刑法(横領罪)

横領罪(46) ~横領行為の類型⑦「交付による横領罪」を判例で解説~

 横領行為の類型は、

①売却、②二重売買(二重譲渡)、③贈与・交換、④担保供用、⑤債務の弁済への充当、⑥貸与、⑦会社財産の支出、⑧交付、⑨預金、預金の引出し・振替、⑩小切手の振出し・換金、⑪費消、⑫拐帯、⑬抑留、⑭着服、⑮搬出・帯出、⑯隠匿・毀棄、⑰共有物の占有者による独占

に分類できます。

 今回は、「⑧交付」について説明します。

交付による横領罪

 委託物を委託の趣旨に反して他人に交付すれば、横領罪が成立します。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正4年4月24日)

 この判例で、裁判官は、

  • 自己の管理する他人の物件を不正に領得する意思をもって、殊更にこれを他人に引き渡したるときは、その引き渡しが権利移転の法律上の名義によると否とにかかわらず、横領罪を構成するものとす

と判示しました。

委託物の共犯者への交付は横領罪となる

 共犯者の一人が、その管理する他人の物件を、不正に領得する意思で、他の共犯者に引き渡した場合は、その引渡しが売買、贈与、交換等の権利移転の法律上の名義によるものであるか否かにかかわらず横領罪となります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正6年7月14日)

 この判例で、裁判官は、

  • 横領罪とは、自己の占有する他人の物を不正に領得する意思を現実にせしむる一切の行為をいうものにして、共犯者に対し、物を交付するの事実により、右不正領得の意思の実現を認めることを得るものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和8年4月11日)

 この判例で、裁判官は、

  • 自己の占有する他人の物を不正に領得するの意思をもって、これを共犯者に交付するときは、右不正領得意思の実現あるものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和8年5月2日)

 この判例で、裁判官は、

  • 他人の物の占有者と、その物を横領せんことを共謀し、両者の間において、ほしいままにその占有物を授受するは、横領罪の実行行為なりとす

と判示しました。

手形割引を委託された者の手形の無断裏書譲渡は横領罪となる

 手形割引を委託されて手形の交付を受けた割引周旋人が、委託者の明示又は黙示の許諾がないにもかかわらず、その手形を自己の債務弁済に充当する目的で他に裏書交付することは横領罪に当たります。

 この点について判示した以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和27年10月31日)

 この判例で、裁判官は、

  • 手形の割引とは、通常、手形の所持人が、その手形を他人に裏書讓渡し、その対価として手形金額中から満期に至るまでの利息その他の費用を控除した残額(割引金)を取得することをいうのであって、手形という有価証券の売買を目的とする行為にほかならないのである
  • そして、他人のために手形割引の周旋を為すものが、その目的のために、委託者から当該手形を受け取った場合は、その委託の趣旨に従い、手形の割引を為すものに対し、手形を交付して割引金を受領し、これを委託者に交付すべき義務があるのである
  • よって、手形の割引を委託されて手形の交付を受けた割引周旋人が、委託者の明示又は黙示の許諾がないのにもかかわらず、ほしいままに該手形を自己の債務の弁済に充当する目的をもって、他に裏書交付するようなことは、手形所有者を排除して、これをその経済上の用法に従い処分するものであるから、かかる行為は直ちに横領罪を構成する
  • 右処分当時、周旋人において、後日、割引金に相当する金員を委託者に返還する意思があったかどうかというようなことは、右横領罪の成否に何らの影響を及ぼすものではないというべきである

と判示しました。

恐喝を受けて他人の財物を交付したときは横領罪が成立する

 恐喝を受けて他人の財物を交付したときにも横領罪が成立するとした以下の判例があります。

 この判例では、委託物を恐喝者に交付しようとすれば、相手が現実にこれを受領しなくとも横領罪は既遂となることも明示しました。

大審院判決(昭和6年3月18日)

 この判例で、裁判官は、

  • 他人の財物を占有する者が、恐喝を受けたるがために、これに基づき自己の占有する他人の財物を不法に恐喝者に交付せんとする行為あるにおいては、不法領得の意思実現せりというべきをもって、恐喝者において現にこれを受領せざるも、横領罪は完成する

と判示しました。

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