法律(刑法)

詐欺罪(66) ~詐取額(利得額)の考え方①「詐欺罪は交付を受けた財物の全部について成立するのか、それとも、犯人が持つ権利・犯人が被害者に支払った対価の分を差し引いた差額について認められるのか」「詐取金品の可分・不可分の考え方」を判例で解説~

詐欺罪は交付を受けた財物の全部について成立するのか、それとも、犯人が持つ権利・犯人が被害者に支払った対価の分を差し引いた差額について認められるのか

 人を欺いて財物の交付を受けた場合に、犯人が、

  • その中の一部分について正当に受領しうる権利を有する
  • 人を欺く手段として対価を提供している

場合について、

詐欺罪は、交付を受けた財物の全部について成立するのか、それとも、権利ないし対価の分を差し引いた差額について認められるのか

という問題が生じます。

 判例は、当初、交付された財物の全部について詐欺罪の成立を認めていました。

 大審院判決(大正元年11月26日)では、

  • 被告人が馬の買受代金につき、虚偽の報告をなして、産牛組合を欺罔し、これより多額の金員を交付せしめたるときは、その金員は全部詐取手段によりて、これを騙取したるものとす
  • 従って、被告の支出したる代金を控除して騙取金額を算定すべきものにあらず

と判示しました。

 その後、大審院判決(大正2年12月23日)において、見解が改められ、

  • 領得した財物・財産上の利益の一部に権利がある場合につき、その権利行使のために人を欺く手段が施されたときは、領得した財物・財産上の利益が法律上可分の場合には、権利の範囲外の部分についてのみ詐欺罪が成立する
  • 法律上不可分の場合には、全体につき詐欺罪が成立するが、権利の実行に藉口した場合及び領得の原因が正当な権利と全然異なる場合には、詐欺罪は領得した財物・財産上の利益の全部について成立する

と解するに至りました。

 この大審院判決(大正2年12月23日)で、裁判官は、

  • 他人より財物の交付を受け、又は財産上の利益を領得すべき正当なる権利を有する者が、これを実行するに当たり、詐欺又は恐喝の手段を用い、義務者をして正数以外の財物を交付せしめ、又は正数以上の利益を供興せしめたるときは、詐欺恐喝罪の罪は、右権利の範囲外において領得したる財産又は利益の部分についてのみ成立するものとす
  • 他人より財物又は財産上の利益を受領すべき正当の権利を有する者といえども、これを実行するの意思なく、ただ名を仮託し、これを手段として相手方を欺罔し、不正に財物又は利益を領得したる場合、又はその領得したる所以の原因が正当に有する権利と全然相異なる場合においては、詐欺恐喝の罪は、右領得したる財物又は財産上の利益の全部につき成立するものとす
  • 犯人の領得したる財物又は利益の一部分につき、犯罪の成立を認るがためには、ぞの財物又は利益が法律上、可分なるを要するものとす

と判示ました。

 以下で、この点については判示した判例を紹介します。

① 権利の範囲外の部分に対してのみ詐欺罪の成立を認めた判例

大阪高裁判決(昭和26年6月22日)

 被告人が、労働者災害補償保険法に基く療養補償費を請求するに際し、正当の治療費50万830円に虚偽の治療費41万4120円を増額した虚偽の領収書を係員に交付して、請求額全部について詐欺の意思をもって仮払を受けた事案です。

 まず、被告人の弁護人は、

  • 原判決は、被告人が療養補償費合計金91万4950円を騙取した事実を認めたが、右金額中には正当の療養補償費と虚偽の療養補償費を包含しているのであるから、右正当療養補償費まで騙取の対象とした原判決は誤認である

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 刑法第246条第1項に規定する詐欺罪は、何ら正当な法律上の原因がないのにかかわらず、欺罔手段を用いて、人を錯誤に陥れ、もって不法に財産の交付を受けるによって成立するものであるから、法律上他人から財物の交付を受ける正当の権利を有する者が、その権利を実行するに当たって欺罔手段を用いて義務を履行せしめ、財物の交付を受けても詐欺罪の成立するいわれはない
  • 他人より財物の交付を受ける正当な権利を有する者が、これを実行するに当たって、その範囲を超え、義務者をして正数以外の財物を交付せしめた場合においても同様の精神に従い解釈しなければならない
  • この場合、詐欺罪は犯人の領得した財産の全部につき成立するのではなくして、犯人が正当な権利の範囲外において領得した財産についてのみ成立するものと解しなければならない
  • 何となれば、この場合においては、犯人の領得した財物の中、その権利に属する部分は正当な法律上の原因があって給付せられたものであるから、この部分については、給付行為は弁済として有効に成立し、犯人の行使した権利はこれによって消滅するから、何ら不当の利得はないのである
  • 従って、たとえ欺罔手段を用いて権利の目的を達したとしても、詐欺罪を構成するいわれがない
  • ただ犯人がその権利の範囲外において領得した部分は、すなわち欺罔によって不当に利得したものであるから、詐欺罪の成立を認めるのが正当である
  • 本件は、被告人がB株式会社C支店厚生係員として労働者災害補償保険法に基く療養補償費請求の事務を担当していたところ、その請求に当たって、右正当療養費をほしいままに増額した虚偽の領収書を作成し、同支店係員を欺罔して、右正当療養費のほかに右増額した虚偽の療養費を交付せしめたのである
  • しかして、右正当療養費はA病院に入金され、本件給付行為は弁済として有効に成立しているのである
  • この部分について詐欺罪の成立するいわれなく、本罪は右増額された虚偽の療養費の部分についてのみ成立するものと言わねばならない
  • 然るに、原判決が本件受領金額の全部について詐欺罪の成立を認めたのは失当である

と判示し、虚偽申告をして増額した部分の治療費41万4120円についてのみ詐欺罪が成立するとしました。

② 取得した財物・財産上の利益が不可分であることを理由に全体につき詐欺罪の成立を認めた判例

大審院判決(大正5年3月8日)

 この判例で、裁判官は、

  • 単一なる約束手形は自体分割すべからざるものなれば、たとえその金額の一部は欺罔者において正当にこれを受領し得べきものとするも、各部分を分離し、その一部につきのみ詐欺罪の成立を認むべきものにあらず

と判示しました。

大審院判決(大正12年1月19日)

 この判例で、裁判官は、

  • 金銭債権者がその債務の弁済を受けるに際し、債務者に対してその債務額以上の債権ある旨を主張し、債務者を欺罔してこれを錯誤に陥れたる結果、債務額を超過する現金と小切手及び借用証書とを受領したる場合においては、その現金中、債務に充てたる残額と小切手及び借用証書とは、詐欺により利得したる物件なりとす
  • 本件の如く、金額債権に対し、債務者が現金と小切手又は借用証書を債権者に交付したる場合において、当事者間において別段の意思表示なきときは、その債権の存する限度において、現金をもってその債権の弁済に充当し、その残額に対し、小切手及び借用証書を交付したるものとすは、その債権の性質に適するものといわざるべからず
  • 従って、原院(原審)が、被告人が交付を受けたる物件中、現金は被告人において被害者に対する判示の債権を行使したる結果、正当に受け取りたるものと認めたるは相当なるのみならず、借用証書及び小切手は不可分なるをもって、被告人がその金額の一部につき正当の権利を有するにかかわらず欺罔の手段を用いて、その借用証書・小切手を領得したる行為に対し、その全部を騙取したるものとして刑を適用してるは相当なり

と判示しました。

大審院判決(昭和13年11月15日)

 この判例で、裁判官は、

  • 真偽2通の有価証券を一括して担保に供し、貸借名義の下に、金員を騙取したるときは、その交付を受けたる金員金額につき詐欺罪成立す
  • 真偽の証券2通の一括担保とこれに対する金員の交付とは、共に不可分の関係において対立し、従って、その間、不可分的に因果関係の存するものと認め、判示交付金全額につき詐欺罪を認めたるは正当なり

と判示しました。

名古屋高裁金沢支部判決(昭和28年2月12日)

 N市から工事を請け負った被告人が、N市から、N市が定める適正限度を超える前渡金を詐取した事案で、裁判官は、

  • 本件前渡金は、適正限度内の部分とを区別することなく、N市より請負人にその都度一括交付されたものであり、金員中、いかなる部分につき、請負人においてこれを保有する権利を有するやを識別することは不可能であることを認め得るから、結局、不法領得の事実は、不可分一体の関係において、該金員の全体にわたって、包括的に成立すると言わなければならなぬ

と判示し、前渡金全額について詐欺罪が成立するとしました。

仙台高裁判決(昭和30年9月22日)

 この判例で、裁判官は、

  • 人を欺く手段による売買名義の代金が一括して不可分に定められている場合には、たとえその目的の一部は実際に売却する権限があったとしても、その代金の全額につき詐欺罪が成立するものと解するのが相当であって、その目的物が可分であると否と相手方において一部のみでは買い受けなかったであろうと否とは問うべきでない
  • けだし、売却権限のない部分とある部分との一括売却と、これに対する金員の交付とは、共に不可分の関係において対立し、したがって、またその間、不可分的に因果関係の存するものと認められるからである

と判示しました。

最高裁判決(昭和29年4月27日)

 この判例で、裁判官は、

  • パチンコ遊技において、正当な玉と不正な玉とを一緒にして、全部が正当な玉のように装ってこれを景品と交換した場合の詐欺罪の成立範囲に関して、不正の玉約700個のほか、正当な玉約43個を使用して打ち出した景品玉のうち、正当な玉によったものと不正な玉によったものと区別できないような場合には、全部の玉を全体として観察するほかなく、そして不正な玉と正当な玉との比率は、不正約700個に対する正当43個位というのであるから、かくのごとき比率から見て、ほとんど全部が不正玉によったものと見るのが相当であり、かかる場合においては、これと引きかえられた景品全部について詐欺罪が成立するものと解すべきである

と判示し、詐取額が不可分であるため、詐取額全額について詐欺罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和29年3月3日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人は遊技場において料金を支払って受け取った所定の玉以外の玉を、正当に受け取った玉に加えて遊技をし、その結果、取得した玉、又は元々被告人が所持していたもので、正当に料金を支払って受げ取ったものでない玉を、あたかも正当に料金を払って受け取った玉又はその玉により正当に遊技をして得た玉であるかのように装って景品引換所に差し出し、前記遊技場営業者又はその店員等を欺罔して賞品名下に判示煙草を受け取ったことが認められるのであるから、被告人の所為は、刑法第246条第1項にいわゆる詐欺罪を構成するものというべきであって、被告人か引換を受けた玉の中には被告人が正当に料金を支払って受け取つった玉又はその玉により遊技の結果正当に取得した玉が混入していたとしても、そのいずれの玉か正当に取得した玉であるかを具体的に判別しえない本件のような場合においては、その行為は包括して違法に財物を騙取した罪にあたるものと認めるの外はない

と判示し、詐取額が不可分であるため、詐取額全額について詐欺罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和36年2月28日)

 不正に取得したパチンコ玉を正当に取得したパチンコ玉に混入し、その全部を不正に取得したものとして景品を引き換えた事案で、裁判官は、

  • (被告人の弁護人は、)原判決が、判示パチンコ玉300個のうちに正当取得の約210個を含むことを認定しながら、右300個と引き替えたタバコ10個全部につき詐欺罪の成立を認めたのは、理由のくいちがいに該当する旨主張するけれども、原判決は右300個中に不正取得分「少なくとも、約90個」と判示しているのであって、これは右300個を正当取得分と不正取得分とに明確に区分しがたい状況にあり、右300個全部が正当に取得したものであるように装い、判示タバコ10個と引き換えたことを判示したもので、かかる場合には判示タバコ10個全部につき詐欺罪の成立を認めるのを相当とする

と判示しました。

 この判例は、詐欺罪の成立の判断について、正当な玉と不正な玉との比率は問題としていない点がポイントになります。

 上記判例とは逆に、不正に取得したパチンコ玉で交換した景品についてのみ詐欺罪が成立すると判示した以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和30年7月11日)

 正当に取得したパチンコ玉と不正に取得したパチンコ玉を一緒にして景品と引き換えた事案で、裁判官は、

  • 被告人は、パチンコ店において、パチンコ玉150個を不正に流出させた上、これを正当な方法で取得した930個を一結にして店員に提出し、たばこ40個と交換させて、いずれもこれを交付させたという事実を認定することができるのである
  • すると、玉27個につき、たばこ1個の割合で交付させたことになるわけであるが、この場合に詐欺罪は不正な方法によって取得した玉150個の対価として交付させた部分についてのみ成立すると解すべきものであることは(弁護人が)主張するとおりである
  • しかるに、原判決は、40個全部について被告人に詐欺罪の責任を負わしめたものである
  • これは、まさに、事実の誤認にもとづく違法な措置であったといわなくてはならない
  • すなわち、被告人は、玉150個をもってたばこ5個と端数玉15個を正当な方法によって収得した玉の中の12個と併せて更にたばこ1個を交付させた計算になり、この1個を右5個に加えた合計6個が被告人の各詐欺罪における取得物件であったわけである

と判示し、不正に取得したパチンコ玉で交換した景品についてのみ詐欺罪が成立するとしました。

窃盗罪の場合は、可分と不可分を必ず分けて被害品を特定する

 詐欺罪の場合は、詐取金品が可分できる場合は可分して詐取金品の範囲を限定し、詐取金品が不可分の場合は詐取金品全部について詐欺罪の成立を認めるという考え方をとるのが判例の傾向です。

 これに対し、窃盗罪の場合は、窃取金品が可分できる場合は、必ず可分して窃取金品を特定することになります。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁決定(平成21年6月29日)

 XとYらが共謀の上、Yがパチスロ機に針金を差し込んで誤作動させる方法によりメダルを不正に取得し、Xは不正行為自体は行っていないものの、店内の防犯カメラや店員による監視からYの行為を隠蔽する目的で、いわゆる「壁役」として隣の台でパチスロを行い、犯行の発覚を防ぎ、Yの窃取したメダルを受け取るなどした事案において、裁判官は、

  • Yが不正行為により取得したメダルについては、X・Y の共同正犯として窃盗罪が成立するものの、Xが自ら取得したメダルについては、被害店舗が容認している通常の遊戯方法により取得したものであるから、窃盗罪が成立するとはいえない
  • Xが通常の遊戯方法により取得したメダルとYが不正行為により取得したメダルとが混在したメダル414枚全体について窃盗罪が成立するとした原審の判断は法令の解釈適用を誤ったものである

と述べた上で、Xらが何枚のメダルを窃取したかは明示せず、窃取したものとそうでないものが混在し区別困難というだけで、全体について窃盗罪が成立するという考え方を否定し、「414枚のうちの相当数」として被害品を特定した上で、窃盗罪の成立を認めました。

 ここでのポイントは、上記最高裁決定(平成21年6月29日)の考え方は、詐欺罪の場合に及ばないということです。

 詐欺や恐喝の場合には、詐取文言あるいは恐喝文言によって被害者の意思に瑕疵が生じ、この瑕疵ある意思に基づいて財物が交付されることから、財物の取得全体が違法性を帯びるという考え方がとられます。

 これに対し、窃盗の場合には、瑕疵ある意思というような媒介となるものがなく、不正に取得したものとそうでないものとが整然と区別される関係にあるため、全体についていきなり不正な取得であるとはいい難いため、きちんと窃取したものと窃取してないものを可分した上で窃盗の犯罪事実を認定することになります。

まとめ

 詐欺罪は交付を受けた財物の全部について成立するのか、それとも、犯人が持つ権利・犯人が被害者に支払った対価の分を差し引いた差額について認められるのかについては、詐取金品が可分な場合は詐取金品を可分して詐欺の犯罪事実を特定し、詐取金品が不可分な場合は詐取金品全部について詐欺罪が成立するという判例を紹介しました。

 とはいえ、詐取金品が可分か可分でないかは、必ずしも明瞭ではありません。

 学説では、可分か可分でないかを不明確な基準に基づいて詐欺罪の成立範囲を区々に認めることは不都合であり、常に、取得された財物・財産上の利益の全体について詐欺罪を考えるのが妥当であるとするのが多数説になっています。

 実際に、他人を欺いて財物を不法に領得した場合、その人を欺く手段として対価が提供されたとしても、その詐取額は交付された財物の価値から対価を差し引いた差額ではなく、詐取した財物全部であるとするのが判例が多数存在します。

 この点については、次回記事で解説します。

 結局のところ、詐欺罪は交付を受けた財物の全部について成立するのか、それとも、犯人が持つ権利・犯人が被害者に支払った対価の分を差し引いた差額について認められるのかについて、裁判でどちらの結論が導かれるかは、

事案による(ケースバイケース)

というのが答えになります。