前回の記事の続きです。
親族相盗例の規定は、 犯人自身の財物であっても窃盗罪が成立する場合(例えば、犯人自身の財物につき質権、留置権又は賃借権等に基づき親族が占有している揚合など)にも適用がある
親族相盗例の規定は、 自己の財物(犯人自身の財物)であっても窃盗罪が成立する場合には適用があります。
例えば、自己の財物(犯人自身の財物)でも、質権、留置権又は賃借権等に基づき親族が占有している揚合において、犯人がその財物を窃取したときは窃盗罪が成立し、その窃盗罪に対して親族相盗例(刑法242条)の適用があります。
この点に関する以下の判例があります。
大審院判決(大正6年2月26日)
裁判所は、
- 公務所の命により看守すとは、公務所の処分によりて所有者の事実上の支配力を排除し、公務所の事実上の支配内に移したる物を第三者が公務所の命を受け、自己の事実上の支配内に置くの意義ないと解すべきをもって、看守者が現実に物に対する事実上の支配力を保持する限りはこれを侵し、その支配内にある物を奪取したる場合については、その行為者が所有者と刑法第244条前段(※刑法244条1項)の関係にあるときといえども窃盗罪の成立を妨げず
- 而して、看守者が現実に物に対する事実上の支配力が喪失し、所有者が事実上の支配力を行ひ得べき状態にありたる場合において、その支配力を侵し、その物を事実上自己の支配内に移したる者が所有者と刑法第244条前段の関係を有する者ならば、その刑を免除すべく、また同条後段(※刑法244条2項)の関係を有する者ならば、告訴をまってその罪を論ずべきものなり
と判示しました。
裁判所が差し押さえた物件には、親族相盗例の適用はない
裁判所の執行官(執達吏)が差し押え封印した物件は、裁判所の執行官の占有に属するから、これを被差押者の同居の実弟が窃取した物合には、親族相盗例(刑法244条)を適用すべきではない旨を判示した判例があります。
大審院判決(大正4年9月30日)
裁判所は、
- 執達吏が差押え、封印したる物件は、その執達吏の占有に属するものなれば、被差押者同居の実弟がこれを窃取するも刑法第244条を適用すべきものに非ず
と判示しました。