刑法(詐欺罪)

詐欺罪㊴ ~「架空の契約を作って会社の金を詐取」「結婚詐欺」「必ずもうかることを強調して勧誘した先物取引による詐欺」を判例で解説~

 詐欺罪(刑法246条)について、知識としておさえておきたい判例を紹介します。

架空の契約を作って会社の金を詐取

東京地裁判決(昭和55年7月29日)

 土木建築会社の副支店長が、自己の用途に費消するため、裏金作りに仮装して架空の契約により会社に金員を出させた行為について、詐欺罪が成立するとしました。

結婚詐欺

前橋地検高崎支部判決(昭和34年6月10日)

 妻子ある被告人が、独身者であるかのように装って結婚を申し込み、その旨誤信した未婚の婦女から貸借名下に金員を交付させた行為につき、詐欺罪の成立を認めました(結婚詐欺)。

東京高裁判決(昭和49年6月27日)

 被害女性と結婚して継続的に夫婦生活を営む意思はなく、被害女性との婚姻届を区役所に提出しても、いずれ時期を見はからって離婚手続をする意思であり、婚姻届を提出したのは、被害女性に被告人と正式な婚姻関係にあり継続的に夫婦生活を営むことができるものと信用させ、その信用関係に乗じ、被害女性を欺いて金を詐取するための手段としてなされたものである場合には、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、真実、被害者A、Bと結婚して継続的に夫婦生活を営む意思はなく、同女らとの婚姻届を所轄区役所に提出しても、いずれ時期を見はからって離婚離籍の手続をする意思であり、婚姻届を提出するというのは、専ら同女らをして、被告人と正式な婚姻関係にあり継続的に夫婦生活を営むことができるものと信用させ、その信用関係に乗じ、同女らを欺罔して金員騙取するための手段としてなされたものであることが認定できるのである

と判示し、詐欺罪の成立を認めました。

必ずもうかることを強調して勧誘した先物取引による詐欺

最高裁決定(平成4年2月18日)

 商品先物取引に関して、顧客にことさら損失を与えるとともに、顧客の損失に見合う利益を会社に帰属させる意図であるのに、自分達の勧めるとおりに取引すれば必ずもうかるなどと強調し、顧客の利益のために受託業務を行うかのように装って取引の委託を勧誘し、その旨信用した顧客から委託証拠金名義に現金などの交付を受けた行為について、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • A株式会社(以下「A」という。)は、顧客から委託を受けて行う先物取引に関して、次のような営業方針を採っていた
  • (1)勧誘に当たっては、いわゆる「飛び込み」と称し、一定地域の家庭を無差別に訪問して勧誘する方法を採る
  • (2)その結果、勧誘対象の多くは、先物取引に無知な家庭の主婦や老人となるが、これらの者を勧誘するに際しては、外務員の指示どおりに売買すれば先物取引はもうかるものであることを強調する
  • (3)そして、右の言葉を信用した顧客に対して、外務員の意のままの売買を行わせることとし、具体的には、相場の動向に反し、あるいはこれと無関係に取引を仲介し、しかも、頻繁に売買を繰り返させる
  • (4)取引の結果顧客の建て玉に利益を生じた場合には、一定の利幅内で仕切ることを顧客に承諾させて、利益が大きくならないようにする一方で、利益金を委託証拠金に振り替えて取引を拡大、継続するよう顧客を説得したり、顧客からの利益の支払要求等を可能な限り引き延ばしたりしつつ、それまでとは逆の建て玉をするなどして頻繁に売買を繰り返させる
  • (5)以上の方法により、顧客に損失を生じさせるとともに、委託手数料を増大させて、結局、委託証拠金の返還及び利益金の支払を免れる
  • 被告人らは、前記のようないわゆる「客殺し商法」により、先物取引において顧客にことさら損失等をえるとともに、向かい玉を建てることにより顧客の損失に見合う利益をAに帰属させる意図であるのに、自分達の勧めるとおりに取引すれば必ずもうかるなどと強調し、Aが顧客の利益のために受託業務を行う商品取引員であるかのように装って、取引の委託方を勧誘し、その旨信用した被告者らから委託証拠金名義で現金等の交付を受けたものということができるから、被告人らの本件行為は刑法246条1項の詐欺罪を構成する
  • 先物取引においては、元本の保証はないこと等を記載した書面が取引の開始に当たって被害者らに交付されていたこと、被害者らにおいて途中で取引を中止した上で委託証拠金の返還等を求めることが不可能ではなかったことといった事情は、本件欺罔の具体的内容が右のとおりのものである以上、結論を左右するものではない

と判示しました。

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