横領行為の類型は、
①売却、②二重売買(二重譲渡)、③贈与・交換、④担保供用、⑤債務の弁済への充当、⑥貸与、⑦会社財産の支出、⑧交付、⑨預金、預金の引出し・振替、⑩小切手の振出し・換金、⑪費消、⑫拐帯、⑬抑留、⑭着服、⑮搬出・帯出、⑯隠匿・毀棄、⑰共有物の占有者による独占
に分類できます。
今回は、「⑯隠匿・毀棄」「⑰共有物の占有者による独占」について説明します。
隠匿・毀棄による横領罪
隠匿(いんとく)とは、「隠すこと」をいいます。
毀棄(きき)とは、「捨てること」をいいます。
委託物を廃棄すれば、毀棄による横領罪となります。
隠匿による横領罪については、以下の判例があります。
大審院判決(明治44年6月8日)
郵便局長代理として、一般郵便事務を取り扱っていた通信事務員が、保管していた他人名義の貯金通帳を郵便局内に隠匿した行為について、横領罪の成立を認めました。
大審院判決(大正2年12月16日)
市の助役が、不正工事の発覚をおそれ、自己の保管している市立小学校の工事設計図面を、共犯者をして市役所以外に帯出させ隠匿させた行為について、横領罪の成立を認めました。
大審院判決(大正8年6月7日)
他人の金銭を占有する者が、不正に領得する意思で、これを自宅内に隠匿した行為について、横領罪の成立を認めました。
大審院判決(昭和21年10月18日)
県農業会支部出張所主任が、自己のために処分する意図で、自己の管理する倉庫に保管する米を、その倉庫内の他の場所や、他の倉庫に移して隠匿した行為について、横領罪の成立を認めました。
経営危機に陥った会社の代表取締役が、会社の資産である現金15億2000万円につき、一部は自己や第三者のためにのみ使用し、その他はその後の事態の推移に応じて自己又は会社のために使おうとの意図で、母や親密な関係の女性らに依頼して隠匿した行為について、横領罪の成立を認めました。
共有物の占有者による独占による横領罪
共有物を占有する共有者の一人が、他の共有者を欺き、これを排除して、事後専ら自己の物として占有を継続する行為は、横領罪となります(大審院判決 大正8年3月31日)。
共有となる金銭を占有する共有者の一人が、他の共有者の承諾なしに費消する行為は、横領罪となります(最高裁決定 昭和43年5月23日)。
横領行為の類型の記事まとめ
横領罪(40) ~横領行為の類型①「横領行為としての『売却』」「仮装売買による横領罪の成否」「売却の意思表示をした時に横領罪は成立する」「不動産の売却に関する横領罪の成立時期」を判例で解説~
横領罪(41) ~横領行為の類型②「二重売買(二重譲渡)による横領罪」を判例で解説~
横領罪(42) ~横領行為の類型③「贈与・交換による横領罪」を判例で解説~
横領罪(43) ~横領行為の類型④「担保供用による横領罪」「質権・抵当権・譲渡担保権の設定による横領」を判例で解説~
横領罪(44) ~横領行為の類型⑤「債務の弁済への充当による横領罪」「貸与による横領罪」を判例で解説~
横領罪(45) ~横領行為の類型⑥「会社財産の支出による横領罪」を判例で解説~
横領罪(46) ~横領行為の類型⑦「交付による横領罪」を判例で解説~
横領罪(47) ~横領行為の類型⑧「委託金の預金、預金の引出し・振替による横領罪」を判例で解説~
横領罪(48) ~横領行為の類型⑨「小切手の振出し・換金による横領罪」を判例で解説~
横領罪(49) ~横領行為の類型⑩「消費による横領罪」「拐帯による横領罪」を判例で解説~
横領罪(50) ~横領行為の類型⑪「抑留による横領罪」「虚偽の事実を述べることで抑留行為となり、横領罪が成立する」「不作為による抑留」を判例で解説~
横領罪(51) ~横領行為の類型⑫「着服による横領罪」「搬出・帯出による横領罪」を判例で解説~
横領罪(52) ~横領行為の類型⑬「隠匿・毀棄による横領罪」「共有物の占有者による独占による横領罪」を判例で解説~