前回の記事の続きです。
被害者中に親族関係にない他人が加わっている場合、親族相盗例の適用はない
親族相盗例(刑法244条)を適用するためには、被害者が複数である場合に、その全員との間に親族関係の存在することが必要かという問題があります。
判例・裁判例は、被害者中に親族関係にない他人が加わっている場合、親族相盗例の適用はないとします。
この点に関する以下の裁判例があります。
窃盗罪の事例
広島高裁判決(昭和27年12月11日)
親族以外の者が所有し、その居室に置いて占有する物件を、親族が留守番として占有していたという事案で、親族と非親族との二重の占有下に置かれた物件を窃取した場合には、親族相盗例(刑法244条)の適用の余地はないとした判決です。
裁判所は、
- 訴訟記録を精査するに本件の被害物件の所有者であるA小早川奨方の留守番は被告人の長女M子であったのであるから、被害物件はM子の占有下にあったものであることは所論のとおりである
- 然しながら本件の物件は、いづれもAの所有に属し、かつAの居室に置かれていたものであって、Aの占有下に
あったものであることは明らかである
- すると本件の物件はM子及びAのニ重の占有下に置かれていたものということが出来る
- 従ってこれが占有を侵奪した被告人の本件行為についてはM子に対する関係においては所論のように刑法第244条第1項の規定を適用すべきではあろうが、右のように所有者としての占有権を有しているAに対する関係においては同規定を適用するの余地は見出し得ないから原審が同規定を適用しなかったのは正当であって原判決には所論のような違法はない
と判示しました。
詐欺罪の事例
詐欺罪(刑法246条)に関する判例として以下のものがあります。
大審院判決(昭和11年3月5日)
この判例で、裁判官は
- 刑法第251条、第244条の規定は、被害者と犯人との間に同条所定の関係ある場合に適用せらるるにどどまり、被害者中に同条所定の関係にあらざる他人が加わりて、全被害者が不可分的に損害を被りたる場合には、同条の適用はなきものとす
と判示しました。
大審院判決(昭和8年7月8日)
この判例で、裁判官は、
- 組合の性質を有する頼母子講の業務を執行する講員と被告人との間に親族関係あるも、他の講員と親族関係なき場合において、講会の業務を執行する講員を欺罔して金員を騙取したるときは、刑法第244条の適用なきものとす
と判示し、被害者たちの中に親族がいても、親族以外の被害者もいるのだから、親族相盗例の適用はないとしました。