刑法(親族相盗例)

親族相盗例(3) ~「親族相盗例を適用するためには、犯人と被害物件の所有者及び占有者の双方との間に親族関係を要する」を説明

 前回の記事の続きです。

親族相盗例を適用するためには、犯人と被害物件の所有者及び占有者の双方との間に親族関係を要する

 親族相盗例(刑法244条)の親族関係は、

犯人と被害者との間に存在すること

が必要です。

 ここで問題になるのが、

  • 被害物件の「所有者」と「占有者」が異なる場合に、被害物件の「所有者」と「占有者」の双方との間に親族関係が存在することが必要か?
  • そのいずれか一方との間に存することで足りるか?

ということです。

 学説としては、

  1. 犯人と被害物件の「所有者」との間に親族関係があれば足り、占有者との関係を問わないとする説
  2. 「占有者」との間に親族関係がなければならないが、「所有者」との関係を問わないとする説
  3. 「所有者」及び「占有者」の双方との間に親族関係がなければならないとする説

があり、

③説が通説

となっています。

 その理由は、「法律は家庭に立ち入らない」という思想を根拠とし、あるいは、所有権も、本権に基づく占有もいずれも窃盗罪の保護法益であるからとされています。

 判例も③説の立場を採り、親族相盗例(刑法244条)を適用するためには、犯人と被害物件の所有者及び占有者の双方との間に親族関係を要するとしています。

大審院判決(明治43年6月7日)

 親族以外の者が占有する親族の所有物を窃取した事案で、親族相盗例(刑法244条)の適用を否定した事例です。

 裁判所は、

  • 刑法第244条第1項に掲げたる刑の免除その他の特典は、単に同条所定の親族相互の間に行われたる窃盗の罪についてならては適用せらるべきものにあらざれば、従って犯人の窃取せし財物がよし(※たとえ)その親族の所有に属すとするも、窃取の行為が既に親族以外の者においてその利益のためにこれを占有しいる場合に行われたるものなるにおいては、これに対し、もはや該条項を適用すべきものにあらずして普通窃盗に対する罰条たる同法第235条を適用すべきものなること多言を俟たず

と判示し、刑法244条の適用を否定しました。

大審院判決(昭和12年4月8日)

 親族が占有する親族以外の者の所有物を窃取した事案です。

 裁判所は、

  • 普通窃盗の罪は、他人の占有に属する他人の所有物に対してその占有及び所有権を侵害するにより成立するものにして、刑法第244条第1項は単に同条項所定の親族又は家族相互の間のみに行われたる窃盗罪につき適用せられるべきものなるをおって、苟もそのものにして犯人の親族又は家族に非ざる者の所有なるにおいては、たとえ犯人の親族又は家族の占有に属するときといえども、これに対しては同条項を適用すべきものにあらず

と判示し、 刑法244条の適用を否定しました。

最高裁決定(平成6年7月19日)

 犯人と親族関係のない者(会社)が所有し、犯人と6親等の血族の関係にある者が占有保管する現金を窃盗した事案です。

 裁判所は、

  • 窃盗犯人が所有者以外の者の占有する財物を窃取した場合において、刑法244条1項が適用されるためには、同項所定の親族関係が、窃盗犯人と財物の占有者との間のみならず、所有者との間にも存することを要する

と判示しました。

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