刑事訴訟法(捜査)

告訴とは?① ~「親告罪」「告訴状の記載事項」「告訴権者(法定代理人など)」を判例・刑事訴訟法で解説~

告訴とは?

 告訴とは、

犯罪被害者が、捜査機関(検察官または警察官)に対し、犯罪事実を申告して犯人の処罰を求める意思表示

をいいます。

親告罪

 告訴をしなければ、犯人を裁判にかけることができない犯罪があります。

 その犯罪を

親告罪

といいます。

 親告罪の有名な罪として、

があげられます(親告罪の例)。

 上記の犯罪(親告罪)については、被害者は、捜査機関に「告訴状」という書面を提出するなどしなければ、検察官は事件を裁判にかける(「起訴する」「公訴を提起する」といいます)ことができません。

 ゆえに、告訴は、

親告罪において、犯人を裁判にかけ、刑罰を与えるための必須要件

になっているのです。

 このことから、告訴は、

親告罪の訴訟条件

といわれます。

 もし、親告罪において、被害者の告訴がないまま、検察官が公訴を提起した場合、裁判所は、

公訴棄却の判決

(「訴訟条件を欠くので裁判は行いませんよ!」という判決)

を出すことになります(刑訴法338条4)。

【参考】性犯罪は非親告罪になった

 平成29年よりも前は、性犯罪は親告罪であり、告訴がなければ、裁判を行うことができない犯罪でした。

 ここでいう性犯罪とは、

を指します。

 しかし、平成29年の刑法の一部改正より、これらの性犯罪は、親告罪から非親告罪に変わりました。

 この法改正により、これら性犯罪について、被害者の告訴がなくても、検察官は犯人を起訴して裁判を起こすことができるようになり、性犯罪の被害者の保護が手厚くなりました。

告訴状に記載する必須事項

 告訴とは、

犯罪被害者が、捜査機関に犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示

です。

 なので、告訴状に記載すべき必須事項は、

  • 犯罪事実(どのような犯罪被害に遭ったのか)
  • 犯人の処罰を求める意思

の2点になります。

 少なくともこの2点が記載されていない告訴状は、無効な告訴状になります。

「犯罪事実」について

 告訴状に記載する犯罪事実は、

どのような犯罪を指すのか特定できる程度のもの

でなければなりません。

 「どのような犯罪を指すのか特定できる程度のもの」であればよいので、告訴状に、犯罪の日時・場所・態様などの詳細を記載することは、必ずしも必要ではないとされます。

 この点を判示した以下の判例があります。

大審院判決(昭和6年10月19日)

 裁判官は、

  • 告訴状にその告訴する犯罪を特定し得る程度の記載ある以上、犯罪の日時、場所及び態様等につき詳細の記載なきも、告訴は有効なり

と判示しました。

「犯人の処罰を求める意思」について

 告訴といえるためには、犯人の処罰を求める意思表示がなければなりません。

 告訴は、犯人の処罰を求める意思を捜査機関に示すことが一番の目的です。

 犯人の処罰を求める意思表示がない告訴状は、無効になります。

 犯人の処罰を求める意思表示とは、具体的には、

「犯人の刑事処罰を求めるので、告訴します」

というような文言を告訴状に記載することです。

 なお、「犯人の処罰を求める」旨の記載があればよいので、「告訴します」という記載がなくても、告訴として有効とされます。

告訴をする犯人の特定は必要か?

 基本的に、告訴状には、犯人がどこの誰なのかを記載する必要があります。

 しかし、犯人が誰なのか分からない場合も想定されます。

 たとえば、インターネットに自分の名誉を棄損する書き込みをされたが、匿名の書き込みなので、犯人が誰なのか特定できないといった場合です。

 「犯人が誰なのか分からないので告訴ができない」となってしまっては被害者が救われません。

 なので、犯人が誰なのか分からない場合は、犯人の名前を「不詳」と記載して告訴することもできるとされます。

 ちなみに、告訴状に、「犯罪事実」と「犯人を処罰する意志」が記載されていれば、告訴する犯人を間違って指定しても、告訴状は有効とされます。

 これは、犯罪の全容は、捜査をすることで明らかになるので、犯罪被害者が犯人の指定を間違うことも想定されるからです。

告訴権者

 告訴をすることができる人は、犯人に対する刑事処罰を求める立場にある人です。

 すなわち、告訴をすることができる人は、

  1. 犯罪の被害者(刑訴法230条
  2. 犯罪の被害者と一定の関係がある人(刑訴法231,232,233,234条)

になります。

 そして、この告訴をすることができる人(告訴する権利を有する人)を

告訴権者

といいます。

「犯罪の被害者」について

 刑訴法230条は、

『犯罪により害を被った者は告訴をすることができる』

と規定し、犯罪の被害者を告訴権者としています。

 「犯罪により害を被った者」とは、

直接に犯罪の被害を受けた人

をいいます。

 たとえば、

  • 窃盗罪における物を盗まれた人
  • 傷害罪における犯人から暴力を受け、ケガを負わされた人
  • 強制性交(強姦)された人

などが該当します。

告訴権者に年齢制限はない。しかし、告訴の意味を理解できることが必要

 告訴権者に年齢制限はありません。

 理論上は、3歳の子供でも告訴をすることができます。

 だがしかし、3歳の子供がした告訴は有効にはならないでしょう。

 なぜなら、告訴をする人は、

告訴の意味を理解できる人

でなければならないからです。

 スーパーキッズでない限り、3歳の子供は、告訴が何であるかの意味を理解することはできません。

 なので、3歳の子供がした告訴は無効になります。

 具体的に「告訴の意味を理解できる人」とは、最低限どの程度の能力ラインに位置する人をいうのか?については、明確な基準はありません。

 その基準は、判例を基にして、個々の事案に応じて、ケースバイケースで判断されることになります。

 平成24年7月3日の名古屋高等裁判所の判決では、10歳11か月(小学校5年生)の被害者に対して、告訴能力があると認めました。

 この判例から、告訴能力がある人(告訴の意味を理解できる人)とは、

小学校の高学年

の知能を有するものであることが一定の基準になるといえます。

 ここで、小学校低学年や幼児は、犯罪被害に遭っても、告訴できないではないか?という疑問が生じますが、その場合は、親(親権者)が代わりに告訴することになります。

告訴権者は人に限らない

 告訴できるのは、人だけはありません。

 犯罪の被害者に該当すれば、

  • 会社
  • 地方公共団体

といった団体も告訴権を持ちます。

 ただし、団体の名を使って告訴する場合は、団体名のほか、代表取締役、国の省庁の長、県知事などの代表者名を告訴状に記載して、告訴する必要ががあります。

被害者の法定代理は、独立して告訴できる

 告訴権者は、

  1. 犯罪の被害者(刑訴法230条
  2. 犯罪の被害者と一定の関係がある人(刑訴法231,232,233,234条)

です。

 これまでに、「①犯罪の被害者」について説明してきましたが、次からは、「②犯罪の被害者と一定の関係がある人」について説明していきます。

 「犯罪の被害者と一定の関係がある人」とは、

被害者の法定代理人

を指します。

 法定代理人とは、

のことです。

 親権者とは、未成年者の行為を代表する人のことです(例えば、子供の父・母)。

 後見人とは、知的障害などで物事の判断能力に問題がある人の行為を代表する人のことです。

 ここで話を一度まとめると、

 告訴は、

犯罪の被害者がすることができる

ほか、

犯罪の被害者の法定代理人(親権者・後見人)もすることができる

となります。

 ここでポイントは、法定代理人(親権者・後見人)は、

被害者とは独立して告訴できる

という点にあります。

 「被害者とは独立して告訴できる」とは、

  • 被害者本人の告訴意思に関係なく告訴できる
  • 被害者本人の告訴権が消滅しても、独立の立場で告訴できる

ことを意味します。

 『被害者本人の告訴意思に関係なく告訴できる』とは、たとえば、被害者が「告訴したくない」と言っても、法定代理人(親権者・後見人)は、被害者の意思に反してでも告訴することができるということです。

 『被害者本人の告訴権が消滅しても、独立の立場で告訴できる』とは、たとえば、被害者が告訴を取り下げて、被害者の告訴権が消滅したとしても、法定代理人(親権者・後見人)は、その事情に関係なく告訴できるということです。

親権者である父・母は、それぞれ独立して告訴できる

 親権者といえば、父と母の2人がいます。

 父と母は、それぞれ独立の意思で告訴できます。

 父が告訴したから、母は告訴できないということはありません。

 父が告訴して、さらに母も告訴することができます。

 このことは、最高裁判所の昭和34年2月6日の判例で明らかになっており、裁判官は、

『被害者の親権者が2人あるときは、その各自が刑訴231条1項所定の被害者の法定代理人として、告訴をすることができる』

と判示しています。

法定代理人(親権者・後見人)は、被害者の意思に反する告訴の取り下げはできない

 ここで注意点があります。

 法定代理人(親権者・後見人)は、独立して告訴することができますが、被害者の意思に反して告訴を取り下げることはできません。

 法定代理人(親権者・後見人)は、告訴の取下げについては、独立性はないのです。

 昭和27年8月30日の高松高等裁判所の判決で、

『(告訴の取下げは)告訴権者の授権を必要とするものと解すベきであり、法定代理人といえども、本人の委任がない限り法定代理人として本人のなした告訴を取消すことはできない』

と判示しています。

 法定代理人(親権者・後見人)は、被害者の意思に反して、被害者本人がした告訴を取り消すことはできないのです。

 もし、法定代理人が、被害者本人がした告訴を取り消す必要が生じた場合は、被害者本人から特別の授権を得る必要があります。

法定代理人の身分確認

 法定代理人(親権者・後見人)は、被害者とは独立して告訴できるという話をしてきました。

 当然ではありますが、法定代理人が告訴する場合は、被害者の法定代理人であることを証明する書類を、検察官か警察官に提出する必要があります。

 このことは、犯罪捜査規範66条Ⅱにおいて、

『被害者の親権者(法定代理人)である旨を称する者が告訴してきたときには、その資格を証する書面(例えば戸籍謄本)を提出させ、被害者と告訴人との身分関係を確認しなければならない』

と規定されています。

被害者・法定代理人(親権者・後見人)以外の告訴権者

 これまで、告訴権者は、被害者・法定代理人(親権者・後見人)と説明してきました。

 被害者・法定代理人(親権者・後見人)のほか、特定の条件を満たすと、

  1. 被害者の配偶者、直系親族、兄弟姉妹
  2. 被害者の親族
  3. 死者の親族・子孫
  4. 検察官の指定した者

にも告訴権が与えられます。

 以下で詳しく説明します。

① 被害者の配偶者、直系親族、兄弟姉妹

 被害者が死亡したときに限り、

  • 配偶者
  • 直系親族
  • 兄弟姉妹

にも告訴権が与えられます(刑訴法231条Ⅱ

 刑訴法231条Ⅱにおいて、

『被害者が死亡したときは、その配偶者、直系親族又は兄弟姉妹は、告訴することができる。ただし、被害者の明示した意思に反することはできない』

と規定しています。

 ただし書きで、『被害者の明示した意思に反することはできない』とあるのは、被害者が生前に「告訴しない!」という意思を明示していたときは、配偶者、直系親族又は兄弟姉妹は告訴ができないことを意味します。

② 被害者の親族

 被害者の法定代理人が

ときは、被害者の親族は告訴することができます(刑訴法232条)。

 ちなみに、親族とは、民法725条で定義されており、

となります。

③ 死者の親族・子孫

 死者の名誉を棄損した罪(刑法230条Ⅱ)については、

死者の親族と子孫

は告訴できます(刑訴法233条)。

 死者の名誉を棄損した罪について、被害者が告訴しないで死亡したときも、死者の親族と子孫は告訴できます(刑訴法233条Ⅱ)。

 ただし、死者である被害者が、生前に「告訴しない!」と意思を明示している場合は告訴できません(刑訴法233条Ⅱただし書き)。

④ 検察官の指定した者

 器物損壊罪・名誉毀損罪などの親告罪は、告訴がなければ裁判の起こすことができません。

 もし、親告罪において、被害者が死亡し、被害者の家族もいないといった場合においては、告訴権者がだれもいないことになってしまいます。

 それでは、犯人を裁判にかけて処罰することできません。

 なので、親告罪について告訴をすることができる者がいない場合において、法は、

検察官が指定した者を告訴権者とする

と規定しています(刑訴法234条)。

代理人による告訴

 これまでに、告訴権者は、

  • 被害者
  • 法定代理人(親権者・後見人)

条件によっては、

  • 被害者の配偶者、直系親族、兄弟姉妹
  • 被害者の親族
  • 死者の親族・子孫
  • 検察官の指定した者

であると説明しました。

 これらの告訴権者は、代理人を立て、代理人を使って告訴することができます。

 具体的には、たとえば弁護士を頼んで、自分の代わりに弁護士に告訴の手続きをしてもらうことができるということです。

 根拠法令は、刑訴法240条にあり、

『告訴は、代理人によってもすることができる』

と規定しています。

 なお、代理人は弁護士であることを必要としていません。

 配偶者、親など、信頼できる人を代理人にして、告訴の手続きを行ってもらうことができると考えられます。

「表示代理」と「意思代理」 

 代理人による告訴の場合は、たとえば、告訴権者である被害者が、代理人である夫に対し、

「告訴したいから告訴手続きをやってくれ」

と依頼し、夫に告訴の手続きを行ってもらうというのが通常のパターンだと思います。

 このパターンを「表示代理」といいます。

 被害者の「告訴したい」という表示された意思に基づき、代理人が告訴を代理して行うイメージです。

 これに対し、被害者の代理人が、被害者の告訴したいという意思を聞く前に、代理人自身が「被害者のために告訴をしよう!」と考えて告訴し、事後的に代理人が行った告訴の効果を被害者に帰属させることを「意思代理」といいます。

 たとえば、妻を強姦された夫が、妻の代理人として告訴し、事後的に、夫がした告訴の効果を妻に帰属させるという場合です。

 判例は、(昭和40年2月19日東京高等裁判所)は、このような「意思代理」による告訴を有効としています。

 裁判官は、

  • 代理人による告訴は、告訴権者が自ら決定した告訴の意思を、代理人が単に表示するいわゆる「表示代理」の場合だけに限られるのか、それとも告訴をするかどうかの意思決定までも告訴権者が代理人に一任するいわゆる「意志代理」の場合をも包含するのかについて考えてみなければならない
  • 告訴をするかどうかは決して単なる犯人に対する憎しみなどの感情だけから決定さるべきものではなく、犯人の訴追または処罰によつて生ずる種々の影響ないしは副作用をも考慮し判断したうえで決定されるものである
  • その最もよい例は、強姦罪および名誉段損罪の告訴の場合で、これらの罪においては告訴によって訴追がなされた場合、これによって被害者の名誉が一層傷つけられる虞れがある
  • (告訴は)必ずしも被害者本人しかできないというものではなく、むしろ場合によっては他人の判断に一任したほうがより適切であることも十分考えられるのであるから、告訴の性質上意思代理を許さないとする理由ない

と判示しています。 

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