「反抗の抑圧」の認定基準
強盗罪(刑法236条)において、暴行・脅迫が被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであることを要します。
今回は、「反抗の抑圧」の認定基準について説明します。
「反抗の抑圧」は客観的基準によって判断される
強盗に伴って行われた暴行・脅迫が、被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであったかどうかの判断は、被害者の主観を基準とするのではなく、客観的基準によって決せられます(最高裁判決 昭和24年2月8日)。
そして、強盗に伴って行われた暴行・脅迫が、被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであったと認定するに当たり、その暴行・脅迫が、現実的に反抗を抑圧し得るものであること、 又は現実的に反抗を抑圧したことは必要ではありません(広島高裁判決 昭和26年1月13日)。
なお、どのような場合にも通ずる抽象的、一般的な客観的基準は存在しません。
なので、強盗に伴って行われた暴行・脅迫が、被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであったかどうかは、具体的事案において、
といった外部的事情を考慮して決することになります。
この点について、参考となる判例として、以下のものがあります。
大審院判決(昭和19年2月8日)
この判例で、裁判官は、
と判示しました。
仙台高裁判決(昭和40年2月19日)
この判例で、裁判官は、
- 強盗罪の成立に必要な暴行または脅迫は、犯行の時刻、場所その他の周囲の情況や被害者の年齢、性別その他、精神上、体力上の関係、犯人の態度、犯行の方法などを客観的に観察し、その暴行または脅迫が社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであるかどうかという客観的標準によって決定すべきものである
- 具体的事案における被害者の主観を基準として決すべきものでないことはもとより、被害者が犯人の暴行または脅迫により、その精神および身体の自由を完全に制圧されたことを必要としないものと解すべきである
と判示しました。
強盗に伴って行われた暴行・脅迫について、被害者の主観を考慮せず、外部的事情で客観的に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであったと認定した事例
強盗に伴って行われた暴行・脅迫について、被害者の主観を考慮せず、外部的事情で客観的に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであったと認定した事例として、以下の判例があります。
この判例は、知的障害者におもちゃの拳銃を突きっけた行為について、強盗未遂罪を認定しました。
この判例の考え方は、被害者の主観を考慮せず、抽象的・一般的にその場におかれたその年齢、性別等の被害者を予想して、その暴行・脅迫が、定型的にその被害者と同じ立場の者であれば、反抗を抑圧されると考えられる限り、具体的な反抗抑圧の状況や被害者の主観とは無関係に、強盗罪における暴行・脅迫があったとするものです。
例えば、視覚障害者に対して、無言で拳銃を突きつけて金品を要求した場合について、視覚障害者を健常者に置き換えて考えれば、健常者であれば、無言で拳銃を突きつけられて金品を要求されれば、当然に畏怖して反抗を抑圧されるので、強盗罪の成立を認めることができます。
被害者の主観を考慮しないものではない
強盗に伴って行われた暴行・脅迫が、被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであったかどうかの判断は、被害者の主観を基準とするのではなく、客観的基準によって決せられますが、被害者の主観を考慮しないことを意味するものではありません。
例えば、背後から拳銃を装って金属パイプを背中に突きつけて、金品を要求した場合のように、客観的には、反抗を抑圧するだけの脅迫ではないとしても、定型的に予定される被害者の主観に反映する限りでは、反抗を抑圧される場合であり、外部事情が、被害者の主観に反映される限り、反抗抑圧の程度に達していると認められます。
強盗の行為者の故意が、反抗の抑圧の有無に関係する
強盗に伴う暴行・脅迫が、被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであることを認定するに当たり、強盗の行為者の故意が、反抗抑圧の有無に関係することに注意する必要があります(故意がなければ犯罪が成立しないことにつき、前の記事参照)。
たとえば、上記設例において、行為者が相手を視覚障害者と知りながら無言で拳銃を突きつけたとしても、 行為者に相手を暴行・脅迫する故意があったことを認定できず、反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫の行為があったとは認定されないと考えられます。
逆に、定型的には反抗抑圧にいたらない程度の暴行・脅迫であっても、被害者が極めて臆病であり、通常の暴行・脅迫で反抗を抑圧されることを知っている行為者が、そのような暴行・脅迫に出て、相手の反抗を抑圧した場合には、強盗罪の暴行・脅迫があったと認定されると考えられます。
次回記事に続く
次回記事で続きを書きます。