刑事訴訟法(公判)

裁判⑥~「有罪の裁判」を説明

 前回の記事の続きです。

有罪の裁判

 終局裁判の種類は、

に分けられます。

 刑事訴訟法などの訴訟法上において「裁判」とは、

裁判所又は裁判長・裁判官の意思表示的な訴訟行為

をいいます。

 一般的には、刑事事件の公判手続などの訴訟手続の全体を指して「裁判」ということが多いですが、訴訟法上は、訴訟手続の中の、裁判所又は判長・裁判官の意思表示的訴訟行為だけを「裁判」といいます。

 この記事では、有罪の裁判について説明します。

有罪の裁判

 被告事件について犯罪の証明があったときは、有罪の判決を言い渡さなければなりません(刑訴法333条1項)。

 有罪判決には、

  • 刑の言渡しがなされる場合(刑訴法333条1項
  • 刑の免除が言い渡される場合(有罪ではあるものの刑罰を科さない。※刑の免除が言い渡されることはほとんどありません)(刑訴法334条

の2つがあります。

 刑の言渡しがなされる場合の裁判の内容は、

があり、それぞれの刑に執行猶予や、保護観察付き執行猶予が付される場合があります(刑訴法333条2項)。

 また、未決勾留日数の算入(刑法21条)、仮納付の裁判(刑訴法348条)、没収刑法19条)、訴訟費用の負担を命じる裁判(刑訴法181条)も、刑の言渡しの判決と同時に言い渡される場合があります。

「犯罪の証明があったとき」とは、裁判官が犯罪の成立について「合理的疑いを超える程度の確信」を抱くに至った場合をいう

 刑訴法333条1項の「犯罪の証明があったとき」とは、

裁判官が犯罪の成立について「合理的疑いを超える程度の確信」を抱くに至った場合

をいいます。

 裁判官がその程度の確信を抱くことができないときは、無罪判決が言い渡されることになります。

 この「合理的な疑いを超える程度」というのは、

  • 常識に照らして事実はこうだったと納得できる程度
  • 常識に照らしてもっともな疑問が残らない程度

と考えられるものをいいます。

「疑わしきは被告人の利益に」の原則は、「有罪であることに少しでも疑問があったら無罪にしなければならない」というものではない

 裁判官が犯罪の成立について「合理的疑いを超える程度の確信」を抱くに至った場合は、有罪判決を言い渡すことになります。

 その程度に至らなかった場合は、無罪を言い渡すことになります。

 無罪を言い渡すのは、「疑わしきは被告人の利益に」の原則によるためです。

 「疑わしきは被告人の利益に」の原則とは、

刑事裁判において、事実の存否が明確にならないときには被告人にとって有利に扱わなければならないとするルール

です。

 この「疑わしきは被告人の利益に」の原則は、「有罪であることに少しでも疑問があったら無罪にしなければならない」というものではありません。

 この点を判示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和48年12月13日)

 裁判官は、

  • 「疑わしきは被告人の利益に」という原則は、刑事裁判における鉄則であることはいうまでもないが、事実認定の困難な問題の解決について、決断力を欠き安易な懐疑に逃避するようなことがあれば、それは、この原則の濫用であるといわなければならない
  • そして、このことは、情況証拠によつて要証事実を推断する場合でも、なんら異なるところがない
  • 情況証拠によって要証事実推断する場合に、いささかでも疑惑が残るとして犯罪の証明がないとするならば、情況証拠による犯罪事実の認定は、およそ、不可能といわなければならないからである
  • ところで、裁判上の事実認定は、自然科学の世界におけるそれとは異なり、相対的な歴史的真実を探究する作業なのであるから、刑事裁判において「犯罪の証明がある」ということは「高度の蓋然性」が認められる場合をいうものと解される
  • しかし、「蓋然性」は、反対事実の存在の可能性を否定するものではないのであるから、思考上の単なる蓋然性に安住するならば、思わぬ誤判におちいる危険のあることに戒心しなければならない
  • したがって、右にいう「高度の蓋然性」とは、反対事実の存在の可能性を許さないほどの確実性を志向したうえでの「犯罪の証明は十分」であるという確信的な判断に基づくものでなければならない
  • この理は、本件の場合のように、もっぱら情況証拠による間接事実から推論して、犯罪事実を認定する場合においては、より一層強調されなければならない

と判示しました。

犯罪の証明は、検察官が掲げる訴因について存在しなければならない

 犯罪の証明は、検察官が起訴状の公訴事実に掲げる訴因について存在しなければなりません(公訴事実と訴因の説明は前の記事参照)。

 なので、訴因以外の事実について犯罪の証明があっても、検察官の掲げた訴因について犯罪の証明がなければ、検察官が訴因変更手続を採らない限り、裁判官は無罪の言渡しをすることになります。

判決に記載される事項

 判決には「主文」と「理由」が付さなれます(刑訴法44条1項)。

 判決には「主文」と「理由」が付されます(「主文」と「理由」の詳しい説明は前の記事参照)。

 「主文」は、

裁判の結論の部分

をいいます。

 例えば、刑事事件の判決における「被告人を懲役1年の刑に処す」の部分が主文です。

 「理由」は、

主文の根拠を説明する部分

です(刑訴法44条1項)。

 有罪判決については、その特則として、

  • 罪となるべき事実(裁判所が認定した犯罪事実)
  • 証拠の標目(罪となるべき事実を認定する根拠となった証拠の標題・種目)
  • 法令の適用(罪となるべき事実に適用される刑罰法令)

の表示が要求されています(刑訴法335条1項)。

 また、「法律上犯罪の成立を妨げる理由」又は「刑の加重減免の理由」となる事実が主張されたときは、これに対する判断も示さなければなりません(刑訴法335条2項)。

 「法律上犯罪の成立を妨げる理由」とは、

などであり、これらが主張された場合は、判決の理由でこれに対する判断が示されなければなりません。

 なお、故意・過失の不存在、誤想防衛被害者の承諾、錯誤などの主張は「法律上犯罪の成立を妨げる理由」に当たらないとされるので、これらが主張された場合は、判決の理由でこれに対する判断が示される必要はありません。

 「刑の加重減免の理由」は、必要的加重減免事由をいいます。

 任意的加重減免事由の主張や、訴訟条件欠如の主張は「刑の加重減免の理由」に当たらないとされます。

次回の記事に続く

 次回の記事では、

無罪の裁判

を説明します。

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