人を欺く行為が1個である場合の詐欺罪の個数
1個の人を欺く行為によって、被害者数人を欺いて、被害者数人からそれぞれ財物を詐取した場合は、数個の占有を侵害するものであるため、観念的競合となり、1個の詐欺罪が成立します。
なお、2個の欺く行為によって、被害者数人を欺いて、数人からそれぞれ財物を詐取した場合は、2個の欺く行為は、2個の詐欺罪を構成し、2個の詐欺罪は併合罪の関係に立ちます。
この点にについて、以下の判例があります。
大審院判決(明治44年4月13日)
この判例で、裁判官は、
と判示しました。
大審院判決(明治44年11月16日)
この判例で、裁判官は、
- 1個の詐欺手段を施し、数人より財物を騙取せんとするは、独立する数個の法益を侵害せんとするものなるをもって、刑法第54条第1項前段にいわゆる1個の行為にして数個の罪名に触れる場合に該当するものとす
- 個別の行為により、格別の法益を侵害するときは、意志の継続すると否とを問わず、その行為が同一の罪名に触れると否とを論ぜず、併合罪を構成すべきものにして、連続犯にあらず
と判示しました。
大審院判決(大正元年8月6日)
この判例で、裁判官は、
- 数個の財産権は、1個の監督の下にありて、1個の法益を組成するありといえども、各自独立する別個の法益として存在するを原則とす
- 故に1個の犯罪行為によりて、同時に数人の財産権を侵害したるときは、刑法第54条第1項前段をもって処断すべきものとす
と判示しました。
大審院判決(大正5年2月25日)
この判例で、裁判官は、
と判示しました。
大審院判決(大正6年12月5日)
この判例で、裁判官は、
- 1個の欺罔手段を施し、2人より金員を騙取したるときは、侵害せられたる財産的法益は2個なるが故に、1所為2罪名に触れるるものにして刑法第54条第1項前段を適用すべきものとす
と判示しました。
1個の詐欺による訴訟で、連帯債務者数人から金銭を詐取しようとした場合の詐欺罪の個数
以下の判例で、1個の詐欺による訴訟で、連帯債務者数人から一定の金銭を詐取しようとした場合は、観念的競合となると判示しました。
大審院判決(大正元年12月9日)
この判例で、裁判官は、
- 債権者が弁済によりて債権の消滅したるにかかわらず、なお存続するものの如く虚偽の事実を主張し、連帯債務者名義に対して、同時に債務の弁済を訴求したるときは、連帯債務の性質上、各債務者は、請求により、債務全額の弁済をなすべき義務あるものなれば、該訴訟により現実に侵害せられ、もしくは侵害せらるべきおそれある財産的法益の箇所は、債務者の数に対して存在せざるべからず
と判示し、1個の詐欺による訴訟で、連帯債務者数人から一定の金銭を詐取しようとした場合は、観念的競合となり、1個の詐欺罪が成立するとしました
1個の人を欺く行為によって同じ人から数回にわたって財物を詐取した場合の詐欺罪の個数
以下の判例で、1個の人を欺く行為によって同じ人から数回にわたって財物を詐取した場合は、包括一罪になると判示しました。
大審院判決(明治43年1月28日)
この判例で、裁判官は、
- 連続犯たる詐欺取得の成立には、その連続したる数個の行為を各箇所に分離してこれを観察するも、その各行為が独立していずれも1個の詐欺取得罪を構成するに足るべき要件を具備せざるべからず
と判示しました。
つまり、連続して行われた複数の詐欺行為を分離して観察した場合に、複数の詐欺行為が独立して1個の詐欺罪を構成するとみなすことができる場合は、複数の詐欺行為は、詐欺行為の数の分だけ詐欺罪を構成し、各詐欺罪は併合罪の関係に立つことになります。
対して、複数の詐欺行為が独立して存在しないとみなすことができる場合は、連続犯(接続犯)として、複数の詐欺行為は包括して1個の詐欺行為となり、包括一罪として1個の詐欺罪が成立することになります。
広島高裁判決(昭和28年3月9日)
この判例で、裁判官は、
- 被告人が被害者から3回にわたって交付を受けた金員は、いづれも被告人が被害者に対し、被害者のため希望の土地を購入し、その上に家を建築してやる旨の1個の基本的詐欺行為に基づいて交付させたものであることが明らかであるから、右のような場合は、たとえ金員受領行為は数回であっても、包括してこれを観察し、一罪と認めるのが相当である
と判示し、1個の詐欺行為で被害者が3回にわたり金員を交付した事案について、包括一罪になるとして、1個の詐欺罪を認定しました。