刑法(親族相盗例)

親族相盗例(9) ~「親族相盗例(刑法244条2項)の親告罪の説明」を説明

 前回の記事の続きです。

親族相盗例(刑法244条2項)の親告罪の説明

 親族間の犯罪に関する特例(親族相盗例)は、刑法244条に規定があり、

1項 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する

2項 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない

3項 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない

と規定されます。

 親族相盗例の2項は、犯人と被害者の関係について、被害者が、「配偶者、直系血族及び同居の親族以外の親族」の場合は、検察官は被害者からの告訴がなければ公訴を提起することができない(事件を起訴することができない)とする規定です。

 検察官は被害者からの告訴がなければ公訴を提起することができない事件を「親告罪」といいます(親告罪の説明は前の記事参照)。

 「配偶者、直系血族又は同居の親族以外の親族」とは、具体的には、

  • 直系血族を除く6親等内の血族(例えば、自分の兄弟、叔父叔母:自分の父母の兄弟)
  • 3親等内の姻族(例えば、いとこ:自分の兄弟の子ども、配偶者の兄弟)

が該当します。

 したがって、例えば、窃盗の被害者が、犯人のいとこだった場合、その窃盗罪は親告罪となり、被害者である犯人のいとこの告訴がないかぎり、検察官は事件を起訴することができないということなります。

親族相盗例における告訴権者の裁判例

 親族相盗例が適用される窃盗罪の事案で、被害者である妻の財産に関する告訴権は、夫にはないとした裁判例があります。

 つまり、この場合、告訴は夫ではなく、妻が行わなければならないということになります。

札幌高裁判決(昭和28年8月24日)

 妻の財産に対する夫の告訴権について、裁判所は、

  • 憲法第24条は夫婦平等の原則を定め、新民法はこの夫婦平等主義の下に法定財産制としては完全なる別産制を採用し、夫の妻の財産に対する管理、使用収益権を廃し、各自それぞれの財産を管理、使用収益等の権利を有することとしたのであって、妻の財産に対しては特別の事情のない限り妻が自ら占有しているもので夫に独立の占有はなく、従って刑法第244条第1項後段の親族相盗の場合に妻の財産に関しては夫に告訴権はない

と判示しました。

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