刑法(総論)

刑法上の占有とは?① ~「占有の要件(実力行使の可能性・排他性)」「占有の意思」を判例などで解説~

占有とは?

1⃣ 占有とは、

人が財物を事実上支配し、管理する状態

をいいます。

 占有は、財物に対する

  1. 事実上の支配
  2. 占有の意思(支配の意思)

から構成されます(後ほど詳しく説明します)。

2⃣ なぜ、占有の概念が必要かというと、占有が

他人の財物を奪う犯罪を構成する要素(犯罪の成立要件)になる

からです。

 この犯罪を構成する要素のことを「構成要件要素」と呼びます。

 他人の財物を奪う犯罪は、窃盗罪、強盗罪、横領罪、占有離脱物横領罪、詐欺罪、恐喝罪などが該当します。

 他人の財物を奪う犯罪は、被害者が財物を占有している状態(支配し、管理している状態)があり、その財物の占有状態を犯人が侵害することで成立します。

 被害者が財物を占有している状態が前提にあることで、他人の財物を奪う犯罪は成立するのです。

占有の判例上の定義

 占有の定義について判示した以下の判例があり、この判例は現在においても指示されています。

最高裁判決(昭和32年11月8日)

 裁判所は、

  • 刑法上の占有は人が物を実力的に支配する関係であって、その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によって一様ではないが、必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものではなく、物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するをもって足りると解すべきである
  • しかして、その物がなお占有者の支配内にあるというを得るか否かは通常人ならば何人も首肯するであろうところの社会通念によって決するのほかはない

と判示しました。

① 「事実上の支配」の説明

1⃣ 占有は、

財物を事実上支配し、管理する状態

をいいます。

 「財物を事実上支配し、管理する状態」があるかどうかは、財物に対する

  1. 現実的な実力行使の可能性
  2. 排他性

の2点があるかどうかで判断されます。

 実力行使の可能性は、

  • 財物に対して、自分の力を行使できる状況

があれば獲得できます。

 排他性は、

  • 他人を物理的に財物に近づけないようにすること

   または、

  • 他人に財物の存在を気づかせないこと

ができる状況があれば獲得できます。

 これらをまとめて表現すると、刑法上の占有は、

  • 物が占有者の実力的な支配にあるか否か

で決せられます。

刑法上の占有の有無が「物が占有者の実力的な支配にあるか否か」で決せられる理由

1⃣ 刑法上の占有の有無が、物が占有者の実力的な支配にあるか否かで決せられるのは、

他人が実力的に支配している物とそうでない物とでは、

  • その物を領得する難易度
  • 反対動機形成の心理的ハードル

に差があり、その差が

  • 違法性の差
  • 非難可能性の差

に結び付くこと

が理由として挙げられます。

※ 反対動機形成とは?

 ある行為を行おうとした際に、その行為が「ルールに反している」「危険だ」と認識し、行為を思いとどまる心理的な動きを指します。

 刑法においては、特定の犯罪行為の「反対動機」を形成できる状況でありながらも、それにもかかわらず行為を実行した場合に、法的な責任が問われます。

※ 非難可能性とは?

 非難可能性とは、行為者の違法行為に対して、行為者を非難できる(処罰の対象とできる)性質のことです。

 刑事責任を問うためには、単に違法な行為があっただけでなく、その行為者が責任を負うべきであると非難できることが必要であり、この非難の根拠となるのが非難可能性です。

2⃣ 具体的には、たとえば、

  • 他人が所持している財布を盗む行為は窃盗罪(刑法235条法定刑:10年以下の拘禁刑)であり、その難易度と違法性・非難可能性は高い
  • 他人が路上に落とした財布(遺失物)を領得する行為は遺失物横領罪(刑法254条法定刑:1年以下の拘禁刑)であり、その難易度と違法性・非難可能性は窃盗罪よりも低い

となり、行為の難易度と違法性・非難可能性の差が、法定刑の差(窃盗罪は10年以下と重い、遺失物横領罪は1年以下と軽い)に反映されていることが分かります。

 このことは、犯人に対して適正な処罰を与えるために、「物が占有者の実力的な支配にあるか否か」を明確にし、領得した物に対する被害者の占有かあった否かを区別する必要があることを意味します。

 このことから、領得罪を処罰するにあたっては、刑法上の占有の有無(物が占有者の実力的な支配にあるか否か)を明らかにする必要性が生じます。

②「占有の意思」の説明

 占有は、客観的に財物を支配し、管理している事実があっても、

  • 占有の意思

がなければ、財物を占有していると認定されません。

 占有の意思とは、

  • 財物に対する事実上の支配をする意思

をいいます。

 占有の意思は、必ずしも個々の財物に対する特定的・具体的意思であることを要せず、時間的・包括的なもので足ります。

 なので、たとえば、自宅内に存在する財物については、その存在を知らなくても、また、不在のときであっても占有の意思が認められます。

 判例上でも、倉庫の管理者は、その存在や数量を知らなくても、倉庫内に納められた物品については、これを占有する意思を有していると判断されています(東京高裁判例 昭和31年5月29日)。

占有の意思が認められる要件

 占有の意思は、

  • 明確で積極的な意志であることを要せず、
  • その財物の占有を積極的に放棄する意志がうかがえない限り、

占有の意思が認められます。

 たとえば、他の仕事に熱中している場合や、睡眠中のように、財物の存在自体を忘れているときであっても、占有の意思が認められます。

 ただし、占有の意思は、

  • 支配の事実が弱いとき

については、

  • 具体的・積極的な占有の意思

があって初めて占有ありとされます。

まとめ

 占有とは、

人が財物を事実上支配し、管理する状態

をいいます。

 占有ありというためには、

その人の財物に対して、事実上の支配

が認められなければなりません。

 事実上の支配は、

  1. 客観化としての支配の事実
  2. 占有の意思

の2つの要素があることで成立します。

 実際に、占有があるかどうかを判断する場合は、

財物に対する支配の事実を表す諸事情を総合的に評価し、社会通念または一般慣習によって判断する

ことになります。

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