被告人の勾留とは?
勾留とは、
逮捕した被疑者や被告人を警察署や刑務所の留置施設に拘禁すること
をいいます。
勾留には、
被疑者勾留
(逮捕されてから起訴されるまでの間の勾留)
※ 起訴される前の犯人を被疑者と呼びます。
と
被告人勾留
(起訴されてから判決が出るまでの間の勾留)
※ 起訴された後の犯人を被告人と呼びます。
の2種類があります。
今回は被告人の勾留について説明します。
※ 被疑者の勾留の説明は前の記事参照
※ 被疑者と被告人の違いの説明は前の記事参照
勾留期間
逮捕・勾留された被疑者が、その勾留期間内(被疑者段階での勾留最大で20日間)に起訴されると、被疑者に対する勾留は、被告人に対する勾留に切り替わり、勾留期間は、公訴の提起があった日(起訴された日)から
2か月
となります(刑訴法60条2項)。
被告人の勾留は、
- 被告人の公判への出頭を確保すること
- 被告人が証拠隠滅することを防ぐこと
- 被告人が有罪判決となり実刑となった場合に、勾留された状態を維持したまま刑を執行することで、刑の執行を確実なものとすること
が目的として挙げられます。
この点、最高裁決定(昭和25年3月30日)において、
- 「勾留」の目的は審判のためにのみ被告人の身柄を保全するものではなく、判決の効力すなわちその執行確保の目的をも有するものである
と判示しています。
勾留期間の更新
最初に説明したとおり、被告人の勾留期間は、起訴されてから2か月ですが、この2か月の勾留期間には更新が認められています。
2か月経過後に勾留の継続が必要である場合には、裁判官は、具体的な理由を付した決定で、1か月ごとに更新することができます。
具体的には、2か月経過した後は、1か月延長、更に1か月延長、更に1か月延長というように、勾留の必要が継続する限り、1か月ずつ勾留期間を延長することできます。
勾留期間の更新の条件は、刑訴法60条2項で規定されています。
更新の回数は、
- 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき(刑訴法89条1号)
- 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき(刑訴法89条3号)
- 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき(刑訴法89条4号)
- 被告人の氏名又は住居が分からないとき(刑訴法89条6号)
に当たる場合には、勾留更新は2回以上にわたって行うことができ、その回数に制限はありません。
上記①~④以外の場合は、勾留更新は1回の1か月に限られ、勾留期間は全体を通じて3か月になります。
勾留理由の開示
勾留されている被告人、その弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹その他利害関係人は、裁判所に対し、勾留の理由の開示を請求することができます(刑訴法82条)。
勾留理由の開示請求があった場合には、勾留の理由の開示は、裁判官及び裁判所書記官が列席する公開の法廷で行うことになります(刑訴法83条1項・2号)。
具体的には、裁判官、裁判所書記官、被告人・弁護人が出席する裁判所の法廷で、裁判官が被告人に対し、勾留理由を告げることで開示します。
勾留理由開示の法廷は、被告人及び弁護人が出頭しなければ開廷することができませんが、被告人が病気その他やむを得ない事由によって出頭することができず、かつ、被告人に異議がないときには、被告人が出頭しなくとも開廷することができます。
また、被告人に異議がないときには、弁護人が出頭しなくても、開廷することができます(刑訴法83条3号)。
検察官の出席は要求されていませんが、出席した検察官は、意見を述べることができます(刑訴法84条2項)。
勾留の理由は、裁判長が法廷で告げますが(刑訴法84条1項)、これを受命裁判官(検察官から事件の起訴を受けた裁判所の裁判官)に行わせることもできます(刑訴法85条)。
勾留の取消し
勾留の理由又は勾留の必要がなくなったときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定をもって勾留を取り消さなければなりません(刑訴法87条)。
また、勾留による拘禁が不当に長くなったときも、裁判所は、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、 配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定をもって勾留を取り消さなければなりません(刑訴法91条1項)。
勾留の執行停止
裁判所は、適当と認めるときは、決定で、勾留されている被告人を親族、保護団体その他の者に委託し、又は被告人の住居を制限して、勾留の執行を停止させることができます(刑訴法95条)。
勾留の執行停止には期間を定めることができます(刑訴法98条1項)。
勾留の執行停止される場合とは、例えば、
- 被告人が病気のため治療を要し、留置施設にいられず、病院に入院する場合
- 近親者の葬儀に出席する場合
などの被告人の身柄拘束を一時的に解く必要がある場合が挙げられます。
勾留の執行停止の取消し
裁判所は、
- 被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき
- 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき
- 被告人が罪証を隠滅し又は隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
- 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき
- 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき
は、検察官の請求により、又は裁判所の職権により、勾留の執行停止を取り消す決定をすることができます(刑訴法96条1項)。
一審の裁判所の判決で無罪判決が出た場合の被告人の勾留
勾留中の被告人について、一審の裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪判決が出た場合で、二審(控訴審)、上告審と裁判が続く場合で、被告人の勾留を継続できるかという問題があります。
この点について、勾留が継続できることを判例は示しています。
裁判官は、
- 第一審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の言渡しをした場合であっても、控訴審裁判所は、第一審裁判所の判決の内容、取り分け無罪とした理由及び関係証拠を検討した結果、なお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ、刑訴法345条の趣旨及び控訴審が事後審査審であることを考慮しても、勾留の理由及び必要性が認められるときは、その審理の段階を問わず、被告人を勾留することができるというべきである
と判示し、一審で無罪判決が出た被告人について勾留ができるとしました。
ただし、無罪判決が出た後の被告人の勾留は、慎重に判断されければならないことが以下の判例で示されています。
裁判官は、
- 刑訴法345条は、無罪等の一定の裁判の告知があったときには勾留状が失効する旨規定しており、特に、無罪判決があったときには、本来、無罪推定を受けるべき被告人に対し、未確定とはいえ、無罪の判断が示されたという事実を尊重し、それ以上の被告人の拘束を許さないこととしたものと解されるから、被告人が無罪判決を受けた場合においては、同法60条1項にいう「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は、無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず、嫌疑の程度としては、第一審段階におけるものよりも強いものが要求されると解するのが相当である
と判示しました。