刑法(強盗罪)

強盗罪(19) ~強盗利得罪(2項強盗)①「強盗利得罪(2項強盗)とは?」「財産上の利益とは?」を判例で解説~

 ここから数回にわたり、強盗利得罪(2項強盗)について説明します。

強盗利得罪(2項強盗)とは?

 強盗利得罪(2項強盗)とは、刑法236条2項の強盗罪です。

 刑法第236条は、

  1. 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する
  2. 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする

と規定します。

 1項強盗の客体(被害の対象)が、「他人の財物」という物理的な物であるのに対し、2項強盗は、「財産上の不法の利益」という物理的な物ではなく、無形の価値であることに違いがあります。

 2項強盗の例として、暴行・脅迫を加えて

  • タクシー料金の支払いを免れる
  • 無銭飲食をする
  • 債務弁済を免れる

などが挙げられます。

 2項強盗は、被害者に暴行・脅迫を加え、タクシー料金の支払いを免れる、無銭飲食をするなど、被害者に対し、代金請求の支払猶予や、債務免除の意思表示をさせるケースで成立する事案が多いです。

 代金請求の支払猶予や、債務免除の意思表示は、暴行・脅迫を加えられてなされたものなので、私法上、無効ないし取消し可能なものですが、無効ないし取消し可能なものであることが、2項強盗罪の成立を阻むということはありません。

 この点について、以下の判例が参考になります。

 この判例は、詐欺罪(2項詐欺)に関する判例ですが、考え方は2項強盗にも当てはまります。

大審院判決(明治42年11月15日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法246条第2項にいわゆる不法の利益を得、又は他人をしてこれを得せしむるとは、適法の理由なくして他人より財産上の利益を自己に取得するか、又は第三者をして、これを取得せしむるの義なり
  • 而して、その財産上の利益は、必ずしも法律上有効にこれを取得し、又は取得せしむることを要せず

と判示し、犯人が取得する財産上の利益は、法律上有効に取得するものである必要はないとしました。

 つまり、犯人が取得する財産上の利益が、法律上、有効でない(無効ないし取消し可能なもの)だったとしても、詐欺罪の成否に影響しないと判示したものです。

「財産上の利益」とは?

 刑法236条2項に記載される「財産上の利益」は、1項にいう財物以外の財産的利益を意味します。

 学説では、無体財産権特許権実用新案権意匠権商標権著作権など)も、暴行・脅迫を用いて取得すれば、2項強盗が成立すると解されています。

 財産上の利益の典型的なものは、民法上の債権ですが、それに限定されるものでなく、事実上の経済的利益を含みます。

 不動産を強奪した場合、不動産は財物とされないので、不動産の強奪は、2項強盗が成立します(詳しくは前の記事参照)。

次の記事

強盗利得罪(2項強盗)の記事一覧

強盗罪(19) ~強盗利得罪(2項強盗)①「強盗利得罪(2項強盗)とは?」「財産上の利益とは?」を判例で解説~

強盗罪(20) ~強盗利得罪(2項強盗)②「2項強盗を認めるに当たり、被害者による財産的処分行為は不要である」を判例で解説~

強盗罪(21) ~強盗利得罪(2項強盗)③「違法な財産上の利益に対しても2項強盗は成立する」「違法な利益に対して2項強盗の成立を否定した事例」を判例で解説~

強盗罪(22) ~強盗利得罪(2項強盗)④「2項強盗の『財産上の利益』は、財物と同視できる程度に具体的かつ現実的な財産的利益である必要がある」を判例で解説~

強盗罪(23) ~強盗利得罪(2項強盗)⑤「支払請求の一時延期を『財産上不法の利益』と認定し、2項強盗の成立を認めた事例」を判例で解説~

強盗罪(24) ~強盗利得罪(2項強盗)⑥「2項強盗殺人」を判例で解説~

強盗罪(1)~(42)の記事まとめ一覧