく高くなったといえる。

 したがって、甲の同発言は、詐欺罪の実行行為に「密接」で「客観的な危険性」が認められ、法益侵害の現実的危険の発生を認めることができる行為への着手と認められ、詐欺罪の実行の着手が認められる。 

2 以上より、⑤時点で詐欺罪の実行の着手を認めることができる。

設問2

第1 乙及び丙の罪責

1 Bから300万円を奪った行為に強盗致傷罪(刑法240条236条)の共同正犯(刑法60条)が成立しないか。

⑴ まず、乙と丙に強盗罪(刑法236条)が成立しないか。

ア 強盜罪における「暴行」とは、財物を奪取する手段としての暴行であり、不法な有形力の行使のうち、被害者の犯行を抑圧するに足りる程度の行為であることを要する。

 「強取」とは、被害者の反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫を加えて、財物の占有を自己又は第三者に得させることをいう。

 その判断は、社会通念に基づき客観的になされる。

 乙・丙は、Bの手足をロープで縛り、口を粘着テープでふだいだ上、床の上に倒し、逃げたり声を出して助けを呼ぶことをできなくさせており、これは、不法な有形力の行使であり、Bの犯行を抑圧するに足りる程度の暴行といえ、強盗罪における「暴行」に当たる。

 そして、かかる暴行を用いて300万円を奪っていることから「強取」に当たる。

イ 不法領得の意思とは、権利者を排除し、他人の物を自己の所有物と同様に、その経済的用法に従い、これを利用し又は処分する意思をいうところ、甲は300万円を3人で分けて自己のものにする目的で強取しているので、不法領得の意思が認められる。

ウ よって、強盗罪が成立する。

⑵ 乙と丙の強盗罪に共同正犯が成立しないか。

 共同正犯の処罰根拠は、正犯意思の下、相互利用補充関係に基づき、互いに物理的・心理的影響を及ぼし合い、自己の犯罪を実現することにある。

 そこで、共同正犯の成立が認められるためには、①共謀(犯行の共同実行の意思の連絡)、②共同実行の事実(犯行の実行行為の分担)が必要となる。

 ①共謀が認められるか。

 「共謀」とは、正犯意思をもって、相互的意思連絡を形成することをいう。

 乙は、丙に対し「縛って、金を奪ってしまおうぜ。」などと言ってBを縛って金を奪うことを提案し、丙はこれを了承している。

 よって、乙と丙は、正犯意思をもって相互的意思連絡を形成したことが認められる。

 ② 共同実行の事実が認められるか。

 乙と丙は共同で、ロープと粘着テープを購入し、Bをロープで縛り上げ、粘着テープで口を塞ぐなどしていることから、共同で実行行為を行っている。

 よって、乙と丙に共同実行の事実が認められる。

 したがって、甲と丙に強盗罪の共同正犯が認められる。

⑶ Bは、乙と丙が立ち去った後、転倒して傷害を負っていることから、強盗致傷罪の共同正犯が成立しないか。

ア 強盗致傷罪が認められるためには、「強盗に伴う暴行・脅迫による傷害」と「強盗致傷罪の死傷」との間に因果関係が認められることが必要となる

 「因果関係」とは、犯罪行為と犯罪結果との間にある原因と結果の関係をいう。

 因果関係は、偶発的な結果を排除して適正な帰責範囲を確定するものである。

 因果関係は、社会通念上の経験法則に照らして、行為から結果が発生することが通常(相当)と認められるかの基準(相当因果関係説)で、行為の危険性が結果へと現実化したといえるかにより判断すべきと考える。

 特に行為後の事情については、行為時において一般人の見地から予見可能であることが必要であると考える。

 Bの傷害は、乙と丙の強盗行為が終了してから約2時間程度経っているが、Bは高齢である上、長時間の緊縛で足がしびれて転倒してけがをする結果が発生することは、社会通念上、通常起こり得ることであり、一般人の見地からして予見可能なことであったといえる。

 よって、乙と丙の強盗行為によりBを緊縛した行為の危険性がBの傷害の結果へと現実化したといえるので、因果関係が認められる。

イ 強盗致傷罪は、強盗罪と傷害罪の結合犯・結果的加重犯の性格を有することから、基本犯である強盗行為の認識・容認があれば、加重結果の傷害についての認識・容認は不要である。

 甲と乙は強盗罪の認識・容認があることから、強盗致傷罪の成立が認められる。

 強盗罪が共同正犯なので、結果的加重犯である強盗致傷罪も共同正犯となる。

2 以上より、乙と丙にBに対する強盗致傷罪の共同正犯が成立する。

 そして、後述のとおり、甲との間でも共同正犯となる。

第2 甲の罪責

1 乙及び丙がBから300万円を強取した行為につき、乙及び丙との詐欺未遂罪(刑法251条246条)の共同正犯が成立しないか。

⑴ 甲は何らの実行行為を分担していないことから、共謀共同正犯の成否が問題となる。

 共謀共同正犯とは、共謀はあるが、犯罪の実行行為の分担がない場合の共同正犯をいう。

 共謀共同正犯が成立するには、2人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって、互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする意思を持って謀議をなし、犯罪を実行した事実があることが必要である。

 上記の各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において、共同正犯の刑責を負う。

 まず、甲に共謀が成立するか。

 「共謀」とは、正犯意思をもって、相互的意思連絡を形成することをいう。

 甲は、乙と丙に対し、Bがうその話を信用して300万円を用意しているのでだまし取ってくるよう指示し、乙と丙はこれを了承している。

 甲は本件犯行を計画した者であり、積極性が認められ、自己の犯罪として行う意思を有していたといえ、正犯意思も認められる。

 よって、甲は、正犯意思をもって、乙と丙と相互的意思連絡を形成したことが認められ、共謀の成立が認められる。

⑵ では、甲に共謀成立の前提としていかなる故意が認められるか。

 甲は常習的に高齢者から現金をだまし取っており、本件もその一環であることから、詐欺罪の故意が認められる。

⑶ では、共同実行したといえるか。

 共同実行したといえるためには、結果に対する重大な寄与及び共謀に基づいた共犯者による実行行為が必要となる。

 甲は現金をだまし取る対象者を探し出す役割を担っており、甲の働きがなければ、本件犯行が存在しないのであるから、甲に対し、結果に対する重大な寄与が認められる。

 しかしながら、乙と丙は強盗を行っていることから、共謀に基づく行為といえるかが問題となる。

 これは因果性が及んでいるか否かの問題であり、具体的には、犯行態様等の事情を総合考慮して判断する。

 乙と丙の行為は強盗であるが、Bから300万円を奪取し、報酬100万円の分配も受け取っている点は計画どおりであり、違いはない。

 よって、甲の行為は乙と丙との共謀に基づいた実行行為といえる。

 したがって、共同実行したといえる。

⑷ 以上より、甲は詐欺罪の故意で強盗罪を実現させたことになる。

⑸ では、乙にいかなる罪の共同正犯が成立するか。

 故意責任の本質は、反対動機形成可能性にあり、構成要件の範囲内の認識にずれがあっても反対動機形成は可能である。

 したがって、詐欺罪と強盗罪の両構成要件に重なり合いが認められれば、軽い罪限度で故意責任を問うことも可能である。

 構成要件の重要部分は行為と結果であるから、行為態様及び保護法益の共通性により重なり合いを判断する。

 検討すると、相手方の財産を領得するという点で行為態様は共通する。

 また、個人の財産を保護する点で保護法益も共通している。

 よって、詐欺罪と強盗罪との間に重なり合いが認められる。

 そして、詐欺罪の法定刑は「10年以下の拘禁刑」であり、強盗罪の法定刑は「5年以上の有期拘禁刑」であることから、罪の軽重は、詐欺罪の方が軽い。

 よって、詐欺罪と強盗罪とでは、刑罰の軽い詐欺罪の共同正犯が成立する。

 なお、この場合、実際に行っていない詐欺罪を成立させることになるが、刑法38条2項がその成立を認めているので罪刑法定主義に反しない。

 また、共同正犯は行為の共同に本質があるから、共犯者間で異なる共同正犯も成立する。 

2 以上より、甲にBに対する詐欺罪の共同正犯が成立する。

設問3

1 妨害された業務が、事実6は権力的公務なので業務妨害罪は成立しないが、事実7は非権力的公務なので業務妨害罪が成立するという説明ができる。

2 偽計業務妨害罪刑法233条後段)、威力業務妨害罪刑法234条)の業務は、強制力を用いない非権力的公務に限られる。

 捜査機関が行う逮捕などの強制力を行使する公務を「権力的公務」という。

 これ対し、強制力を伴わない公務を「非権力的公務」という。 

 権力的公務は、強制力を行使する公務であるため、妨害があっても国家権力を行使して自力で妨害を排除できることから業務妨害罪は成立しない。

 この場合、公務執行妨害罪が成立し得るのみとなる。

 非権力的公務は、強制力が行使できる公務ではなく、自力で妨害を排除できないことから、業務妨害罪の刑罰権の行使により保護される必要がある。

3 威力業務妨害罪と偽計業務妨害罪の区別について、業務主の面前に業務遂行に対する障害となり得るものを提示して、その自由意思を制圧しにかかるという関係が認められる場合は威力業務妨害であり、業務主にそのような障害の存在事実をことさらに秘匿し、その不知錯誤に乗ずるという関係が認められる場合は偽計業務妨害となると解する。

4 事実6は、妨害が、警察官の逮捕行為に向けられている。

 逮捕行為は、強制力を伴う権力的公務であるから「業務」に当たらない。

 Dは怒号をしながら両手を広げてたちはだかって道を塞いでいるので、Dの妨害行為は「威力」である。

 よって、威力業務妨害罪は成立しない。

5 事実7は、妨害が、逮捕そのものではなく、警察官の一般的警ら行為に向けられている。

 警ら行為は強制力を伴わない公務なので、権力的公務ではない。

 結果的に乙の逮捕が妨げられているが、間接的な効果に過ぎず、直接的には警察の一般的な業務が害されているに過ぎない。

 Dは通り魔事件があった旨のうその電話をかけて業務を妨害しているので、Dの妨害行為は「偽計」である。

 よって、「業務」を妨害したといえることから、偽計業務妨害罪が成立する。

 預金口座から現金を下ろすように求める1回目の電話があり、現金が被害者宅に移動した後に、間もなく警察官が被害者宅を訪問することを予告する2回目の電話が行われている

 このように、本件では、警察官になりすました被告人が被害者宅において現金の交付を求めることが計画され、その段階で詐欺の実行行為としての「人を欺く行為」がなされることが予定されているが、警察官の訪問を予告する上記2回目の電話により、その行為に「密接」な行為が行われていると解することができる

 また、前日詐欺被害にあった被害者が本件の一連の嘘により欺かれて現金を交付する危険性は、上記2回目の電話により著しく高まったものと認められる

 こうして、預金口座から下ろした現金の被害者宅への移動を挟んで2回の電話が一連のものとして行われた本件事案においては、1回目の電話の時点で未遂罪が成立し得るかどうかはともかく、2回目の電話によって、詐欺の実行行為に密接な行為がなされたと明らかにいえ、詐欺未遂罪の成立を肯定することができると解されるのである。

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