刑法(詐欺罪)

詐欺罪(87) ~他罪との関係⑤「振り込め詐欺の出し子がATMから現金を引き出す行為は、詐欺罪ではなく、窃盗罪となる」を判例で解説~

 前回記事に続き、詐欺罪と窃盗罪との罪数関係について、判例を示して説明します。

振り込め詐欺の出し子がATMから現金を引き出す行為は、詐欺罪ではなく、窃盗罪となる

 振り込め詐欺を行った犯人の依頼でキャッシュカードを使用して現金自動支払機(ATM)から現金を引き出す行為は、詐欺罪ではなく、窃盗罪を構成します。

(ATM機から不正に現金を引き出す行為が窃盗罪になることについては前の記事でも詳しく説明しています)

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(平成17年12月15日)

 この判例で、裁判官は、

  • 甲が第三者から口座売買によって、口座とキャッシュカードを取得し、Vに対し振り込め恐喝を敢行して同口座に現金を振り込ませた場合に、甲から同キャッシュカードを渡されて同口座からの喝取金の引出しを依頼された乙が、同カードを使用して現金自動預払機から現金を引き出す行為は、窃盗罪を構成するとしました(甲との窃盗の共同正犯が成立)。

としました。

 振り込め詐欺の「出し子」(振り込め詐欺で、詐欺被害者が指定の口座に振り込んだ金をATM機から引き出す係の者)に対しては、通常、窃盗罪(詐欺の主犯者との共同正犯による窃盗罪)が成立することになります。

 なお、詐欺の主犯者である甲に対しては、Vから自己の管理する預金口座に現金を振り込ませた時点で詐欺罪(1項詐欺:刑法246条1項の詐欺)が成立します。

 そして、その詐欺罪(1項詐欺)と、乙がATMから現金を引き出した窃盗罪(甲と乙の共同正犯による窃盗罪)とは併合罪になり、詐欺の主犯者である甲に対しては、詐欺罪と窃盗罪の両罪が成立することになります。

振り込め詐欺の犯人自身の口座に詐取金を振り込ませた場合に、「出し子」がその口座から詐取金を払い出す行為は窃盗罪を構成するか?

 上記の判例の事案とは異なり、振り込め詐欺の主犯者が、犯人自身の口座を振り込め詐欺に利用している場合に、「出し子」がその口座から被害金を払い戻す行為が窃盗罪を構成するかが問題になります。

 この点ついて言及した以下の判例があります。

最高裁判決(平成20年10月10日)(民事事件の預金払戻請求事件)

 この民事事件の判例は、犯人名義の口座から、出し子が振り込め詐欺の被害金を払い戻す行為について、銀行に対する財産犯を構成すると判示しました。

 裁判官は、

  • 振込みに係る金員を不正に取得するための行為であって、詐欺罪等の犯行の一環を成す場合などは、払戻行為が権利濫用と評価される余地を認めていることを根拠とし、払戻行為が民事法上、権利濫用と評価され、かつ、実質的被害者に対して、銀行が何らかの責任を負う可能性がある場合には、たとえ自己名義の預金口座からの払戻しであっても、銀行の占有を侵害する行為として、財産犯の成立を認めるべきである
  • そして、出し子が振り込め詐欺の被害金を払い戻す行為は、まさしく被害者の利益を直接的に侵害する行為であるため、たとえ自己名義のロ座からの払戻しであっても、この要件を充足し、銀行に対する財産犯を構成する

としました。

 次いで、以下の判例で、犯人自身が犯人名義の口座から現金を引き出す行為について、詐欺罪や窃盗罪が成立するとしました。

東京高裁判決(平成25年9月4日)

 被告人が代表者である株式会社名義の預金口座が詐欺などの犯罪行為に利用されていることを知りながら、被告人が、銀行窓口で銀行係を欺いて現金を払い戻す行為については詐欺罪が、現金自動預払機から現金を引き出す行為については窃盗罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 詐欺等の犯罪行為に利用されている口座の預金債権は、債権としては存在しても、銀行がその事実を知れば口座凍結措置により払戻しを受けることができなくなる性質のものであり、その範囲で権利の行使に制約があるものということができる
  • したがって、上記普通預金規定上、預金契約者は、自己の口座が詐欺等の犯罪行為に利用されていることを知った場合には、銀行に口座凍結等の措置を講じる機会を与えるため、その旨を銀行に告知すべき信義則上の義務があり、そのような事実を秘して預金の払戻しを受ける権限はないと解すべきである
  • そうすると、被告人は、本件各犯行の時点では、A名義の預金口座が詐欺等の犯罪行為に利用されていることを知っていたと認められるから、被告人に本件預金の払戻しを受ける正当な権限はないこととなり、これがあるように装って預金の払戻しを請求することは欺もう行為に当たり、被告人がキャッシュカードを用いて現金自動預払機から現金を引き出した行為は、預金の管理者ひいて現金自動預払機の管理者の意思に反するものとして、窃盗罪を構成するというべきである
  • 以上により、被告人に詐欺罪及び窃盗罪が成立する

と判示しました。

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