刑法(詐欺罪)

詐欺罪(77) ~「共同正犯(共犯)とは?」「詐欺罪の共同正犯」を判例で解説~

共同正犯(共犯)とは?

 共同正犯とは、

2人以上の行為者が共同して犯罪を犯した場合

をいいます。

 共同正犯は、共犯ともいいます。

 テレビ報道などでは、共犯という表現が使われるので、共犯という言い方の方が馴染みがあると思います。

 今回は、詐欺罪(刑法246条)について、どのような場合に共同正犯が認められ、またはどのような場合に共同正犯が認められないのかを理解するために、有名判例を紹介します。

詐欺罪の共同正犯が肯定された判例

大審院判決(明治43年2月3日)

 他人が詐欺取財のため偽造証書を行使して、確定判決もしくは支払命令に対する確定の執行命令を得て、これにより強制執行するに当たり、その情を知りながらこれに加担し、強制執行の上、財物を詐取した場合は、詐欺罪の共同正犯が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 他人が詐欺取得罪をなさんことを企て、偽造証書を行使して、確定判決もしくは支払命令に対する確定の執行命令を得たる上、進んで強制執行をなさんとするに当たり、その情を知りながら、これに加担し、執行上、財物を取得したる者は、詐欺取得罪の罪責を免るることを得ず

と判示ました。

大審院判決(明治44年11月20日)

 他人が詐欺行為をしていることを知り、その企図に賛同し資金を供給した場合、詐欺罪の共同正犯が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 詐欺の訴訟行為により裁判所を欺罔し、もって他人より財物を騙取せんとする犯罪にありては、訴訟当事者として自ら訴訟行為をなさざる者といえども、いやしくもその犯罪を共謀し、これが遂行に必要なる行為を分担するにおいては、当初より加担すると、途中より参加するとを問わず、詐欺罪の共同正犯をもって論ずべきものとす

と判示しました。

大審院判決(大正2年2年21日)

 詐欺賭博において見張りをした場合、詐欺罪の共同正犯が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 詐欺賭博の見張りをしたる行為は、すなわち詐欺罪を遂行するため妨害排除の行為を担当したるものにして犯罪の実行に関与したるにほかならず

と判示しました。

大審院判決(昭和11年5月29日)

 甲・乙が保険をつけた家屋を焼損し、保険金を詐取しようと共謀して、甲は放火を、乙は詐欺の各行為を分担実行した場合、詐欺罪の共同正犯が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 甲乙両名が、保険に付したる家屋を焼損して保険金を騙取せんことを共謀し、甲は放火の行為、乙は詐欺の行為を各分担実行したるときは、甲乙両名は、共に放火及び詐欺罪の両罪につき共同正犯者としてその責を負うべきものとす

と判示しました。

大審院判決(大正5年11月25日)

 甲又は乙が、丙と共謀の上、詐欺の実行行為を分担してこれに着手した以上、たとえ丙がした詐欺の手段について認識のない場合でも、詐欺罪の共同正犯が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 甲又は乙において、丙と共謀の上、詐欺の実行行為を分担し、これに着手したる以上は、たとえ丙が単独に施したる詐欺の手段につき認識なき場合においても、共同の目的たる財物の騙取に対し、詐欺の罪を免るることを得ざるものとす

と判示しました。

大審院判決(大正12年6月5日)

 数人が共同して財物を詐取しようとするに当たり、各自が施した詐欺手段について認識がなくても、詐欺罪の共同正犯が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 甲乙両名共謀の上、人を欺罔して財物を騙取せんとするに当たり、甲がその情を告げて丙及び丁をして格別に欺罔行為をなさしめ、よって共同の目的たる財物を騙取したるときは、たとえ乙丙丁の両名において、直接に共謀したる事実なしとするも、甲を通じてその金員相互の間に犯意の連絡ありと見るべきものなれば、いずれも共同正犯として詐欺の罪責を免るることを得ざるものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和8年11月20日)

 輸送委託中の馬を斃死させ、賠償金名下に不当に高価な価格金を詐取することを共謀した場合に、斃死させる方法に差異を生じても、詐欺罪の共同正犯が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 甲乙共謀して、鉄道に馬匹の運送を委託し、その運送の途中、故意にこれを斃死せしめたる上、鉄道に対し、列車の衝動により狂奔したる結果、脳しんとうを惹起して斃死したる旨虚構の事実を申し向け、その賠償金名義の下に、運送委託の際、明告したる償格金を騙取せむとしたる場合において、乙の施したる斃死方法が甲と協議したる方法と相違するところありたるとするも、甲は、なお共謀として、その責に任せざるべからず

と判示しました。

大審院判決(昭和12年11月29日)

 詐欺を共謀した場合において、その一人によってなされた人を欺く手段の一部が他の共犯者の予期しないものであっても、詐欺罪の共同正犯が成立するとしました。

最高裁判決(昭和26年9月28日)

 数名の者が詐欺罪を行うことを通謀した以上、実行行為に携わらなかった通謀者は、実行者の具体的人を欺く行為の内容を逐一認識しなくても、詐欺罪の共同正犯が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人が、相被告人Bらと共謀関係にあり、被告人の実行行為を介して、自己の犯罪敢行の意思を実現したものと認められる以上、右相被告人の本件犯行時に被告人において不在であったとしても、また詐欺の相手方と面識がなかったとしても、被告人もまた詐欺の共同正犯としての責任を免れないのである

と判示しました。

東京高裁判決(昭和35年9月19日)

 詐欺賭博を行うにつき、共犯者と意を通じ、具体的方法の決定や実行については共犯者に一任していたものである以上、犯罪の実行に当たり、事前に通知を受けずその実行に関与していなくても、詐欺罪の共同正犯が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人が他の共犯者の詐欺賭博について、その計画、方法その他につき相談を受けておらず、具体的な協力関係はないから、共謀共同正犯とは認められないと主張するものであるが、およそ詐欺の共謀ありとするについては、共犯者の間において、相手方を欺罔し、金員を騙取するにつき、互いに意志の連絡あることをもって足り、必ずしも欺罔の方法、共犯者、共犯者の役割、その他につき具体的な共謀があったことを要せず、かつ実行行為を分担することを要しないものと解すべきところである
  • 記録によれば、被告人は、他の共犯者と事前にいわゆるイカサマ賭博の方法、各自の役割の決定の謀議に参加せず、かつ、その実行行為に直接関与しなかったけれども、同被告人が、A、B、Cらと暗黙の間に意志を連絡し、いわゆるイカサマ賭博をなす企図の下に被害者たるべきDを、A、B、Cらに紹介し、A、B、CらをしてDから賭博名義で金員を騙取するの実行行為に当たらしめ、騙取した金員の分与を受けたことを認めることができるので、詐欺の共謀ありとするに妨げなく、原判決が被告人を詐欺の事実につき共同正犯で問擬(もんぎ)したのは誠に正当である

と判示しました。

東京高裁判決(昭和43年6月27日)

 被告人らが、仕入れ商品の大部分を直ちに安価に売却して処分し、自己の会社の運転資金や自己の個人的用途に当てる目的であるのに、その情を秘して被害会社から商品を仕入れて詐取した事案です。

 被告人ら数人が話合いの上、会社経営上の苦境を打開するために、被害会社から商品を仕入れて、ダンピングした事実と、被告人らが、過去にダンピングによる失敗を経験したことのある事実から、取込詐欺共謀共同正犯が成立するとしました。

裁判官は、

  • 原判決は、共謀について、「被告人KとTは、被害会社への発注を担当し、被告人Wは、主としてダンピングを担当し、被告人Yは、全体の総括者的立場にあり、被告人Uは、特に担当部門は決まっていないという風に、各人の担当部門に違いはあっても、相互に相協力して本件詐欺を敢行する意思の存在は十分に認定し得る」とし、明確なる謀議がいつどのようにしてなされたかが証拠上認められなくても、主観的に客観的にも共同して商品を取り込んでいるという事実からして、共謀共同正犯の成立を認定せざるをえない説示しているのであるが、共謀の認定について看過し得ない点は被告人らの経歴である
  • 被告人Y、K、T、Uは、共に仕入商品をダンピングして失敗した経験があり、被告人Wは、被告人Yの下でダンピングによる経営を体得しているのである
  • しかして、被害会社との取引を始めるに至った事情は、H電気株式会社とジュース自動販売機の取引ができなくなった苦境打開策としてであり、被告人らが話合いを遂げた上のことであるから、その仕入商品をダンピングすることは当然なこととされていたと認められ、発注、荷受、ダンピングのための持ち込み、その代金の受領が、何人の抵抗もなく、流れる如く一連の行為として行われてきたのは、その故であると認められるのである
  • そこには、いつかは何とかなるという自己欺瞞的な気持ちと、誰かが何とかするという逃避的な気持ちとがあったと思われるのであって、いつ、どこで、どのように話し合われたというものではなく、行動を通じて相互の意思が伝わり合い、相互協力という行動として現れたものと認められるのである

と判示し、被告人らの共謀を認めました。

東京高裁判決(昭和31年5月1日)

 被告人ら複数人が共謀し、架空の殖産会社を営み、被告人自ら社長と称して掛金を騙取した所為につき、被告人が途中でその架空の殖産会社を退社したからといって、各契約者に対し、事後の掛金の振込を中止させる措置を講じない限り、その会社の勧誘員が引き続き収得した金員についても罪責を負わなければならないとし、事後に集金した分についても共同正犯として責任を負うとしました。

 裁判官は、

  • 被告人の弁護人は、被告人がN殖産株式会社を退任した以後において、勧誘員らが各契約者から収得した掛金については、被告人が責任を負うべき筋合いではない旨主張するけれども、既に被告人がSらと共謀の上、勧誘員らをして、Yほか数名に対し、虚構の事実を申し向けて、未成立の前記会社を既に成立した優良な会社であるものの如く誤信させて、株金日賦契約を締結せしめ、よって右契約者より逐次、約定の掛金を徴収したものであることが証拠上あきらかである
  • よって、その後において、被告人が一方的に同会社役員なる者に退任の意思表示をしたからといって、右契約者等に対し、爾後、掛金の支払を中止させるような措置を講じた形跡が全く窺われない以上、勧誘員等が引き続き収得した分についても、被告人において、その罪責を負わなければならない

と判示し、被告人の共謀からの離脱を認めず、事後に事後に集金した分についても、被告人は共同正犯として責任を負うとしました。

高松高裁判決(平成12年7月18日)

 交通事故を偽装した保険金詐欺事件において、被告人が保険金支払請求手続に関与せず、利益の分配にあずからなかった場合及び保険契約の存在自体を知らなかった場合でも、被告人に対し共謀共同正犯が成立するとしました。

 まず、被告人の弁護人は、

  • 被告人は、Aと共に自ら直接実行行為に及んだ犯行については、保険金支払請求等の実行行為に関する実行行為に関する謀議に参加したことも、実行行為を分担したことも、更には実行行為に及んだとの事後報告を受けたこともない上に、当該詐取に係る保険金から利益分配にあずかる意図も、現に利益分配にあずかった事実もないから、各犯行についても被告人に共同正犯の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼす明らかな法令適用の誤りがある

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 本件の実行行為たる各保険金支払請求手続とその準備行為ある偽装事故の関係及び各人の支払請求手続相互の関係並びにそれらへの被告人の関与の態度を総合して考察すると、被告人らは、それぞれ、実行行為前の不可欠の準備段階において行為を共同している上、実行行為の段階においては、自ら行う保険金支払請求手続にあたり、他の者も各自の支払請求手続を行うことを必要としているのであり、相互に利用し合う関係にあるということができるから、他の者の行う支払請求手続については、これを自ら行うわけではないけれども、なお自ら行ったのと同視することが可能である
  • したがって、被告人らは、互いに他の者の行った各保険金支払請求についても、共謀共同正犯の責任を問われて然るべきものといえるのである

と判示しました。

札幌高裁判決(昭和61年3月26日)

 海外先物取引の受託会社の経営者(被告人T)と幹部(被告人M)について、営業員との会社ぐるみの共謀による詐欺罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 本件詐欺は、個々の営業員の独走によるものなどといえないことが明らかであり、営業員による多数の者に対する勧誘行為の中には当然本件のような詐欺行為が行われるであろうことは、被告人T、被告人らにおいても当初から分かっていたことであるが、被告人Tは、その一連の言動によって本件詐欺を誘致し、被告人Mは、積極的に被告人Tの方針に参画して営業を進めていたものであり、各犯行を実行した経営者らにおいても、会社幹部の方針を体して委託者の勧誘にあたり、後日、紛議が生じても、他の幹部がその処理をすることもあって、比較的抵抗感がないまま、高い歩合給の獲得を目標とし、海外旅行の得点にもひかれて本件詐欺に及んだものと認めることができる
  • そうすると、被告人Tの方針を被告人Mが受け入れて、その間に順次共謀が成立した上、同被告人らと本件詐欺の実行行為者である各営業員との間の共謀は、少なくとも昭和56年2月23日頃、交易事務所における説明会において成立したものと認定することができる

と判示し、会社経営者と幹部に対し、詐欺の実行行為をして営業員との共謀があったと認定し、詐欺罪の成立を認めました。

大阪地裁判決(平成元年3月29日)

 豊田商事によるファミリー商法(客は金の地金を購入する契約を結ぶが、現物は客に引き渡さずに会社が預かり「純金ファミリー契約証券」という証券を代金と引き替えに渡す形式で客から金を得る商法)について、豊田商事の取締役らに、顧客ら4062人に対する被害総額137億円余りの詐欺罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人ら(豊田商事の取締役ら)は、いずれも豊田商事の主要役員である
  • 本件のような大規模犯行は、豊田商事の組織力を利用してこそ初めてなし得たものである
  • 豊田商事の会社組織が大きくなってからは、むしろ被告人らの力が集金組織としての豊田商事の機構の中で大きな働きを有していたというべきある
  • 被告人らは、いずれも豊田商事の最高幹部として、その組織の中で枢要な地位を占め、本件犯行にとって不可欠の各部門の運営を担当し、自ら高額な報酬等を得るため、組織の中枢にあって、ファミリー商法を推進し、本件犯行を指揮してきたものである

旨判示し、被告人ら取締役に対し、犯行の重要な役割を果たしていたとして、詐欺の共謀を認めました。

津地裁判決(平成5年5月18日)

 会社ぐるみの詐欺事件で、登記簿上の代表取締役に対し、詐欺罪の共謀共同正犯の肯定し、詐欺罪の成立を認めました。

 同時に、営業他課の課長や営業マンの実行した詐欺については、共謀共同正犯の成立を否定し、他課の営業課課長に無罪を言い渡しました。

 裁判官は、

  • 会社ぐるみで詐欺を行っているような場合においては、そのことを認識しながら代表取締役の役職に止まる以上、部下の行った詐欺行為についても、部下の行為を利用して自己の犯罪を実行したと認めるに支障はなく、詐欺罪の刑責を負うべきである
  • 被告人において、会社ぐるみで詐欺を行っているということを認識していたことは、証拠関係によって優に認められ、更に被告人が前期の役職に止まったのみならず、上司の意向を部下の各営業課長に伝達し、部下の営業課長や営業課長員を指導するなど、現実にも営業部員の統括に当たっていたことが明らかである
  • したがって、被告人は、本件犯行につき、自己が営業活動として実行した犯行はもとより、実行に関与しないその他の犯行についても、共謀共同正犯者としての刑事責任を負うことは明白である

と判示し、代表取締役に対する詐欺罪の共謀共同正犯を認めました。

 また、この事件において、他課の営業課課長について、裁判官は、

  • 会社ぐるみの詐欺の事犯において、そのことを認識しているだけで、単なる各営業課の課長や係長が、自己の直属の部下である各課員や各係員の犯行につき刑事責任を負うことは格別、他の課の課長やその構成員の犯行、自己の上司の犯行につき刑事責任を負うことには疑問がある

とし、営業他課の課長や営業マンの実行した詐欺については、共謀共同正犯の成立を否定し、他課の営業課課長に対しては無罪を言い渡しました。

詐欺罪の共同正犯が否定された判例

広島高裁判決(昭和29年4月21日)

 被告人は、甲が乙より金員を詐取するに際し、甲の依頼を受け、丙の妻と偽り、乙より金員を受領したが、基本たる甲の詐欺の事実を知らなかった事案について、被告人に対し、詐欺罪の共同正犯は認められず、詐欺罪は成立しないとしました。

 裁判官は、

  • 被告人が、丙の妻であると詐称し、乙から金員を受け取り、乙においても、被告人が丙の妻と信じたがため、これを交付したものであったとしても、被告人において、甲の基本たる詐欺の事実を知らなかった以上、本件詐欺の犯意があったということはできないのである

と判示し、被告人に対し、詐欺罪の共同正犯は認められず、詐欺罪は成立しないとしました。

東京高裁判決(昭和34年7月30日)

 種畜場係員が、予算枠外支出の赤字補填のために、架空の請求書により予算を流用するに当たり、その種畜場係員より依頼を受けた業者である被告人が、架空の納品代金請求書を出納係員に提出し、金員の交付を受けても、それ単純に予算のやりくり操作と考え、少しも違法の措置とは思い及ばなかったものである場合、被告人に詐欺の犯意はなく、詐欺罪の共同正犯は認められず、詐欺罪は成立しないとしました。

東京高裁判決(昭和42年9月21日)

 会社事務員が人を欺く行為そのものに直接関与しておらず、会社役員の指示により注文書などの作成・商品の受領等に関与したにすぎない場合、会社事務員に詐欺の犯意はなく、詐欺罪の共同正犯は認められず、詐欺罪は成立しないとしました。

東京高裁判決(昭和57年12月21日)

 刀剣類のブローカーをしていた被告人が、 同業者が無銘の日本刀を重要美術品に認定された高価な日本刀のように装って顧客から金員を詐取するものであることを知りながら、同業者にその日本刀を売り渡しても、その同業者が欺こうとする相手方や欺く方法、時期などについては何も聞かず、日本刀を売り渡したほかはその犯行につき何ら介入、関与せず、その事後報告も受けていないし、詐取金員の配分も受けていないときは、詐欺罪の共同正犯は認められないとして、第一審判決を破棄し、詐欺の幇助犯の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人についてみれば、被告人が日本刀や重要美術品認定通知書用紙をHに売り渡し、右日本刀を重要美術品として認定された刀であるかのように装うことをHに勧めるなどし、本件各詐欺の犯行の実現につき相当程度寄与していることは明らかであるけれども、各詐欺の実行行為そのものを分担したものとは認められず、また、Kとの間で各犯行につき共謀があったと認めることも困難というべきである
  • いわゆる共謀共同正犯の要件である共謀が成立したといい得るためには、単に他人が犯罪を行うことを認識していたというだけでは足りず、二人以上の者の間において、互いに他人の行為を利用して各自の犯意を実行しようとする共同意思が存在していなければならないと解される(最高裁昭和33年5月28日判決)ところ、被告人は、Kが欺罔しようとする相手方や欺罔の方法、時期などについては何も聞かず、日本刀などを売り渡したほかは、Kの犯行につき何ら介入、関与せず、Kから事後報告も受けていないし、騙取金員の配分も受けていないのである
  • これら諸点からすれば、被告人にKの行為を利用し、Kと共に詐欺罪を行おうとする犯意があったとは認め難いといわなければならない
  • 被告人は、本件の以前から偽造した重要美術品認定通知書など日本刀と共にKに売り渡していたものであり、そのような経緯からも、また、本件において売り渡した日本刀などの代金を取得するためにも、Kの犯行が成功することを望んでいたものと認められる
  • しかし、そのことを考え合わせても、被告人にKとの共同犯行の意思があったものとみることはできないのであって、そのほか、記録全体を検討しても、Kに共同正犯としての罪責を認めるべき証拠は不十分であるといわざるを得ない

と判示し、被告人に詐欺罪の共同正犯は認められないとしつつも、Kに対し、日本刀及び重要美術品認定通知書を売り渡し、Kの詐欺の犯行を容易にさせて幇助したとして、詐欺の幇助犯が成立するとしました。

仙台高裁判決(平成15年7月8日)

 保険金殺人の事案で、殺人に関与した者について、保険金詐欺の共同正犯までは認められないとしました。

 裁判官は、

  • 原判決は、最初に車内でEから殺害の手伝いを依頼され、それを承諾した時点で、被告人Dに、殺人のみならず、保険金詐欺についての共謀も成立したと認定しているが、保険金関係についてはほとんど知らされていない時点において、保険金詐欺の共謀を認めることは困難である
  • 殺害を手伝った報酬は、保険金からEが取得する分け前からもらえると言われたものの、その金額は明白に決められず、後から支払うと約束されたに過ぎないこと、被告人Dは、自ら高い報酬を欲して、殺害したときに出る保険金がいくらくらいなのか探ったり聞こうとしたりせず、また、他の共犯者らが殺害後も、早期に死体が発見されて保険金を手中にできるよう種々の工作を行うことまでしているのに、被告人Dは、殺害後の保険金取得には全く関与せず、関心も特に示していないこと、被告人B、同C、Eの間では、互いに保険金の分け前について話をし、殺害後も保険金請求について連絡し合うなどしているが、被告人Dに対しては、その報酬はEの取り分から支払われるものと承知して、他の共犯者らには取得した保険金を被告人Dに分配するという意識がなく、そのための行動もとっておらず、当初から保険金取得のために一緒に行動するという意識がなかったこと、被告人Dは、殺害手伝いの報酬として保険金の分配を請求したりすることなく、報酬として100万円をもらっているが、それは保険金からのEの分け前から更にもらったものであり、金額としても他の共犯者に比べて格段に低いこと、がそれぞれ認められる
  • そうすると、被告人Dについては、被害者殺害後の保険金取得について特に積極的な関心を持っておらず、保険金取得のため自ら一役買おうとの意識を持っていたとは認められないのである
  • 被告人Dは、Eからの誘いに応じて殺害への加担を承諾した後、クロロホルムによって意識を失っている被害者を自動車ごと海中に転落させる行為に自ら手を貸すまでには、被害者を事故死に見せかけて殺害するということは認識していたものと認められ、被告人Bら他の共犯者らが保険金を取得する目的で被害者を殺害しようとしていることを承知しつつ、その殺害行為に加担したとは認められるが、それ以上に、自らも他の共犯者らと一体となって保険金を詐取しようとの正犯意思をもって、詐欺の共謀をしていたとまでは認めることはできず、被告人Dについては、殺害行為に加担することにより他の共犯者らが行う保険金詐欺を容易にしたという幇助犯が成立するにとどまるものといわねばならない

と判示し、被告人Dに殺人罪の共同正犯は認められるものの、保険金詐欺の共同正犯までは認められず、保険金詐欺については、幇助犯が成立するにとどまるとしました。

福岡地裁判決(平成6年2月21日)

 設立当初からいわゆる客殺し等の詐欺的商法を行っていた海外商品先物取引の受託会社に途中入社した被告人に対し、入社後、一定の期間はその会社が詐欺的商法を行う会社であるとの認識がなく、また、共謀も認め難いとして、一定の期間内の犯行については無罪を言い渡しました。

 裁判官は、

  • 被告人が、入社時において、社長が客殺しや手仕舞い拒否等の方法で顧客に損取引を重ねさせることにより委託保証金を騙取することを企図していたことを認識していたと認めるに足る証拠はない
  • 被告人に犯意及び社長らとの共謀が存在することをうかがわせる証拠もあるが、これらをもってしても、詐欺の犯意を有しておらず、したがって、共謀もなかったとする被告人の公判廷における一貫した弁明を排斥することはできず、結局、証拠不十分といわざるを得ず、公訴事実については犯罪の証明力がないことに帰するから、刑事訴訟法336条後段により被告人に対し無罪の言い渡しをすることとする

と判示しました。

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