裁判所の種類

 検察官が裁判所に起訴した事件の公判手続(事件の審理裁判)を行うのは、裁判所です。

 裁判所には、

  1. 最高裁判所
  2. 高等裁判所
  3. 地方裁判所
  4. 簡易裁判所

の4種類があります(裁判所法1条、2条)。

裁判所の管轄

 裁判所が、検察官が起訴した事件の裁判を行うには、その事件について

管轄権

を有している必要があります。

 管轄(かんかつ)とは、

裁判所間における裁判を行う権限の分配

をいいます。

 管轄は、裁判所の負担の公平、審理の難易、被告人の裁判所への出頭の難易などを考慮して定められます。

 裁判所間でどのように管轄を分けるかは、

  1. 審級管轄
  2. 事物管轄
  3. 土地管轄

の3つの区分によって決められます。

 以下でこの3つの区分について説明します。

 なお、検察官が事件を管轄権がない裁判所に起訴した場合、裁判所は起訴された事件の審理を行うことができないルールになっており、この場合、裁判官は判決で管轄違いの言渡しをして裁判を打ち切る判断をします(刑訴法329条)。

① 審級管轄

 審級管轄とは、

裁判所の上下関係(最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所)における裁判権の分配

をいいます。

 上下関係は、上から最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所の順番になります。

 最高裁判所は、

を取り扱います。

 高等裁判所は、

を取り扱います。

 地方裁判所は、

(※ ただし、罰金以下の刑に当たる罪は、簡易裁判所の専属管轄であるため、地裁では審理できない)

を取り扱います。

 簡易裁判所は、

で、以下の①~⑤の罪に限る事件を取り扱います。

  1. 罰金以下の刑に当たる罪(法定刑が罰金、拘留、科料のみである罪:例えば、過失傷害罪刑法209条)の法定刑は30万円以下の罰金又は科料であり、罰金以下の刑に当たる)
  2. 選択刑として罰金が定められている罪(例えば、窃盗罪刑法235条)は、懲役10年又は罰金50万円以下の罰金につき選択刑として罰金が定められている罪に当たる)
  3. 常習賭博罪、賭博場開張等図利罪(刑法186条
  4. 横領罪刑法252条
  5. 盗品等に関する罪刑法256条

【補足説明】

「①罰金以下の刑に当たる罪」とは、刑の重さが罰金拘留科料に限る罪をいいます。

 例えば、

が該当します。

 また、

は罰金以下の刑が多く存在する法です。

② 事物管轄

 事物管轄とは、

事件の軽重・性質による第一審の裁判権の分配

をいいます。

 第一審の裁判権は、地方裁判所と簡易裁判所が持っています。

(ちなにみ、第二審控訴審)の裁判権は高等裁判所、第三審上告審)の裁判権は最高裁判所が持ちます)

簡易裁判所の裁判権の分配

 事件の軽重・性質を勘案して、地方裁判所と簡易裁判所の裁判権の分配は、以下のように分配されます。

 簡易裁判所は、

1⃣ 罰金以下の刑に当たる罪

2⃣ 選択刑として罰金が定められている罪

3⃣ 常習賭博罪、賭博場開張等図利罪(刑法186条

4⃣ 横領罪(刑法252条

5⃣ 盗品等に関する罪(刑法256条

の罪の事件について事物管轄があります(裁判所法33条1項2号)(この点は先ほどの説明と同様)。

 簡易裁判所は、「②選択刑として罰金が定められている罪」については、原則として、罰金刑しか科すことはできません

 ただし、以下の①~⑨罪については、3年以下の拘禁刑を科すことができます(裁判所法33条2項)。

  1. 住居侵人罪、住居侵入未遂罪(刑法130条
  2. 常習賭博罪、賭博場開張等図利罪(刑法186条
  3. 窃盗罪、窃盗未遂罪(刑法235条
  4. 横領罪(刑法252条
  5. 遺失物横領罪(刑法254条
  6. 盗品等譲受け等罪(刑法256条
  7. 古物営業法31条~33条の罪
  8. 質屋営業法30~32条の罪
  9. 上記①~⑧の罪と他の罪との間に科刑上一罪の関係にあって、これらの罪の刑をもって処断すべき事件

 「①罰金以下の刑に当たる罪」は、簡易裁判所の専属管轄です。

 言い換えると、地方裁判所は、「1⃣ 罰金以下の刑に当たる罪」を審理できません。

 検察官が地方裁判所に「1⃣ 罰金以下の刑に当たる罪」の事件を起訴した場合、管轄違いの判決が言い渡され、審理が打ち切られます。

地方裁判所の裁判権の分配

 地方裁判所の裁判権の分配(事物管轄)の考え方は、

  • 簡易裁判所の専属管轄に属している事件
  • 高等裁判所の特別権限に属する事件(内乱罪に関する罪(刑法77条78条79条))

以外の全ての事件について事物管轄があると考えればよいです(裁判所法24条2項)。

 また、地方裁判所の専属管轄の事件(第一審を簡易裁判所で扱うことができず、地方裁判所で扱わなければならない事件)があり、それは、

です(同法律7条)。

【補足説明】内乱罪に関する罪について

 内乱罪に関する罪については、高等裁判所が第一審の事物管轄を持っており、地方裁判所は扱うことができません(裁判所法16条4項)。

 内乱罪に関する罪を法は、高等裁判所の「特別権限に属する事件」と呼んでいます(刑訴法3条2項5条2項330条)。

 内乱罪に関する罪は、高等裁判所の専属管轄となります。

③ 土地管轄

 土地管轄とは、

事件の土地的関係による第一審の裁判権の分配

をいいます。

 例えば、事件の犯罪地が東京であれば、東京地方裁判所は、その事件の土地管轄があるとなります。

 例えば、事件の犯罪地、被告人の所在地、事件関係者の所在地も大阪であり、事件に関係する土地が大阪しかない場合、東京地方裁判所は、その事件についての土地管轄なしとなります。

 土地管轄がない裁判所に検察官が事件を起訴した場合、管轄違いの判決が言い渡され、審理が打ち切られる場合があります。

 ただし、この場合でも、被告人が土地管轄がないことに異議がない場合は、管轄違いの判決は言い渡されず、そのまま審理が行われます(この点の説明は別の記事参照)。

土地管轄の具体的な考え方

 第一審の裁判権を有する地方裁判所、簡易裁判所、内乱罪に限って高等裁判所は、その事物管轄を有する事件であっても、その事件について、更に土地管轄がなければ刑事裁判権を行使することができません。

 そして、裁判所に土地管轄があるといえるためには、その裁判所の管轄区域内に次のいずれかがある必要があります(刑訴法2条)。

(なお、裁判所の管轄区域は、下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律で定められています)

① 犯罪地

 犯罪地とは、犯罪事実の全部又は一部が発生した土地をいいます。

 犯罪を実行した場所、共謀の場所、犯罪行為の経過地、犯罪の結果の発生地の全てを含みます。

② 被告人の住所

 住所は、生活の本拠地(民法22条)をいいます。

③ 被告人の居所

 居所は、多少の期間継続して居住しているが、生活の本拠地とはなっていない地をいいます。

④ 被告人の現在地

 現在地は、被告人が任意又は逮捕・勾留などによって現在する地域をいいます(最高裁決定 昭和32年4月30日)。

 例えば、検察官の呼出しを受けて任意に出頭した場所は、被告人の現在地に当たります(最高裁判決 昭和33年5月24日)。

 例えば、被告人が逮捕・勾留されて、東京都の中央警察署に留置されているのであれば、被告人の現在地は、東京都中央区になります。

⑤ 国外にある日本船舶内で犯した罪については、上記①~④のほか、その船舶の船籍の所在地又は犯罪後の寄泊

⑥ 国外にある日本航空機内で犯した罪については、上記①~④のほか、その航空機の犯罪後の着陸(着水を含む)した地

【補足説明】地方裁判所(本庁)と地方裁判所支部間における土地管轄の考え方

 地方裁判所(本庁)と地方裁判所支部の土地管轄の関係について説明します。

 地方裁判所支部は、その地方裁判所(本庁)の一部であるという考え方が採られます。

 裁判例(東京高裁判決 昭和27年4月24日)は、地方裁判所の本庁の支部との間においては、同一裁判所内での事務分配の問題に過ぎず、土地管轄の問題は生じないことを判示しています。

 東京地方裁判所と東京地方裁判所立川支部の関係を例にして説明します。

 東京地方裁判所は東京都内全域を管轄する(東京都内全域の土地管轄がある)ので、東京都内であれば、どこで起こった事件でも、検察官は、土地管轄ありとして、東京地方裁判所に事件を起訴することができます。

 このとき、検察官は、東京地方裁判所ではなく、東京地方裁判所の支部である東京地方裁判所立川支部に事件を起訴することもでき、その起訴は、土地管轄の観点からは問題なしとなります。

 なぜならば、東京地方裁判所立川支部は、東京地方裁判所(本庁)の一部であるので、東京地方裁判所立川支部も東京都内全域に土地管轄があるという考え方になるためです。

関連事件による管轄

 上記のように、裁判所の管轄権は、審級管轄、事物管轄、土地管轄の区分で定められています。

 管轄が全くない事件(審級管轄、事物管轄、土地管轄もない)だが、裁判所に既に起訴されている事件の関連事件である場合は、管轄が全くなくても、その裁判所に事件を起訴して審理することができます。

 どのような事件が関連事件になるかについては、刑訴法9条で定められており、

  • 1人が数罪を犯したとき
  • 数人が共に同一又は別個の罪を犯したとき
  • 数人が通謀して各別に罪を犯したとき

の場合に関連するものとされます。

 さらに、刑訴法9条2項において、

  1. 犯人蔵匿罪刑法103条
  2. 証拠隠滅罪刑法104条
  3. 偽証罪刑法169条
  4. 虚偽の鑑定通訳の罪(刑法171条
  5. 盗品等に関する罪刑法256条

とその本犯の罪とは、共に犯したものとみなすとし、①~④の罪を犯した被告人の事件と①~④の罪の元になった別の被告人の事件は、関連事件として同一の裁判で審理することができます。

裁判所に管轄はないが、関連事件であれば審理できることを定めた法

 関連事件であれば、本来管轄を有しない裁判所においても、その関連事件を併合して審判することができることを定めた法として、以下のものがあります。

① 事物管轄を異にする数個の事件が関連するときは、上級の裁判所は、併せてこれを管轄することができる(刑訴法3条1項)。

 高等裁判所の特別権限に属する事件(内乱罪)と他の事件が関連するときは、高等裁判所は、併せてこれを管轄することができる(刑訴法3条2項)。

② 数個の関連事件が各別に上級、下級の裁判所に係属するときは、事物管轄にかかわらず、上級の裁判所は、決定で下級の裁判所の管轄に属する事件を併せて審判することができる(刑訴法5条1項)。

 高等裁判所の特別権限に属する事件と関連する事件が下級の裁判所に係属するときについても同様である(刑訴法5条2項)。

③ 土地管轄を異にする数個の事件が関連するときは、1個の事件について管轄権を有する裁判所は、併せて他の事件を管轄することができる(刑訴法6条)。

④ 数個の関連事件が各別に事物管轄を同じくする数個の裁判所に係属するときは、それぞれの裁判所は、土地管轄を有しない事件についても、検察官又は被告人の請求により、これを併合して審判することができる(刑訴法8条1項)。

 この場合において、各裁判所の決定が一致しないときは、各裁判所に共通する直近上級の裁判所は、検察官又は被告人の請求により、決定で事件を一つの裁判所に併合することができる(刑訴法8条2項)。

刑訴法9条の関連事件は管轄が全くない事件を併合する規定であり、管轄がある事件を併合する規定は刑訴法313条である

 上記の刑訴法9条の関連事件の併合は、管轄が全くない事件(審級管轄、事物管轄、土地管轄もない事件)を関連事件として併合する規定であり、管轄が一つでもある事件を併合する場合の規定は刑訴法313条となります。

 例えば、同一の裁判所において、本来管轄権を有する数個の事件が別々に係属している場合、これを併合して審理する場合、刑訴法313条の規定に基づく事件の併合を行います。

 刑訴法9条の関連事件の関係が存在せず、刑訴法9条に基づく併合ができなくても、管轄がある複数の事件であれば、刑訴法313条に基づいた併合ができるのであり、訴訟手続に違反はないことと判示した判例(最高裁決定 昭和37年10月2日)があります。

管轄裁判所が定まらない場合の管轄指定の請求

 裁判所の管轄区域が明らかでないため管轄裁判所が定まらない事件、又は管轄裁判所がない事件があた場合は、検察官は、裁判所に対し、管轄指定の請求を行い、事件に裁判所の管轄を付与してもらうことになります(刑訴法15条16条)。

管轄裁判所で審判することが不適当である場合の管轄移転の請求

 管轄裁判所で審判することについて不適当な事由があるときは、検察官は、裁判所に対し、管轄移転の請求をすることができます(刑訴法17条18条)。

 「不適当な事由がある」とは、例えば、裁判官や裁判所職員が事件の被害者であったり、証人になる場合が該当します。

 この点につき、『裁判所及び裁判官が被害者であるとの一事をもって直ちに刑訴法17条1項2号にいう「裁判の公平を維持することができないおそれがある」ということはできない』と判示した判例(最高裁決定 昭和52年6月17日)があり、この判例は、管轄移転の請求が認められるか否かの考え方の参考になります。

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