刑法(横領罪)

横領罪(45) ~横領行為の類型⑥「会社財産の支出による横領罪」を判例で解説~

 横領行為の類型は、

①売却、②二重売買(二重譲渡)、③贈与・交換、④担保供用、⑤債務の弁済への充当、⑥貸与、⑦会社財産の支出、⑧交換、⑨預金、預金の引出し・振替、⑩小切手の振出し・換金、⑪費消、⑫拐帯、⑬抑留、⑭着服、⑮搬出・帯出、⑯隠匿・毀棄、⑰共有物の占有者による独占

に分類できます。

 今回は、「⑦会社財産の支出」について説明します。

会社財産の支出による横領罪

 会社等の役員が、その経営や業務と何ら関連のない事項につき、自己のためにする趣旨で、管理している会社財産を支出するときは(業務上)横領罪を構成します。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

東京地裁判決(平成9年3月17日)

 学校法人である学園の理事長が、個人の資産としてハワイの不動産を購入するため、学園の金員を海外送金した行為について、業務上横領罪の成立を認めました。

千葉地裁判決(平成8年6月26日)

 出版社の社長が、コカイン等の薬物を購入する目的で、社長が保管する会社資金を海外に送金した行為について、業務上横領罪の成立を認めました。

会社の目的の範囲内での会社財産の支出は横領罪とならない

 会社役員が、保管する会社財産を、会社の目的の範囲内で会社のために支出する行為は、(業務上)横領罪や特別背任罪会社法960条)に該当しません。

 この点について、以下の判例があります。

大阪地裁判決(昭和33年5月15日)

 定款の目的に「証券投資」が記載されている株式会社において、社長が会社所有の現金及び株券を取引保証金に使用して、株式信用取引を行った結果、負債を生じ、これを補填するために、会社所有の現金及び株券等を証券会社に交付して横領したとの公訴事実につき、信用取引も会社目的の証券投資に含まれるものであり、社長の行為は会社の利益を図る目的に出た業務上の活動であって、業務上横領罪の犯意を欠くとし、業務上横領罪の成立を否定しました。

会社のためにするとの意識の下に会社財産を支出する行為は、不法領得の意思が否定され、横領罪が成立しないことがある

 専ら会社のためにするとの意識の下に会社財産を支出する行為は、不法領得の意思が否定され、横領罪が成立しないことがあります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

最高裁決定(平成13年11月5日)

 株式会社の取締役経理部長及び経理部次長が、自社の株式を買い占めた仕手集団に対抗する目的で、第三者に対し、その買占めを妨害するための裏工作を依頼した上、同社のため保管していた現金をその工作資金及び報酬等に充てるために支出した事案です。

 この裁判で、裁判官は、

  • 当該行為ないしその目的とするところが違法であるなどの理由から、委託者たる会社として行い得ないものであることは、行為者の不法領得の意思を推認させる1つの事情とはなり得る
  • しかし、行為の客観的性質の問題と行為者の主観の問題は、本来、別異のものであって、 たとえ商法その他の法令に違反する行為であっても、行為者の主観において、それを専ら会社のためにするとの意識の下に行うことは、あり得ないことではない
  • したがって、その行為が商法その他の法令に違反するという一事から、直ちに行為者の不法領得の意思を認めることはできないというべきである

と述べ、専ら会社のためにするとの意識の下に会社財産を支出する行為は、不法領得の意思が否定されることがあることを示唆しました。

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横領行為の類型の記事まとめ

横領罪(40) ~横領行為の類型①「横領行為としての『売却』」「仮装売買による横領罪の成否」「売却の意思表示をした時に横領罪は成立する」「不動産の売却に関する横領罪の成立時期」を判例で解説~

横領罪(41) ~横領行為の類型②「二重売買(二重譲渡)による横領罪」を判例で解説~

横領罪(42) ~横領行為の類型③「贈与・交換による横領罪」を判例で解説~

横領罪(43) ~横領行為の類型④「担保供用による横領罪」「質権・抵当権・譲渡担保権の設定による横領」を判例で解説~

横領罪(44) ~横領行為の類型⑤「債務の弁済への充当による横領罪」「貸与による横領罪」を判例で解説~

横領罪(45) ~横領行為の類型⑥「会社財産の支出による横領罪」を判例で解説~

横領罪(46) ~横領行為の類型⑦「交付による横領罪」を判例で解説~

横領罪(47) ~横領行為の類型⑧「委託金の預金、預金の引出し・振替による横領罪」を判例で解説~

横領罪(48) ~横領行為の類型⑨「小切手の振出し・換金による横領罪」を判例で解説~

横領罪(49) ~横領行為の類型⑩「消費による横領罪」「拐帯による横領罪」を判例で解説~

横領罪(50) ~横領行為の類型⑪「抑留による横領罪」「虚偽の事実を述べることで抑留行為となり、横領罪が成立する」「不作為による抑留」を判例で解説~

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横領罪(52) ~横領行為の類型⑬「隠匿・毀棄による横領罪」「共有物の占有者による独占による横領罪」を判例で解説~

横領罪(1)~(65)の記事まとめ一覧

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