刑法(総論)

刑法上の占有とは?① ~「占有の要件(実力行使の可能性・排他性)」「占有の意思」を判例などで解説~

占有とは?

 占有とは、

人が財物を事実上支配し、管理する状態

をいいます。

 占有は、

「事実上の支配」と「支配の意思」

から構成されます。

 なぜ、占有の概念が必要かというと、占有が

他人の財物を奪う犯罪を構成する要素(犯罪の成立要件)になる

からです。

※ ちなにみ、この犯罪を構成する要素のことを「構成要件要素」と呼びます。

※ 他人の財物を奪う犯罪は、窃盗罪、強盗罪、横領罪、占有離脱物横領罪、詐欺罪、恐喝罪が該当します。

 具体的には、他人の財物を奪う犯罪は、被害者が財物を占有している状態(支配し、管理している状態)があり、その財物の占有状態を犯人が侵害することで成立します。

 被害者が財物を占有している状態が前提にあることで、他人の財物を奪う犯罪は成立するのです。

占有の要件

 占有は、

財物を事実上支配し、管理する状態

をいいますが、財物を事実上支配し、管理する状態があるかどうかは、財物に対する

  1. 現実的な実力行使の可能性
  2. 排他性

の2点があるかどうかで判断されます。

 実力行使の可能性は、

財物に対して、自分の力を行使できる状況

があれば獲得できます。

 排他性は、

  • 他人を物理的に財物に近づけないようにすること
  • または、他人に財物の存在を気づかせないこと

ができる状況があれば獲得できます。

占有の意思

 占有は、客観的に財物を支配し、管理している事実があっても、

占有の意思

がなければ、財物を占有していると認定されません。

 占有の意思とは、

財物に対する事実上の支配をする意思

をいいます。

 占有の意思は、必ずしも個々の財物に対する特定的・具体的意思であることを要せず、時間的・包括的なもので足ります。

 なので、たとえば、自宅内に存在する財物については、その存在を知らなくても、また、不在のときであっても占有の意思が認められます。

 判例上でも、倉庫の管理者は、その存在や数量を知らなくても、倉庫内に納められた物品については、これを占有する意思を有していると判断されています(東京高裁判例 昭和31年5月29日)。

占有の意思が認められる要件

 占有の意思は、

明確で積極的な意志であることを要せず、

その財物の占有を積極的に放棄する意志がうかがえない限り、

占有の意思が認められます。

 たとえば、他の仕事に熱中している場合や、睡眠中のように、財物の存在自体を忘れているときであっても、占有の意思が認められます。

 ただし、占有の意思は、

支配の事実が弱いとき

については、

具体的・積極的な占有の意思

があって初めて占有ありとされます。

判例の見解

 判例上は、占有が認められる要件について、以下のように判示しています。

 最高裁判例(昭和32年11月8日)

  • 刑法上の占有は、人が物を実力的に支配する関係である
  • その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によって一様ではないが、必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものではなく、物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するをもって足りる
  • しかして、その物がなお占有者の支配内にあるというを得るか否かは通常人ならば何人も首肯するであろうところの社会通念によって決するのほかはない

まとめ

 占有とは、

人が財物を事実上支配し、管理する状態

をいいます。

 占有ありというためには、

その人の財物に対して、事実上の支配

が認められなければなりません。

 事実上の支配は、

  1. 客観化としての支配の事実
  2. 占有の意思

の2つの要素があることで成立します。

 実際に、占有があるかどうかを判断する場合は、

財物に対する支配の事実を表す諸事情を総合的に評価し、社会通念または一般慣習によって判断する

ことになります。

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