刑法(横領罪)

横領罪(28) ~横領罪における不法領得の意思②「保管物を毀棄・隠匿する目的である場合における横領罪の成否」を判例で解説~

保管物を毀棄・隠匿する目的である場合における横領罪の成否

 窃盗罪においては、毀棄隠匿目的の場合には、不法領得の意思が否定され、窃盗罪ではなく、器物損壊罪が成立すると解するのが判例の立場です(詳しくは前の記事参照)。

 しかし、横領罪においては、毀棄隠匿目的の場合であっても不法領得の意思を認める判例があります。

大審院判決(大正2年12月16日)

 市の助役が自己の保管している市立小学校の工事設計図面を、共犯者に市役所以外に持ち出させて隠匿させた事案で、裁判官は、

  • 所有者である市をして、その公文書を保存使用する利益を喪失させ、助役らにおいて自由にこれを処分することができる状態に置いたもの、すなわち自己領得の意思を外形に表示したものにほかならない
  • その終局の目的を問わず、横領罪に該当する

と判示し、毀棄隠匿目的の横領行為について、横領罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和34年3月16日)

 この判例は、現金化することが困難な線引小切手遊興費等に充てる意思があったと認定した原判決に事実誤認があったと仮定しても、不法領得の意思には、その物の経済的用法に従い、これを利用処分する意思を必要としないので、その誤認は原判決に影響を及ぼすものではないとしました。

 裁判官は、

  • 横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは、他人の物を保管する者が他人の権利を排除してその物を自己の所有物のごとくに支配し、または処分する意思をいい、必ずしもその物の経済的用法に従いこれを利用しまたは処分する意思は必要としないものと解す
  • 従って、また横領行為の一態様であるいわゆる拐帯行為とは、他人の物の保管者が前記のような不法領得の意思のもとに、その保管する他人の物をほしいままに持ち去り、もって他人の権利を排除し、その物を自己の所有物のごとくに支配し、または処分し得る状態におく行為をいうものであると解するを相当とする
  • 原判決は、その事実摘示として、被告人において本件小切手5枚を前記現金と共に拐帯して逃走した旨を判示し、その事実は原判決の挙示する証拠によりこれを認めることができるから、原判決が右現金のほか小切手5枚についても被告人においてこれを横領したものと認定したのは正当である
  • 原判決が、小切手5枚についても、被告人においてこれを遊興費等に充てる意思があったと認定した点について、事実誤認があったと仮定しても、その誤認は原判決に何らの影響を及ぼすものでないこと右の説明により明らかである

と判示し、たとえ被告人の横領行為が遊興費目的でなく、持ち逃げ目的であったとしてもも、横領罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和56年12月24日)

 この判例は、代表取締役による会社資産の隠匿保管という形態での横領行為を認定しました。

 なお、この判例の事案は、会社振出しの小切手を現金化するなどした上で隠匿保管していたところ、 自己又は第三者のために費消する目的のものと会社のために使用する目的のものとを客観的に区別して保管することなく、しかも、個人所有の金員と全く同様に、専ら占有者たる代表取締役の意思によって自由に処分することのできるような形態で隠匿し、 自己の支配下に置いたと認められることから、会社のために使用する余地のあった部分の金員についても、少なくとも未必的にはこれを自己のために費消する意思があったものと認めた事案です。

 このように隠匿行為であっても費消等するために隠匿していた場合には、利用処分を要求する立場からも、不法領得の意思が認められることになります。

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