刑事訴訟法(捜査)

現行犯逮捕とは?① ~「令状なし・一般人(私人)による逮捕」「現行犯逮捕できない罪」「現行犯逮捕の要件(犯人の明白性・時間的接着性)」「準現行犯逮捕」を解説~

現行犯逮捕とは?

 現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人といいます(刑訴法212条1項)。

 そして、現行犯人を逮捕することを

現行犯逮捕

といいます。

 現行犯逮捕の特徴は、

  • 逮捕状なしで逮捕できること
  • 誰でも(一般人でも)逮捕できること

にあります(刑訴法213条)。

 現行犯逮捕の例として、客が万引きをしたところを目撃したスーパーの店員が、客をその場で現行犯逮捕する場合があります。

 ちなみに、一般人を「私人(しじん)」と呼ぶこともあります。

逮捕状なしで、一般人でも逮捕行為ができる理由

 現行犯逮捕が、逮捕状なしで、一般人(私人)でもできる理由は、

  • 現行犯人は、犯人が明白であるため、誤認逮捕のおそれがない
  • 速やかに犯人を逮捕する必要性が高い

ためです。

 本来、逮捕は、強制捜査に分類されるので、令状(逮捕状)が必要です。

 しかし、現行犯逮捕の場合は、令状主義の例外として、逮捕状なしで、しかも、一般人でも犯人を逮捕できる法律の規定になっています。

軽微事件について、現行犯逮捕はできない

 刑訴法217条に、

30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯

については、

犯人の住居もしくは氏名が明らかでない場合

犯人が逃亡するおそれがある場合

に限り、現行犯逮捕できるとする規定があります。

 この意味は、犯人が犯した罪が、30万円以下の罰金に当たる比較的軽微な事件(たとえば軽犯罪法違反)であった場合は、現行犯逮捕できないということです。

 ただし、比較的軽微な事件でも、犯人が、

  • 住居不定
  • 氏名不詳
  • 逃亡するおそれがある

場合は、現行犯逮捕できる点がポイントです。

現行犯逮捕の要件

 現行犯逮捕が認められるためには、犯人が現行犯人であることが必要です。

 犯人が現行犯人であると認められるためには、

  • 犯人の明白性
  • 犯行と逮捕の時間的接着性

が必要になります。

犯人の明白性について

 犯人の明白性について、犯人を追跡する者が途中で変わった場合でも、犯人の現行犯人性が認められることを示した最高裁判例(昭和50年4月3日)があります。

 この判例の事案は、

密漁をして逃走する犯人の船を、まず、A船が現行犯人と認めて追跡し、その後、A船の依頼で、A船に代わり、B船が犯人を追跡して現行犯逮捕した

というものであり、現行犯人性が争われました。

 裁判官は、追跡中の者から依頼を受けた次の追跡者が、犯人が現行犯人であることを知って逮捕する場合でも、

刑訴法213条に基づく適法な現行犯逮捕の行為であると認めることができる』

と判示しました。

犯行と逮捕の時間的接着性について

 犯行と逮捕の時間的接着性について、最高裁判例(昭和33年6月4日)で、裁判官は、

『現行犯逮捕の点は、住居侵入の現場から約30メートル離れた所で逮捕したものではあるが、時間的には、住居侵入の直後、急報に接し、警察官が自転車で現場にかけつけ、右の地点において逮捕したものであるから、刑訴212条1項にいう「現に罪を行い終わった者」にあたる現行犯人の逮捕と認むべきである』

と判示し、現行犯逮捕において、現行犯人と認めるには、時間的接着性が要件になることを示しました。

準現行犯逮捕とは?

 準現行犯人とは、

罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる者で、

  1. 犯人として追呼されているとき
  2. 贓物ぞうぶつ又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき
  3. 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき
  4. 誰何すいかされて逃走しようとするとき

のいずれかに当たる者をいいます(刑訴法212条2項)。

 準現行犯人は、現行犯人と同一視でき、現行犯逮捕することができます。

 そして、準現行犯人を逮捕することを

準現行犯逮捕

といいます。

『罪を行い終ってから間がない』とは?

 準現行犯逮捕が成立するためには、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる必要があります。

 では、どの程度の時間的間隔であれば、罪を行い終わってから間もないと判断されるでしょうか?

 この点については、以下の最高裁判例(平成8年1月29日)が指針になります。

【事案の概要】

 凶器準備集合傷害の犯行現場から直線距離で約4キロメートル離れた派出所で勤務していた警察官が、無線情報を受けて逃走犯人を警戒していた。

 犯行終了後、約1時間を経過したころで、犯人が通りかかるのを見つけた。

 犯人の挙動や、小雨の中で傘もささずに着衣をぬらし、靴も泥で汚れている様子を見て、職務質問のため停止するよう求めた。

 すると、犯人が逃げ出したので、約300メートル追跡して追い付き、その際、犯人が腕に防具を装着しているのを認めたなどの事情があったため、犯人を本件犯行の準現行犯人として逮捕した。

【争点】

 準現行犯逮捕が成立するか否か

【裁判官の判断】

 裁判官は、

  • 本件準現行犯逮捕は、刑訴212条2項2号ないし4号に当たる者が罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる
  • 本件準現行犯逮捕は適法

と判断しました。

『犯人として追呼されているとき』とは?

 追呼(ついこ)とは、犯人を追跡し、または、呼称している状況をいいます。

 たとえば、逃走中の犯人を追跡していた人が、

「そいつは窃盗犯だ!捕まえてくれ!」

と叫んだので、それを聞いた近くの人が犯人を逮捕した場合は、準現行犯逮捕が成立すると考えられます。

『贓物又は明らかに犯行の用に供したと思われるもの兇器その他の物を所持しているとき』とは?

 贓物(ぞうぶつ)とは、盗品などの犯罪によって不法に入手した物をいいます。

 たとえば、警察官が、盗品と疑われる物を所持した犯人を追跡して声をかけ、犯人が

「これは盗んだ物です」

と自供したところで逮捕すれば、準現行犯逮捕が成立すると考えられます。

 凶器やその他の物(犯罪と犯人を結び付ける物など)を所持する犯人も、贓物と同様に、準現行犯逮捕が成立すると考えられます。

『身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき』とは?

 たとえば、服に血がついていて、逃走中の殺人犯であることが推認できる場合は、犯人を準現行犯逮捕することができると考えられます。

『誰何されて逃走しようとするとき』とは?

 誰何(すいか)とは、「人を呼び止めること」をいいます。

 たとえば、逃走中の犯人を捜索中に、犯人らしき者を発見したので、

「そこにいるのは誰だ?」

などと問いかけたときに、犯人らしき者が逃げ出したような場合が、『誰何(すいか)されて逃走しようとするとき』に該当します。

 このような場合に、犯人を追いかけて捕まえれば、準現行犯逮捕が成立すると考えられます。

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