刑事訴訟法(捜査)

準現行犯逮捕とは? ~「準現行犯逮捕の要件」などを解説~

 前回の記事の続きです。

準現行犯逮捕とは?

 準現行犯人は、刑訴法212条2項に規定があり、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる者で、

  1. 犯人として追呼されているとき(刑訴法212条2項1号)
  2. 贓物ぞうぶつ又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき(刑訴法212条2項2号)
  3. 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき(刑訴法212条2項3号)
  4. 誰何すいかされて逃走しようとするとき(刑訴法212条2項4号)

のいずれかに当たる者をいいます。

 準現行犯人は、現行犯人と同一視でき、現行犯逮捕することができます。

 そして、準現行犯人を逮捕することを「準現行犯逮捕」といいます。

「罪を行い終ってから間がない」とは?

 準現行犯逮捕が成立するためには、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる必要があります。

 では、どの程度の時間的間隔であれば、罪を行い終わってから間もないと判断されるでしょうか?

 この点については、以下の最高裁判例(平成8年1月29日)が指針になります。

【事案の概要】

 凶器準備集合、傷害の犯行現場から直線距離で約4キロメートル離れた派出所で勤務していた警察官が、無線情報を受けて逃走犯人を警戒していた。

 犯行終了後、約1時間を経過したころで、犯人が通りかかるのを見つけた。

 犯人の挙動や、小雨の中で傘もささずに着衣をぬらし、靴も泥で汚れている様子を見て、職務質問のため停止するよう求めた。

 すると、犯人が逃げ出したので、約300メートル追跡して追い付き、その際、犯人が腕に防具を装着しているのを認めたなどの事情があったため、犯人を本件犯行の準現行犯人として逮捕した。

【争点】

 準現行犯逮捕が成立するか否か

【裁判所の判断】

 裁判所は、

  • 本件準現行犯逮捕は、刑訴212条2項2号ないし4号に当たる者が罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる
  • 本件準現行犯逮捕は適法

と判断しました。

 なお、裁判例の傾向として、時間的接着性はおおむね2時間~3時間程度、その時間に対応した場所的な近接性は約4キロメートル程度の事例につき準現行犯逮捕を肯定しているとされます。

『犯人として追呼されているとき』(刑訴法212条2項1号)とは?

1⃣ 追呼(ついこ)とは、犯人を追跡し、または、呼称している状況をいいます。

 たとえば、逃走中の犯人を追跡していた人が、

「そいつは窃盗犯だ!捕まえてくれ!」

と叫んだので、それを聞いた近くの人が犯人を逮捕した場合は、準現行犯逮捕が成立する場合があります。

2⃣ 追呼は、声を出して追っていることは必要でなく、無言での追跡や犯行現場での監視(最高裁決定 昭和39年10月27日)も該当します。

 追跡の主体は被害者に限られず、目撃者などの第三者でもよいです。

3⃣ 追跡の方法には自動車による追跡が含まれます。

 また、犯罪終了後継続して追呼されていることを要しますが一時見失った後(見失った時間の長さ、犯人と他者とを誤認させる事情の介在の有無がない場合)、間もなく発見して追呼した場合でもよいされます。

 この点に関する以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和46年10月27日)

 刑訴法212条2項1号にいう「犯人として追呼されているとき」にあたるとされた事例です。

 裁判所は、

  • 被告人を逮捕したBは、警視庁蔵前警察署清島町派出所において警視庁通信指令室からの前記指令を受け、同所前において警戒中、右指令を受けてから約5、6分経過後右指令の内容と同一の車種および車体登録番号のタクシーを発見したため同タクシーに停車を求め、同車から降りてきた被告人に対して職務質問し、右指令どおり犯罪事実がまちがいないことを確認し、なお、同車の後方から出て来た若い男も被告人が事件の犯人である旨述べたので、同所において被告人を準現行犯として逮捕したことが認められ、同巡査は右の若い男の言葉から、刑事訴訟法212条2項1号の要件があると判断したことが認められるが、右認定の状況からは同号の要件があったと解することはできない、とし、所論説示に及ぶわけであるが、上叙若い男というのはBによれば、「現認していた人の車がついて来ていたのです、若い二人連れだと思うのですが」であり、「追跡してきた人が被告人が犯人であるというようなことを言い、ああそうかと思っているときにパトカーが来たのです」という追跡者に当り、被告人の原審公判廷における供述の趣旨によれば、「傷害現場で車が追いかけて来たが、それは被害者が離れたとき横に来ていた車の中から停止するようにわめいていた、私は警察に行って話した方が早く済むと思ったのでまいて上野警察に行こうと思った、警察に行くと大声をあげて車にかぐれた」時の追跡車の者と認められ、更に被告人の司法警察員に対する供述調書中の「男がはなれた瞬間、路上に転倒するのを見ましたが、そのとき白っぽい乗用車が追いかけてきていたので、私はそのまま走り続け…その間私は追せきしてきた乗用車をまくつもりでしたから時速6、70キロで走りつづけましたが約1.5キロぐらいも逃走したころ道路の右角に交番がありましたので、その前を右折し交番の前に車を止めました」という追跡車の人に該当する者と認められるのであって、現行犯人逮捕手続書はこれを受けて「…手配類似車第足立〇〇号を発見し停止を命じ、同車を停止させたら28才位のこげ茶の背広を着た男の人が後方から車両で追跡して来て「この車は上野駅の近くで乗車拒否をして、運送申込者を車で引ずり怪我をさせた車で、この運転手は、その時この車を運転していた人に間違いありません。私はその場所からこの車を自動車で追跡して来ました」と本職に説明したので、本職は被疑者に対し間違いないかと尋ねるとそのとおり私がやりましたと自供したので傷害並びに道路運送法違反現行犯人と認めた」と記載されているのである
  • してみれば、本件現行犯人逮捕手続は刑事訴訟法212条2項1号にいう、犯人として追呼されているとき、に該当すると認めるのが相当である

と判示しました。

『贓物又は明らかに犯行の用に供したと思われるもの兇器その他の物を所持しているとき』(刑訴法212条2項2号)とは?

1⃣ 贓物(ぞうぶつ)とは、窃盗などの財産犯によって得られた物をいいます(それ以外のは犯罪によって得られたものは贓物に含まれません)。

 たとえば、警察官が、盗品と疑われる物を所持した犯人を追跡して声をかけ、犯人が

「これは盗んだ物です」

と自供したところで逮捕すれば、準現行犯逮捕が成立する場合があります。

2⃣ 凶器やその他の物(犯罪と犯人を結び付ける物など)を所持する犯人も、贓物と同様に、準現行犯逮捕が成立する場合があります。

 「凶器」とは、人を殺傷し得る物をいいます。

 手拭いなどのように、その用い方によっては人を殺傷し得る物であっても社会通念上危険を感ぜしめないような物は凶器ではありません。

 「その他の物」とは、贓物や凶器以外の物であって、これらの物と同様に犯罪と犯人とを結び付ける物をいいます。

 犯罪を組成した物、犯罪から生じる物、犯罪から得た物などがこれに含まれると解されており、例えば、

  • 犯人が持っていた窃盗をして得たバッグなどの被害品

が「その他の物」として挙げられます。

3⃣ これらの「贓物」「凶器」「その他の物」は、準現行犯人と認めたときに所持していればよく、逮捕の瞬間に所持している必要はありません(最高裁判決 昭和30年12月16日)。

 例えば、犯人が凶器を所持しており、準現行犯人と認めて逮捕しようとしたところ、犯人がその凶器を投げ捨てて逃走し、逮捕時には凶器を所持していない状態でも準現行犯逮捕することが認められます。 

『身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき』(刑訴法212条2項3号)とは?

1⃣ たとえば、服に血がついていて、逃走中の殺人犯であることが推認できる場合は、犯人を準現行犯逮捕することができる場合があります。

 「被服」には、被服に準ずる帽子や靴も含みます。

2⃣ 犯行が複数の犯人によるものであって、しかも、その犯人らが同一の車両に乗って行動を共にしていたことが明らかな場合において、その一人のワイシャツに血痕が付着していたとは、その同乗者である他の被告人らについても「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき」に該当するとした裁判例があります(東京高裁判決 昭和62年4月16日)。

3⃣ 無免許、酒気帯び運転の際に引き起こした交通事故のため、自らも頭部にけがを負い、とりあえず救急車で病院に運ばれ、駆け付けた警察官が被告人に酒臭を感じたため、被告人が既に治療を終え帰宅してもよい状態であることの確認を医師から得た後、飲酒検知器により被告人の呼気を測定した結果、呼気1リットルにつき0. 35ミリグラムのアルコール量を検出し、更に、酒酔い鑑識カードに基づき被告人に対して質問等をした末、無免許、酒気帯び運転から約52分経過した時点で、酒気帯び運転で逮捕し、この逮捕が刑訴法212条2項3号の準現行犯逮捕に該当するとした裁判例があります(名古屋高裁判決 平成元年1月18日)。

 裁判所は、

  • 所論(※弁護人の主張)は、要するに、被告人は、原判示第二の犯行のうちの酒気帯び運転のかどで、右酒気帯び運転から約52分経過した後に、右酒気帯び運転の場所から離れたH総合病院において、右酒気帯び運転を直接現認したわけではない警察官によって現行犯逮捕されたものであるが、これが現行犯逮捕の要件に欠けることは明らかであり、しかも、被告人は、右現行犯逮捕されるに当たり、「酒気帯び運転の被疑者として逮捕する。」と告げられたのみで、被疑事実の要旨を告げられてはいないから、いずれにしても、被告人に対する右現行犯逮捕の手続には違法があり、したがって、右違法な現行犯逮捕による身柄拘束中に作成された被告人の司法警察員に対する昭和62年6月3日付け供述調書(12枚つづりのもの)やこれに基づき作成された被告人の検 察官に対する供述調書は、任意性に欠け、証拠能力を具備しないことになるから、右各供述調書の証拠調べをし、かつ、これらを原判示の各事実認定の用に供した原裁判所の措置には、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある、というのである
  • しかしながら、所論にかんがみ、記録を調査して検討するに、被告人は、原判示第二の無免許、酒気帯び運転の際に引き起こした原判示第一の交通事故のため、自らも頭部にけがを負い、とりあえず救急車でH総合病院に運ばれたものであるところ、岐阜北警察署から交通事故の指令により右病院に駆け付けた警察官は、被告人から酒臭を感じたため、被告人が既に治療を終え帰宅してもよい状態であることの確認を医師から得た後、飲酒検知器により被告人の呼気を測定した結果、呼気1リットルにつき0.35ミリグラムのアルコール量を検出し、更に、酒酔い鑑識カードに基づき被告人に対して質問等をした末、所論指摘のとおり、右無免許、酒気帯び運転から約52分経過した時点で、「酒気帯び運転の被疑者として逮捕する。」と告げたうえで被告人を右無免許、酒気帯ひ運転のうちの酒気帯び運転のかどで現行犯逮捕したことが認められるのであって、被告人が刑訴法212条2項3号にいう「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき」の準現行犯に該当することは明らかであり、また、右警察官が被告人を現行犯逮捕するに当たり「酒気帯び運転の被疑者として逮捕する。」と告げた措置も妥当であるのみならず、そもそも、現行犯逮捕の際には被疑者に犯罪事実の要旨等を告知する必要はないのであるから、被告人に対する右現行犯逮捕の手続には何ら違法、不当のかどはなく、したがって、所論指摘の被告人の司法警察員に対する昭和63年6月3日付け供述調書(12枚つづりのもの)や検察官に対する供述調書も何ら任意性に欠けるところがない
  • 結局、所論は前提を欠き、論旨は理由がない

と判示しました。

『誰何されて逃走しようとするとき』(刑訴法212条2項4号)とは?

1⃣ 誰何(すいか)とは、「人を呼び止めること」をいいます。

 たとえば、逃走中の犯人を捜索中に、犯人らしき者を発見したので、

「そこにいるのは誰だ?」

などと問いかけたときに、犯人らしき者が逃げ出したような場合が、『誰何(すいか)されて逃走しようとするとき』に該当します。

 このような場合に、犯人を追いかけて捕まえれば、準現行犯逮捕が成立する場合があります。

2⃣ 「誰何」とは、「誰か」と問うことは必ずしも必要ではりません。

 警察官が犯人と思われる者達を懐中電灯で照らし、同人らに向って警笛を鳴らしたのに対し、相手方がこれによって警察官と知って逃走しようとしたときは、口頭で「だれか」と問わないでも「誰何されて逃走しようとするとき」に該当するとした判例があります(最高裁決定 昭和42年9月13日)。

準現行犯逮捕の要件

1⃣ 準現行犯逮捕は、何人(なんぴと)でも無令状で犯人を逮捕することができます。

 これは、刑訴法212条2項1~4号に該当する者が罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる者(準現行犯人)は、「現行犯人」とみなされるので、刑訴法213条により何人でも無令状で逮捕することができるものです。

 そして、準現行犯逮捕も、現行犯逮捕と同様に、

  1. 犯罪と犯人の明白性
  2. 犯罪の現行性(現に犯罪を行っている者に対し)、犯行と逮捕の時間的接着性(現に犯罪を行い終わった者に対し)

が必要となります(この点の説明は現行犯逮捕とは?①の記事参照)。

 その上で、準現行犯逮捕は、刑訴法212条2項1~4号の要件とされていますが、各号の事由は、

  • 罪を行い終わってから間がないことを推認させる事情を類型化したもの

であり、

  • ①の「犯罪と犯人の明白性」を推認させる事情

という位置付けになります。

2⃣ また、準現行犯逮捕が認められるためには、

  1. 犯罪と犯人の明白性
  2. 犯罪の現行性(現に犯罪を行っている者に対し)、犯行と逮捕の時間的接着性(現に犯罪を行い終わった者に対し)

に加え、

  • 刑訴法212条2項1~4号の要件

を逮捕者が認識している必要があります。

準現行犯逮捕と現行犯逮捕の適用を間違えても違法な逮捕とはならない

 準現行犯(刑訴法212条2項)として逮捕すべきところ、現行犯(刑訴法212条1項)として逮捕した場合において、その逮捕は違法となるわけではありません。

 その理由として、

  • 刑訴法212条は、刑訴法213条によって何人でも逮捕状なくして逮捕できる犯人についてその範囲を定めたもので、現行犯人と準現行犯人との差に意味があるわけではないこと
  • 現行犯と準現行犯とを誤認して逮捕した場合も同一条文内での適用の齟齬なので、違法の問題は生じないこと

が挙げれらます。

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