刑事訴訟法(捜査)

現行犯逮捕とは?③ ~「通報で駆け付けた警察官が犯行を目撃した一般人(私人)の代わりに現行犯逮捕する場合」を解説~

 前回の記事の続きです。

通報で駆け付けた警察官が犯行を目撃した一般人(私人)の代わりに現行犯逮捕する場合

 現行犯逮捕は、

  • 現に犯行を目撃した人(私人)が逮捕する方法

のほかに、

  • 犯行を目撃してしていないが、目撃者からの申告や諸般の事情(犯人の挙動、犯行状況、証跡など)から通報で駆け付けた警察官が現行犯人と認めて逮捕する方法

があります。

 たとえば、スーパーの店員が万引きを目撃して警察に通報し、すぐに駆けつけた警察官が、店員の話や現場の状況から、万引き犯を現行犯逮捕する場合がこれに当たります。

 警察官は、客が万引きをしたところを目撃していませんが、スーパーの店員が被害申告した内容や、万引き犯が店の事務所で万引きした商品を出している状況などから、万引き犯を現行犯人と認め、現行犯逮捕することができます。

 ただし、犯行から逮捕までに時間が経過し過ぎていると、その現行犯逮捕は違法とされる場合があります。

 参考となる判例・裁判例として、以下のものがあります。

現行犯逮捕を適法とした認めた事例

最高裁判決(昭和31年10月25日)

 傷害事件で、犯行直後、被害者が警察に通報し、現場に駆け付けた警察官が犯人Aを現行犯逮捕した事案で、犯行から逮捕までに30~40分を経過したに過ぎないとして、現行犯逮捕の適法性を認めた事例です。

 裁判官は、

  • Aが飲酒酩酊の上、甲特殊飲食店の玄関において、従業婦の胸に強打を加え、更に同家勝手口のガラス戸をことさらに破損したため、同家主人が直ちに付近の巡査派出所の勤務巡査に届け出で、同巡査は現場に急行したところ、右従業婦からAの暴状を訴えられ、Aは今乙特殊飲食店にいると告げられたので、破損箇所を検した上、直ちに甲店より約20メートル隔てた乙店に赴き、手を怪我して大声で叫びながら洗足しているAを逮捕したもので、その逮捕までに右犯行後3、40分を経過したに過ぎないものであるときは、刑訴第212条第1項にいう「現に罪を行い終った者」にあたる現行犯人の逮捕ということができる

と判示しました。

東京高裁判決(昭和53年6月29日)

 会社社員寮の管理人Sが、ボイラー室に無断で侵入していた被告人を発見し、その襟首をつかんで警察に連行しようとしたところ、被告人がこれを振り払って逃げ出したため、逮捕を警察官に任せた方がよいと考えて深追いをやめ、直ちに電話で警察に通報した結果、午後11時9分、指令を受けた警察官がパトカーで犯行現場に向け急行中、現場から約200メートル離れた路上で、指令伝達された手配の人相風体に符合する被告人を発見したので、被告人に前記社員寮まで任意同行を求め、管理人Sの説明により被告人が犯人に間違いない旨の確認をした上で、午後1時15分、警察官が同所において被告人を現行犯逮捕した事案です。

 裁判所は、

  • 逮捕した警察官としては、被告人が現に本件住居侵入の罪を行っているのを直接現認しているわけではないが、これを現認し私人としてその逮捕手続に着手したがそれを達成できなかった管理人(同人には現行犯逮捕の要件が具備していたと認められる。)の犯人逮捕の要請により、犯行現場において、同行した被告人が同人の現認した犯人と一致する旨の確認に基づき、同人に代わって、自ら現行犯逮捕した趣旨と認められ、その間、被告人はいったん現場から約200メートルの地点まで離れ、かつ、6分間を若干超える時間が経過していたとはいっても、なお、逮捕警察官にとっては、被告人が刑訴法212条1項にいう「現に罪を行い終った者」に該当する

として、現行犯逮捕を適法としました。

現行犯逮捕を違法と認定した事例

大阪高裁判決(昭和50年4月3日)

 強制わいせつ(現行法:不同意わいせつ)の犯行の被害者Bが、いったん帰宅した後、再び現場に戻って犯人がいることを確認してから警察に通報し、警察官が犯行の1時間5分後に現場で逮捕した事案で、刑訴第212条第1項にいう「現に罪を行い終わった者」に当たらないとし、現行犯逮捕を違法とした事例です。

 裁判官は、

  • Bは昭和38年8月30日午後8時40分頃、原判示映画館「三都座」において判示の様な被害を受けた後、同映画館を立ち出で、近くにある自宅に帰り、夫に右事実を話し、相共に右映画館に引き返し、犯人が未だ館内にいることを確かめた上、係員に勧められて警察に通報し、右通報により同映画館前に赴いたS巡査が、折から同映画館より出て来た被告人を、Bの指示により、午後9時45分頃現行犯人として逮捕したことが認められる
  • この様な状況の下に行われた右現行犯逮捕は刑事訴訟法212条1項又は2項各号の要件を充足したものとは考えられないし、また緊急逮捕しうる案件でもないから、右現行犯逮捕は違法というべきであり、従ってこの違法逮捕による身柄拘束中に作成せられた被告人の司法警察員に対する供述調書は、違法に収集せられた証拠と解すべきものである
  • 而して、違法な手続により収集せられた証拠は、相手方においてこれを証拠とすることに異議のない場合でなければ証拠となし得ないと解すべきところ、本件においては、被告人が原審公判廷において右調書を証拠とすることに対し異議を述べていることは本件記録に徴し明かであるから、右調書は証拠能力なきものと解せざるを得ない

と判示し、現行犯逮捕を違法した上、違法な逮捕中に作成された供述調書の証拠能力を否定しました。

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